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第三十六章 二学期はっじまるよ~☆
原点回帰
しおりを挟むミハイルの秘密を知った花鶴は、なんだか嬉しそうだった。
「そっかぁ~ ミーシャってそういう趣味があるんだぁ~」
ちょっと誤解している気はするが、ちゃんと女装のことは黙っておくと約束してくれた。一応、その場をしのげたことで、ホッとする。
「理解してくれて礼を言うよ。花鶴」
俺がそう言うと、なぜか彼女の顔から笑みが消える。
「あんさ~ 前々から思ってたんだけど。なんであーしのことだけ、上の名前なん?」
「いや……別に意味はないが」
「なら、ここあって呼んでよ! ミーシャもリキも下の名前で呼ぶくせに、ダチじゃないの? あーしとオタッキーって!」
そういう事か……。花鶴という人間は友情を大事にするんだな。
ならば仕方ない。ミハイルの秘密も共有する仲だ。
彼女とも親しくしておくべきか。
「わかった。今度からお前のことも、下の名前で呼ぶ。それで良いか? ここあ」
「うん♪ マブダチぽい。ね、オタッキー」
そう言って満面の笑みで俺を見つめる。
てか、マブダチならこっちも下の名前で呼べよ!
※
その後、三人で仲良く昼食を取って、チャイナタウンをぶらぶらする。
服屋とか雑貨屋が多いから、俺たちが遊べる店は少なかった。
ミハイルが言っていたパンパンマンの乗り物もここのゲーセンにはなく、ガッカリしていた。
仕方ないので、駅に向かって帰ることに。
彼らの地元である席内駅に列車が着くと、ミハイルとここあは「バイバ~イ」と手を振って降りていった。
列車が動き出しても、ホームに立ったまま笑顔で俺を見送る。
なんだかガキぽい奴らだと苦笑するが、悪い気分じゃない。
ジーパンのポケットからスマホを取り出し、アドレス帳を開く。
この半年で登録数の桁が1つ増えた。
両親と妹、それに仕事関係ぐらいの人間しか、存在しない希薄な人間関係のアドレス帳がどんどん変化していく。
ミハイルに始まって、女装したアンナ。
それから、現役JKのひなた。あとは腐女子のほのか。
自称芸能人のあすか。
10年ぶりに再会したマリア。
ダチのリキ。
そして、今日新たに追加されたのは、ギャルのここあ。
チャイナタウンで、今後、ミハイルの秘密を守るためにと、連絡先を交換したのだ。
あくまでも、ダチのために。
別に電話をかけるわけでもないのに、眺めているだけで自然と口角が上がる。
俺もぼっちから卒業できそうなのかな……。
と思っていると、目的地の真島駅にたどり着く。
自動ドアが閉まりそうだったので、急いでホームへと走り抜ける。
乗り過ごしするところだった……と冷や汗をかく。
すると、手に持っていたスマホがブーッと震える。
長い振動だったので、電話だとすぐに分かった。
着信名は、アンナ。
「もしもし」
『あっ、タッくん☆ 今、真島だよね?』
当たり前だろ、とツッコミを入れたかった。
だってついさっきまで一緒にいたし、時刻表を見れば、俺が今真島駅に降りることは、容易だからな。
ストーカー並みで怖い。
「ああ……どうした?」
『あのね、この前のマンガをお家で読んでたら、タッくんとの最初のデートを思い出しちゃって……会いたくなってきたの』
噓つけ! 数分前まで一緒にいたろ!
「そ、そうか。じゃあ取材するか?」
『うん☆ 一番最初にデートしたカナルシティに行こうよ☆』
「良いな。で、なにをするんだ?」
『映画にしよ☆ あの時みたいに』
珍しいな、アンナにしては……。
「そうか。映画は大好きだからな、どんとこいだ。なにを観る?」
俺が尋ねると、彼女は大きな声でこう言った。
『ボリキュア!』
「……」
そうだった。今年は15周年で何かとイベントが盛りだくさんだと、アンナから話を聞いていた。
ところで、これってラブコメの取材になるんでしょうか。
僕には理解できません……。
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