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第三十六章 二学期はっじまるよ~☆
攻めのミハイル
しおりを挟む9月も終わりを迎える頃。
俺は朝食を済ませて、リュックサックを背負うと、地元の真島商店街を一人歩く。
秋に入ったというのに、未だ日差しは強い。
半袖のTシャツでもまだ暑く感じる。
自宅から数分歩いたばかりだが、わき汗が滲み出る。
リュックサックの中には、教科書やノートがたくさん入ってるし、重たくて苦行でしかない。
それでも、俺は真島駅へと進む。
夜明けに朝刊配達を終えて、寝不足だと言うのに、これから夕方まで一日帰れない。
ガッコウたるクソつまらん場所で、バカ共と勉強をするのだ。
ああ……早く冬休みが来ないかなぁ。なんて思いながら駅の改札口を通り抜ける。
小倉行きのホームへと降りて、列車を待つ。
古いタイプの普通列車だ。
横並びの対面式のソファー。
うわっ、これ苦手なんだよなと座り込む。
向こう側には、リア充感満載の制服組の男子が何人も座っていた。
大きなカバンをズラーッと床に並べて。
楽しそうにゲラゲラと笑っている。
無意識なのだろうが、大股開きで座っているから、態度が悪く見える。
見せつけられるこっちは、不快でしかない。
頭は今、流行りのヘアスタイルで、ワックスで整えちゃって。
時折、スマホのカメラで前髪を確認している。
女子かよ……って言いたくなるぐらい、意識高いね。
俺なんて、今朝、鏡もろくに見ないで、家から出たっていうのに。
そいつらを見て、寝不足で苛立っていた俺は、舌打ちをした。
こんな遊び感覚で、同じ高校へと向かうのかと思うと、反吐が出る。
だから、ガッコウてやつは嫌いなんだ。
そう思った瞬間だった。
プシューッと、列車の扉が開く。
着いた駅は、席内。
「あ」
自然と口から漏れる。
そうだ。忘れていた……学校は嫌いだが、あいつと会うことは……。
「タクト~! おはよ~☆」
ニッコリと笑うその子は、陽の光で照らされた金色の髪を輝かせる。
長い髪は首元で結い、纏まらなかった前髪は左右に垂らしていた。
世界的に愛されているキャラクター。ネッキーがプリントされた白地のタンクトップ。
小さなヒップにフィットしたグレーのショートパンツ。
真っ白な細い脚を2つ並べて、こちらに手を振っている。
その姿を見た瞬間、さっきまでの苛立ちは吹っ飛んでしまう。
「ああ……おはよう。ミハイル」
「うん! 久しぶりだね☆」
彼は俺以外、眼中などないようで、真っ先に隣りへと座り込む。
膝と膝はビッタリとくっつける超密接な間柄。
相変わらずの無防備さで、胸元がざっくりと開いたタンクトップを好んで着用している。
まあ男だから、別に良いのだろうが。
ミハイルは背が低いから、どうしても、俺の視点からすると、見えそうだ。アレが。
「……」
頬が熱くなるのを感じる。
そんなことを知ってか知らずか、彼はずいっと身を寄せてくる。
「あれ? なんかタクト、顔が赤くない? ひょっとして風邪?」
なんて上目遣いで、ぐいぐいと俺の顔をのぞき込む。
頼むからやめてくれ。
最近、ミハイルモードでも、俺の理性がおかしくなっているんだ。
このままじゃ……。
※
「ていうかさ、電車の中って寒いよね」
「そうか? 俺は冷房が効いていて、丁度良いが」
だって、まだ暑いし。
「タクトって暑がりなんだ……オレってさ。エアコンとかあんまり苦手なんだ…」
と唇を尖がらせる。
「ほう。初耳だな」
「だってもう9月だぜ? 正直、冷たくする必要ないと思うんだ。たいおん、ちょーせつっていうの? あれが難しいよ」
体温調節とか言う前に、あなたが露出度高めのタンクトップにショーパンだから、寒いんじゃない?
「はぁ……なんだか、身体が冷えちゃったよ」
ついにはガタガタを肩を震わせる始末。
「しかし、どうしようもないからな。赤井駅までもう少しだ。我慢しろ」
俺がそう言うと、ミハイルは細い両腕で胸を抱える。
「イヤだ! 寒いもんは寒いの!」
ワガママだな、こいつ。
「だったら、上着を持って来いよ……」
俺が呆れていると、ミハイルはブスッと頬を膨らませる。
「なんだよ……タクトは暑がりだから、寒がりの気持ちわかんないじゃん……あ、良い事考えた☆」
「へ?」
「タクトは暑がりなんだから、冷えたオレと合体すればいいんだ☆」
ファッ!?
が、合体ってあんた! セクロスする気!?
そう思った俺がバカでした……。
純粋無垢なミハイルが発案したのは、ただ単に身体と身体を擦り合わせるだけ。
まあ単純に言えば、俺の身体に抱きつくってことだ。
汗臭い俺の胸に顔を埋めて、満足そうに笑っている。
「うわぁ、タクトの身体って暖かい~☆ でも、ちょっと汗臭い~」
言わせておけば……。お前から抱きついたんだろうが。
「臭いなら離れてくれ。電車の中で、男同士が恥ずかしいだろ……」
「嫌だ~ だって寒いもん! 赤井駅に着くまで~」
一向に離れてくれないミハイル。
俺も彼に抱きつかれるのは、そんなに嫌じゃないが人目が気になる。
「ミハイル……ちょっと、もういい加減に……」
と言いかけた所で、彼が胸元から顔を上げて一言。
「ダメ?」
と甘えた声で呟く。
なんだ、この状況は……。
どこかで見たことある光景だ。
エメラルドグリーンの大きな瞳が2つ、こちらをじっと見つめる。
上目遣いで。
小さなピンクの唇は、ちょうど俺の心臓辺りに当たっていた。
はっ!?
わかったぞ……そうだ。これは、乳首責めってやつに酷似しているんだ!
グラビアアイドルとかのアメちゃんをペロペロしている動画で、知っている。
それに気がついた瞬間、俺は一言、彼に呟いた。
「了解した。離れてなくても良い」
「タクトなら、そう言ってくれると思った☆」
なぜ俺が彼のことを許したかと言うと、離れられないからだ。
今、離れると、車内の皆さんに俺の股間がパンパンだということが、バレてしまうからだ……。
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