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第三十三章 こいつ、カワイイか!?(ブチギレ)
アイドルだって人間なんです
しおりを挟む成り行きで上映会が始まった。
俺の後ろには、巨大なテレビモニターが壁に掛けられていて、その下にはDVDプレーヤーが設置されていた。
右子ちゃんがディスクを挿入し、録画されていた深夜番組『ボインボイン』が始まった。
俺はあまり見たことないが、福岡のローカル番組だとコマーシャルで存在は知っていた。
給湯室からおぼんを持ってきたのは左子ちゃん。
4つのマグカップと小さなお皿に洋菓子を載せて「お、お口に合うかどうか」と遠慮がちにテーブルの上に置く。
「ありがとう」
と礼を言うと、はにかんで笑う。
もうこの二人が推しでいいのでは?
※
『さあ今夜も始まりましたよ~! 福岡の23時はボインボイン~!』
モニターに映し出されたのは、若いローカル芸人だ。
福岡の芸人はどちらかというと、緩いお笑いが多く感じる。
なんというか、あまり毒を吐かない。
ロケ重視で美味しいと噂の飲食店にインタビューする……まあ食レポだ。
でも、そこからのし上がっていく芸人さんも多い。
今では東京で大活躍し、全国的に有名な大物芸能人へと化ける人もいるとかいないとか。
そんな福岡芸人の歴史を振り返っていると、画面は変わり。
『今日はレギュラーボインガールの長浜 あすかちゃんがお友達を連れてきてくれたんだよね~』
司会の芸人がひな壇に座る若い女の子たちへ話を振る。
全部で10人ぐらいのローカルアイドルが勢揃いだ。
悪いが誰も知らん。
『そ、そ、そうなんですぅ~ きょ、きょ、今日はぁ~ アタシの所属しているアイドルグループで新曲を歌わせてもらおうと思ってぇ~』
ガチゴチに固まってるじゃん、長浜のやつ。
『へぇ、そうなんだぁ。あすかちゃんってアイドルだったんだね! では準備できたら歌ってもらおうか!?』
おいおい、司会までアイドルって知らなかったのかよ。
『は、は、はいぃぃぃ!』
緊張しすぎだ。
そこから右子ちゃんと左子ちゃんが登場。
ステージと言っても、後ろに司会の芸人とひな壇の女の子が座っている。
テンポの悪い手拍子の中、BGMが流れ出し、三人がぎこちなくダンスを始める。
見ていてかなり辛い。
だって、後ろの芸能人たちが特に興味を示すことなく、死んだ顔で長浜たちを見つめている。
『も、も、もつもつ……ぐつぐつさせ、ちゃ、ちゃうぞ!』
グデグデやないか!
もうテレビ消して。
辛すぎる。おばあちゃん、これ見てまた泣いているんじゃないか?
10分間にも満たない映像だったが、すごく胸が痛かった。
あまりにも不憫で……。
こんなアイドル売れるわけないだろ。
リモコンでテレビを消した長浜が自信満々にこう言う。
「どうだった! ガチオタ。アタシたちアイドルの本気を見て、萌えたでしょ!? 推したくて課金しまくりたいでしょ!」
「……長浜。お前もうちょっと自分を見つめ直した方がいいぞ?」
「ハァ? 最っ高のステージだったでしょ!?」
最低最悪のライブでした。
苦言を呈した俺が見ても、長浜の自信が折れることはない。
むしろ、俺の反応に怒っているようだ。
だが他の二人はオドオドして、不安気だ。
「「あの、どこが良くなかったのでしょうか」」
綺麗に揃えて話すな、この子たち。
さすがに全部だ、とは言えない。
どこから改善したら良いものか。
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