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第三十三章 こいつ、カワイイか!?(ブチギレ)

かわいそうなあすかちゃん

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 三時間ほど経ったか……。
 延々と、長浜の出生から現在に至るまでのロングインタビュー。
 ていうか、一方的に俺が彼女から聞かされているだけのだが。
 口の動きは止まることを知らない。
「小学生の時なんて、運動会で毎年駆けっこで一位だったわね!」
「地元では、あすかと言えばアタシしか頭に思い浮かばないほどの有名人よ」
 などなど大半が自慢話。
 語り始めてまだ小学生の中学年なんだけど……。
 終わりが見えない。

 この間、俺はずっとノートパソコンに彼女の半生をタイピングしている。
 喋り方が尋常じゃないぐらいのスピードだから、キーボードを打ち込むのが苦行でしかない。
 ずっと黙っていたが、長浜の地元というワードが気になった。

「なあ。お前の地元ってどこだ?」
「アタシの地元? ググりなさいよ!」
 クソがっ!
 客なので怒りを堪えて、スマホで一々検索してみた。
 ウィキペディアには、俺たちが通っている一ツ橋高校がある白山しろやま市出身とある。
「ほう……長浜って一ツ橋高校の近くに住んでいるのか?」
「フンッ! 悪い? 田舎と言いたいわけ!?」
 急に怒り出しちゃったよ。
「いや悪いとか言ってないし、田舎とも言ってないよ。なんか意外だなと思ってな……アイドルってなんか都会に住んでいるようなイメージがあってさ。出身が白山でも売れるためには、博多辺りで暮らしてそうなもんだとばかり……」
 と言いかけた瞬間。
 長浜を更に怒らせてしまう。
「ハァ!? アタシは白山生まれの白山育ちなのよ! あそこに住んでいることが誇りなの! そんな地元を裏切るようなクソアイドルと一緒にしないで!」
「す、すまん……」
 この人。なんだかんだ言って郷土愛強いのね。

   ※

「長浜。大体の話は聞けた……が、1つ重要なことを聞けてない」
「なによ? そんなにアタシのことを知りたいの? キモいガチオタねっ!」
 別に知りたくないわ! 仕事だから聞いているだけだ!
「あのな……そう言う意味じゃなくて。お前が芸能活動を始めるきっかけを聞いていないんだよ。あと何故そこまでアイドルにこだわるのか、売れたいのか。お前の夢とする目標とか野望とか。物事には必ず始まりがあるはずだ。それを知らないことには、自伝小説も書きづらいんだよ」
 俺がそう説明すると、頬を赤くして視線を床に落とす。
 鬱陶しいぐらい自己主張の強い彼女にしては、珍しくしおらしい。

「そ、その……アイドルになりたい。なりたかった理由は……お、おばあちゃんが言ってくれたからよ……」
 予想だにしない答えに俺は驚きを隠せない。
「おばあちゃん!?」
「アタシって両親が幼い頃に離婚したじゃない?」
 いや、知らん。
 ウィキペディアに記載されている前提で話しやがる。
「ほう。おばあちゃん子ってやつか?」
「う、うん……離婚した理由はパパが浮気しちゃって。それでママが怒って別れるって言い出して……」
 案外重たい話だった。
「続けてくれ」
 タイピングを止めて黙って彼女の話を聞く。
「で、ママが白山にあるおばあちゃん家へアタシを連れて帰ってきたんだけどね……ママが『白山は田舎でつまらない』ってどっかへ行っちゃったの」
 まさかの毒親育ち!
 クソみたいな両親じゃないか。
 なんだか泣けてきた……。
「そうか……」
 反応にすごく困る。
「それから一人残されたアタシをおばあちゃんが大事に育ててくれたの……」
 身体をくねくねと動かして恥ずかしがる。
 なんだ。こいつにも可愛らしいところがあったんだな。
 ていうか、ハンカチないとこの話聞いてられないよぉ……。
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