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第三十二章 女装のヤンキーと片想いのヤンキー
来いよ~ 抱きしめてやっからよ~
しおりを挟む博多リバレイン。
中洲に建設された大型商業ビルだ。
老舗の高級デパートが開発に携わったこともあり、俺たち若者では中々入れないようなブランドショップや桁違いの飲食店などが多い。
正直、老人やマダムが良く買い物に来るイメージだ。
なにせ、あの歌舞伎役者で有名なカニ蔵が、毎年東京から公演に来るほどの格式高い劇場があるぐらいだ。
歌舞伎なんて見たことないが、チケット一枚の値段は、俺たち10代には手を出すのは難しいだろう。
だから、この施設はかなり金銭的に余裕のある客が多く感じる。
着ている服もブランド物ばかり。
しかし……近年、リバレインは大幅に改装が行われ、若年層にも人気の施設を次々と設けた。
と言っても、俺たちが入るにはかなり若い。幼すぎるもの。
エレベーターの音がチンと鳴り響く。
着いた階は5階だ。
自動ドアが開いた瞬間、聞きなれた国民的ヒーローの主題歌が流れだす。
『パンパン、マ~ン!』
そうだ。
ここはお子ちゃま向けのテーマパークだ。
リバレインモールの5階と6階にある。
エレベーターから出て、長い廊下を真っ直ぐ歩く。突き当たって左に曲がると、優しそうなお姉さんが二人、立っていた。
紺色のポロシャツにカーキのハーフパンツ。
見た目、保育士さんて感じ。
「ようこそ! パンパンマンミュージアムへ!」
「チケットはあっちの受付で買ってね~ いってらっしゃーい!」
なんてガキ扱いされてしまった。
ドン引きしている俺とは、対照的にアンナのテンションは爆上げ。
「きゃあ! カワイイ~! カワイイ~! ずっと来たかったの☆」
「そ、そうか……良かったな。夢が叶って…」(棒読み)
チケット売り場には、たくさんの家族連れで行列が出来ていた。
以前、アンナとデートした遊園地。「かじきかえん」よりも年齢層が低い。
ほぼ赤ちゃんレベルの幼児。
まだよちよち歩きで、親の介助がないと、すぐに転んで泣いてしまうほどだ。
遊びに来たというよりかは、パンパンマンに会いに来たというべきか。
ふと、周りを見渡してみたが、俺たちみたいなカップルらしき若者は誰もいない。
俺、何しに来たんだ?
※
ミュージアムに入ると、すぐにパンパンマンの着ぐるみがお出迎え。
レギュラーメンバー総出で。
パンパンマンはもちろんのこと、ヴィラン? で有名なキンキンマン。
他にも、じゃがおじさん。牛乳子さん。犬のマルチーズ。塩パンナちゃん。
ズキンちゃん。パキンちゃんなどなど。
鼻水を垂らした赤ちゃんとハイタッチ。
決して喋ることはないが、身振り手振りで来場したお友達に神対応。
俺たちの番が来た。
なんか他のお父さんお母さんに申し訳ないので、俺は少し離れた所で見ていた。
アンナは一人で猪突猛進!
「キャ~! カワイイ~! パンパンマン、ぎゅーして!」
言われたパンパンマンは特に嫌がる素振りも見せず、頷いて優しく抱きしめてあげる。
「……」
なにこれ?
一人、放心状態で立っていると紫色の着ぐるみがこちらに近づいてくる。
悪い子代表のキンキンマンだ。
強そうに胸を張り、大手を振って歩いている。
そして、俺の顔面にビシッと指を指すと、その場でイラついたように床をドカドカと蹴り出す。
「?」
彼が伝えたいことがいまいち、分からない。
すると、言葉こそ話はしないが。
「来いよ~」
なんて、手招きし出す。
「え?」
次の瞬間、思い切り抱きしめられた。
「ぐはっ!」
最初こそ強めに抱きしめられたが、すごく柔らかい。
なんだ、この感覚。とても優しい気持ちになれる。
しかも頭を撫でられるオプション付き。
キンキンマンって結構、良い奴なんだな。
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