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第三十一章 ラノベ・マンガ・BL! 三つ巴の戦い!
腐女子の落とし方
しおりを挟むBL編集部は、女性ばかりだった。
社員も漫画家もみんな。
30人以上はいるだろうか?
ゲゲゲ文庫より活気があるように感じる。
俺と白金は、倉石編集長に案内されて、応接室に通された。
いつも俺たちが打ち合わせしている薄い仕切りだけの簡素な場ではなく、分厚い壁で覆われた一室。
鍵付きのドアで厳重に管理されている。
これなら会話を他の人に聞かれる心配もない。
なんかラノベ作家より待遇が良すぎない?
部屋の中に入ると、ガラス製のローテーブルが目に入った。
それを囲むように大きなソファーが二つ。
見るからに座り心地が良さそう。
テーブルの上には、花瓶が一つ。真っ赤なバラが飾られていた。
「さ、琢人くん。適当に座って♪」
「ありがとうございます……」
「ケッ! 洒落た所だな、イッシー。編集長になったからって、調子こいてんじゃねーぞ」
なんて隣りに座る白金。偉そうにソファーに肩を回し、膝を組んで鼻をほじる。
テーブルを挟んで向い側に座る倉石さんは、謎の余裕でにこりと微笑む。
「ガッネー。大人げないわよ。所で今日はどういった要件? 琢人くんもBLデビューしたいの?」
誰がするか!
「いや……違います。白金に誘われて一度拝見したかったのと……あと、一つ相談があって」
隣りにいる面倒くさいロリババアをチラ見する。
案の定、白金が会話に入り込む。
「え? DOセンセイ。なんかラブコメの取材的なやつですか!?」
「ま、まあ。そんなところだ……俺のダチで腐女子に恋をしたヤツがいてな。一回振られているんだ。そこでBLのプロでもある倉石さんなら、何か答えが見つかると思ってな」
「うわっ……腐女子に恋したお友達ですか。ご愁傷様、ろくな恋愛できないですよ」
苦い顔して、目の前にいる倉石さんを見つめる白金。
だが倉石さんは、俺の話を聞いていて、とても嬉しそうだった。
「琢人くん。素晴らしいことだわ! 微力ながらこの私に任せて!」
グイッと身を乗り出して、鼻息を荒くする。
キモッ。
「お、お願いいたします……」
俺は、リキが恋した相手が、北神 ほのかであることを説明した。
ほのかは、この倉石さんが以前、コミケでマンガ家として才能を見出した腐女子でもある。
また、画力こそ低いとは言え、ストーリーを評価されたため、原作を担当することになった。現在、このBL編集部で彼女は預かり扱いだ。
今日は来ていないが、定期的に倉石さんから指導を受けているらしい。
「ふむふむ。変態女先生に恋をしたヤンキーくんか……」
そう言えば、そんなアホなペンネームだったな。
「あの……ほのかがリキの告白を断った時、今はBLで……絡めるのに忙しいと言ったんです。まだ脈はあるんでしょうか?」
俺の問いに倉石さんは眉間に皺を寄せて、しばらく考え込む。
沈黙を先に破ったのは、白金の方だった。
「くだらねっ。腐女子なんかのどこがいいんですか。あいつら、ルックスにうるさいでしょ? だからモテないっつーの」
と鼻をほじりまくる。
白金の暴言は止まらない。
「大体アレですよ。男なんて顔とかどうでもいいんですよ。玉と竿さえあれば、なんでもいいでしょ。あとは金」
こいつは男だったらなんでもいいのか。
ていうか、こいつこそ、誰からも相手にされない独身女のくせして。
倉石さんは白金の暴言を無視して、顎に手をやり、黙って考えこんでいる。
しばらくした後、何か思いついたのか、手のひらを叩く。
「琢人くん。今月、とある映画のリバイバルが上映されるのを知っているかしら? 古い映画なのだけど」
「え、映画ですか?」
「うん。“アルゼンチン愛レス”という作品。知っている?」
「ああ……見たことは無いですが、名作なので一応、知ってます」
それを聞いていた白金が俺に質問する。
「DOセンセイ、なんです? その映画って? 恋愛もの?」
「かなり古い映画だ。20年以上前の。確か同性愛者の純愛で。ラブストーリーに定評のある監督が制作してな。演じている俳優もイケメンで、当時かなり話題になったらしい」
「へぇ」
俺は倉石さんの狙いが分からなかった。
「倉石さん。あの映画と腐女子の攻略に何の関係があるんですか?」
「いい質問ね、琢人くん♪ 確かに腐女子はルックスに厳しい傾向があるわ。何を隠そう私の好みもかなりハードルが高いわ! 30代から40代の眼鏡が似合うサラリーマンが大好物。あ、ちなみにこれは受けのタイプね」
なんて人差し指を立てて笑う。
あれ? この展開、デジャブを感じる。
「ということは……攻めもあるんですか?」
「もちろんよ♪ 私なら60代ぐらいの執事がタイプね。中折れしそうなジジイをハイヒールでいじめぬいて、元気にさせるのが夢よ!」
とんだド変態だ。
しかもまさかの枯れ専。
「わ、わかりました……で、先ほどの映画は?」
「あら、ごめんなさい。ついタイプの話になると、びしょ濡れになりそうで……。話に戻るわね。聞く感じでは、きっとヤンキーくんのルックスでは、変態女先生は落とせないわ。ならば、ここは趣味で攻略すべきよ」
「趣味ですか?」
「うん。腐女子にとって一番辛い出来事。それは創作活動を許してもらえないことよ。でもパートナーがしっかりと、それを受け入れてくれたなら……いつかは隣りにいて、とても居心地の良い男性として、認めてくれる可能性があると思うの」
「なるほど」
一理あるな。
「で、上映される映画館なのだけど。中洲にある小さな映画館で、名前は『シネマ成り行き』だったわね♪」
ファッ!?
俺はその名前を聞いて、血の気が引く。
映画通なら一度は耳にする劇場だったからだ。
絶句する俺を見て、白金が首を傾げる。
「DOセンセイ? その映画館を知っているんですか? どんな所なんですか?」
「そ、それは……映画好きの俺でも行ったことのない所だ……。福岡市内の全劇場、シネコンを網羅した俺でも、あそこだけは……」
「ふーん。なんか芸術性の高いミニシアター系なんですかね」
倉石さん……何を考えているんだ?
困惑する俺を無視して、倉石さんはニコニコと嬉しそうに笑う。
「ヤンキーのリキくんには潜入取材をしてもらおうと思うの♪ 女性の変態女先生では、なかなか体験し辛い所だからね。ほら、体験談を彼が話せば、彼女の創作活動にもすごく励みになるわ。そこまでされたら、変態女先生も徐々に心を開いていくと思うの♪」
えぇ……。
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