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第三十章 おっしょい! 百万人のショタ祭り!
男の娘、漢の祭りに参加する
しおりを挟む俺は少数精鋭の特殊部隊により、強制的に宗像先生から引き離された。
タクシーの中で、アルファ隊員ことアンナは
「ほら、これで殺せたでしょ☆ 小説の世界でモブヒロインをちゃんと殺してあげてね☆」
なんて恐ろしい提案を出してくる始末。
隣りにいた相棒のブラボー、ひなたも便乗する。
「そうですよ~ アンナちゃんの言う通り、ヒロインは私たち若い女の子同士だけでいいよね~♪」
「ね~☆」
と二人して、俺の頭上でハイタッチ。
恐怖しか感じられなかった。
もうこの二人は敵に回したくない。
俺だけ先に地元である真島に降ろされた。
二人が言うには、
「もう二度と盗られたくない」
宗像先生を警戒しているらしく。
俺が自宅に入るまで、じっとタクシーの中から見守るほど、不安なようだ。
帰宅して、二階の自室から顔を出してみると、二人は安心したようで、手を振ってタクシーを出発させる。
その光景を目の当たりにして、俺は地元の商店街にこう叫び声をあげた。
「うちのヒロイン達……半端ないって!」
直後、スマホが鳴り出す。
着信名は、北神 ほのか。
なんだ。休む暇がないな。
「もしもし?」
『あ、琢人くん? 今、暇でしょ?』
勝手に決めつけるな!
めっちゃ忙しかったわ!
「まあ……今はな。要件はなんだ?」
『なんか怒ってる? あのね、明日の夜、12時の電車に乗らない?』
「は? 夜中の電車……終電しているだろ?」
『違うよ、明日はオールナイトで電車は動いているよ。博多だから』
ちょっと言っている意味がわからない。
「要件が見えてこない。ちゃんと説明してくれ」
『あのね。正確には明後日の朝方に、山笠の追い山をやるんだよね。それで取材になると思って』
「ああ……そう言えば、山笠のシーズンだったな。随分参加したことないし、確かに福岡を代表するお祭りの一つだ。小説の取材としては、面白いかもな」
なんか意外だ。
山笠の追い山と言えば、血気盛んな男たちが命をかけてまで、競い合うレースだ。
熱気というか、殺気さえ感じる。お祭り。
700年以上も続く伝統文化を、腐女子のほのかが見たいだなんて。
『なら、明日の夜に博多駅で集合しましょ♪』
「了解した。徹夜でお祭り気分か、楽しみだ」
『うん。追い山が始まる前に、中洲の無料案内所も取材に行こっか?』
「誰が行くか! じゃあな」
イラついたので、こちらから雑に通話を切ってやった。
散々な目にあったから、心身ともに疲弊していた。
二段ベッドの下で、妹のかなでは、卑猥な男の娘抱き枕を抱きしめて夢の中だ。
俺も寝るかと、梯子に手をかけた瞬間、再度スマホが鳴り出す。
「もしもし? 無料案内所は行かないと言っただろ!」
ほのかと思い込んでキレ気味に話す。
『あんないじょ? なんのこと、タクト?』
ミハイルだった。
ついさっきまで、アンナちゃんモードだったのに、こいつ瞬間移動できるのか?
「いや……こっちの話だ。要件はなんだ?」
『あのさ、夏休みだし、たまにはオレとも遊ぼうよ……。明日、一緒に“パンパンマン”ミュージアムへ行こうぜ☆』
「ブフーッ!」
思わず大量の唾を、自分の布団に吐き出してしまった。
15歳の男子が、あの幼児向けアニメの施設に遊びに行くだと?
しかも俺と?
「すまん。明日は先約があってな。ほのかとお祭りに行くんだよ」
『はぁ!? なんだよ、それ! お祭りとか……なんで、オレを誘ってくれないの……ひどいじゃん』
な、泣き出しちゃったよ。
「待て。ミハイル。お前は山笠という祭りを知っているのか? 出店が並ぶような一般的なお祭りとはちょっと違う。漢たちのレースを見に行くんだ。すごくお堅いお祭りだぞ?」
格好いいんだけどね。
『やまかさ? 知らなぁい~ でも、タクトがほのかと二人だけで行くのはイヤだ! オレも見てみたい!』
「わかったよ……ほのかのやつなら、別にミハイルが一緒でも嫌がらないだろう。なら、明日の夜、博多駅に集合できるか? ヴィッキーちゃんにも山笠だからと、しっかり説明しろよ」
『うん☆ ちゃんと、ねーちゃんに許可もらうよ。夜のピクニックみたいで、楽しそうだな☆ おやすみ、タクト!』
「ああ、おやすみ……」
夏休みなのに、休めてねぇ!
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