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第二十九章 女教師観察日記

先生とデート1

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 破天荒な宗像先生だが、さすがにハイボールを飲んだ直後なので、車には乗らず、徒歩で近くの赤井駅に向かうことにした。
 だが、片手にはストロング缶を持って歩く。

「ぷっは~! 良いよなぁ、こう暑い日に愛すべき生徒と共に、健康的なウォーキングデートか。新宮、ちゃんとここ覚えておけよ、小説に使えるだろ?」
 使えるか!
「いや……無理だと思いますよ。というか、本当にパチンコへ行くんですか? 俺、高校生ですよ」
 俺がそう苦言を呈したが、宗像先生は聞く耳を持たず、下品に笑う。
「はーっははは! 大丈夫だっての! この蘭ちゃん先生がそばにいるんだから、安心して、先生のおっぱいに顔を埋めなさい!」
 と言って、頼んでもないのに、気持ち悪い巨乳に俺の顔を押し付ける。
 水着だから、生乳だし、汗もかいている。
 より吐き気が増す。
「先生……ちょっと、やめてもらっていいですか……鳥肌が……」
「なんだぁ? もう興奮しちゃったのか? いいぞ~ 今夜、私がお前を男にしてやっても?」
 自分のことを良いように解釈するな!
「はぁ……」


 赤井町は福岡県の北東部、白山しろやま市の中央に存在する地区である。
 元々、福岡県白山郡赤井町だったのだが、色んな村や町が合併を繰り返し、近年、白山市となり、大きな街になった。
 多分、『市ブーム』だったのだと思う。
 福岡県は、福岡市と北九州市がビッグネームすぎて、他の地域は、何々郡というのがダサい、田舎臭い、じゃあ名前変えようぜ! 的なノリで、市になった気がする。
 ミハイルが住む席内市もそうだ。
「波に乗れ、市にぃ~」
 みたいな感じで、流行りだったのだと思う。

 けど、街自体は、とくに変わらない気が……。

 なんて福岡の歴史を振り返っていると。
 赤井駅にたどり着く。
 駅の長い跨線橋を渡って、反対側に降りると、『くりえいと白山』が目に入る。

 白山市の代表的な場所だ。
 20年ぐらい前に開発された複合商業地域であり、またそれを囲むようにたくさんの住宅街が並ぶ。
 赤井町で遊ぶなら、このくりえいと白山が一番だ。

 スーパーのダンリブ、ゲームセンター、100均ストア、飲食店、生活家電、文具……などなど、なんでもありの巨大ショッピングモールだ。

 もちろん、宗像先生の言うパチンコ屋も複数出店している。

「よぉし! 新宮! 勝ちに行くぞ! 酒のみ代が欲しいからな!」
 こんの野郎、やっぱり俺を財布代わりにしやがって。

 宗像先生は俺の腕を掴んで、強引にパチンコ屋へと連れて行く。
 店に入るや否や、すぐに台を決め、俺も隣りの台で一緒に打てと言う。
「ほら、取材だろ? 早く回せ!」
 俺の意思は関係なく、玉貸し機にお札をぶち込まれて、俺の台にも玉が転がってきた。
「先生、まずいでしょ……」
「バカヤロー! 昔から偉人には総じて特徴があるのを知らないのか? 新宮、お前はそれでも作家の端くれか? 飲む、打つ、買う。これを極めない限り、お前は文豪にはなれないぞ?」
 なに真顔で変なウソをついてんだ、このバカ。
「俺は別に、文豪なんて目指してないですよ……」
「ごちゃごちゃ言うな! さ、回すぞ! フルスロットルだ!」
 勝手に回転しとけよ


 しばらく、無言で回し続けること、30分。
 俺の台は大当たり。
 わんさか出るわ出るわ……。
「やるじゃないか! 新宮、お前センスあるわ!」
 隣りでガッツポーズをとる宗像先生。

 近くに立っていたスタッフが俺達に気がつく。
「ちょっと~ 宗像先生じゃないっすか~ 先生はもうこの店、出禁って店長から言われたでしょ?」
 金髪の若い男性が、嫌なものを見てしまったという苦い顔で、声をかけてきた。
「あぁん!? うるさいな、お前……私が来てやったんだ。儲かってしょうがないだろ?」
 どうやら、先生とは顔見知りらしい。
「そりゃ……宗像先生っていつも外ればっかだから、儲かるのは事実っすけど。何回も俺に玉をせびるじゃないっすか? だから店長が出禁にしたんでしょ?」
「なんだと、コノヤロー!? お前、それが恩師に対する態度か? 玉の一つや二つ。男だったら、わけないだろ。もっと出せ!」
 酷い恫喝だ。
「勘弁してくださいよ。俺、もうクビになりそうですよ。いつまでも、生徒と教師の間柄じゃないんですから……」
 どうやら、一ツ橋高校の卒業生のようだ。

「はっ! この店に就職させてやったのは、誰だっけ?」
「え、それは宗像先生っす……」
「だよな! じゃあ、玉をよこせ! はーっははは!」
 鬼だ。
 お兄さん、涙目で新しい玉をたくさん追加してくれた。無料で。
 その際、俺にだけ聞こえるぐらいの小さな声で囁く。

(君、一ツ橋高校の子でしょ? この人と付き合うとろくな人生おくれないよ)
(肝に銘じておきます、センパイ)
 俺は黙って頷き、その先輩と硬く握手を交わした。
 同じ被害者同士として……。
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