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第二十七章 ひとりぼっちの夏休み ?

カップルはどこでもイチャつきやがる

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 重量オーバーなこともあり、電車はノロノロ運転で博多へと進んだ。
 いつもの倍の時間を要する。
 1時間ぐらいかかった。

 博多駅に着くと、そこから地下へと降りて、福岡市が運営する地下鉄に乗り込む。
 大濠公園駅で降りれば、あとは花火大会の会場まですぐだ。

 と、言いたいところだが、そうはいかない。

 俺とアンナが大濠公園駅で降りたが、一向に脚を進めることはない。
 いや、身動きが取れないのだ。

 列車から降りると、大勢の人々で駅から大行列。
 地下から出ることができない。
 それは他の人間も同様だ。
 一歩進んだと思ったら、また立ち止まる。それが延々繰り返される。
 地下から地上に出るまで、なんと45分もかかった。

「なんなんだ? 高々、花火ごときでこんなお祭り騒ぎなのか? バカじゃないのか、こいつら……」
 あまりにも時間がかかるので、俺はイライラしていた。
 それを見たアンナが、俺の肩に優しく触れる。
「タッくん。そんな怖い顔しちゃダメだよ☆ こういうのは、雰囲気を楽しまないと☆」
「楽しむ? これ苦行じゃないのか?」
 俺はこういうこと、未経験だから彼女の言う、楽しみ方とやらが理解できない。
 行列と言えば、コミケぐらいしか経験ないし。

「じゃあさ、こういうのはどう? 彼氏と彼女は仲良くしていると、どんな所でも二人の世界に入れるっていうの☆」
「は? つまり、どういうことだ?」
「こう、するの☆」
 何を思ったのか、アンナは俺の左手を握る。
 ただ手を繋ぐわけではない。
 互いの指と指を絡み合う手つなぎ。
 なっ!? こ、これは俗に言う恋人繋ぎというやつでは!?

 思わず頬が熱くなる。
「あ、アンナ!? いいのか、こんなことして?」
「だって、タッくんってさ。ドキドキする体験をしたら小説に使えるかなって☆ これも取材だよ☆」
 緑の瞳がキラリと輝く。
 繋いだ手をちょっと宙に上げて見せ、「ねっ?」と微笑む。
「ああ……確かに。待ち時間も二人なら楽しめてしまうのか、カップルてやつは」
「ふふ☆ あ、そろそろ公園が見えてきたよ」

   ※

 結局、博多駅を出てから会場に着くまで一時間半もかかった。
 で、肝心の会場である大濠公園なのだが。


 元々は福岡城の外堀であって、その城跡を再利用し、舞鶴まいづる公園と大濠おおほり公園として市民に長年愛されている。
 巨大な湖を中心にして、周辺に様々な施設が設置されている。
 ちょうど公園を一周すると二キロぐらいあるので、サイクリングやジョキングとしても利用されるし。
 春には桜並木が立派に咲き誇る。
 他にも池にボート。
 また、かの有名なマリリン・モンローが新婚旅行で立ち寄った老舗の高級レストランもあるらしい。

 と、ここまでは、歴史ある都市公園なのだが……。

 いつもなら、スタスタと中に入って、湖を泳ぐ留鳥や渡り鳥を目にするはずなのに。

「なにも見えん!」

 お祭りの醍醐味とも言える屋台ですら、近づけないほど、人混みでなにも見えない。
 背伸びしても、公園の内部が確認できない。

「はぁ……これじゃ、花火大会の取材にならんぞ」
 俺が愚痴を吐いていると、アンナが苦笑する。
「はは。仕方ないよ。それだけ、みんなこの花火大会が大好きなんだよ……」
「しかし、これじゃ花火を近場で見れんぞ?」
「う~ん……あ、あそこなら見れそうじゃない!」
 そう言ってアンナが指差したところは、湖からだいぶ離れた茂み。
 正直、暗いし蚊も飛んでいるし、ゴミも地面に転がっているし……。
 ムードなんて皆無だ。
 しかも、数日前に雨が降ったこともあって、芝生がちょっと濡れている。

「あそこから花火を見るのか?」
「うん☆ ほら、さっきも言ったけど、カップルはどこでも楽しめるでしょ☆」
 そう言ってウインクしてみせる。
「まあ、アンナがそう言うなら……」

   ※

 ドーン! と大きな音と共に、夜の空に煌びやかピンクの花が描かれる。
「たまや~ かぎや~」
 なんて叫べれるか!

 花火が遠すぎる。
 これなら、どっか近くの高層レストランで晩飯食ったほうが、キレイに見えるだろ。

「アンナ。なんかショボくないか?」
「ううん☆ そんなことない。大事なのは、タッくんと初めてきたこと。初めて見れたことなんだから」
 そう言って、瞼を閉じ、胸の前で手を組んで見せる。
 この空間を彼女なりに楽しんでいるようだ。

 しかし、かれこれ一時間ぐらい立って、花火を観ている。
 ちょっと疲れてきた。
 座りたいところだが、地面が汚い。
 
「お、そうだ」
 俺はジーパンの後ろポケットから、タケノブルーのハンカチを取り出し、芝生の上に置いてみる。
 そして、アンナに声をかける。
「なあ。疲れたろ? これに座ってくれ」
「え?」
「せっかくの浴衣が汚れちゃ、後味悪いだろ? 俺のハンカチは洗えばいいんだから」
 俺がそう言うと、アンナは遠慮がちに腰を下ろす。
 だが、その顔はどこか、嬉しそうだ。

「ありがと、タッくんって優しい☆」
「男として当然のことをしたまでだ。アンナは女の子だからな」
 しれっと紳士アピールしておく。

 って……あれ?
 隣りにいる浴衣美少女は、少年だったぁ!
 俺ってば、洗脳されてるぅ!
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