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第二十六章 真夏の夜の部

このあと、美味しくいただきました!

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 夜臼先輩から、合法的に買い物を済ませた俺とアンナは、仲良くかぼちゃの馬車の前で、アイスを食べることにした。
 一つのアイスを交代でパクッと食べては、相手に「ハイッ」と口に向ける。
 あれ……普通に、間接キスどころか。唾液交換してない?
 な、なんだか、興奮してきた。

 アンナと言えば、そんな俺のやましい気持ちなど知らず……。
 イルミネーションを子供のように、喜んで見ている。
「キレイだねぇ、タッくん……。なんか『夢の国』の世界みたい~☆ こんな景色を見ながら、タッくんと一緒にアイス食べれて、幸せぇ☆」
 そう言いながら、視線は落とさず。
「ペロッ、んふっ。ペロペロッ……ごっくん!」
 というエロい咀嚼音。

 ヤバいヤバい、俺の理性さんがどこかに旅立ちそうだぁ!
 アイスは夜臼先輩の計らいで、左側がチョコ、右側がバニラだ。
 だが、アンナの視線は、イルミネーションに釘付けのため、『境界線』からはみ出て、食べてしまう。
 真っ白なバニラのクリームに、赤い口紅の色が混ざる。

 こ、これは!
 自然現象によって起きたラズベリーアイスだ。

 思わず、生唾を飲み込む。

「ハイッ。タッくんの番だよ?」
 コーンを口元に近づけるアンナ。
「ああ。い、いただきますぅ!」
 なぜか敬語でかぶりつく。
 舌の中でとろけるバニラクリームと、ほのかに残るルージュの香り……。
 なんてこった。
 超おいし~♪

「どうしたの、タッくん? やけに嬉しそうだね?」
 見透かされたように感じたので、咳払いでごまかす。
「お、おっほん! いやぁ、幻想的な夜景と共に、食べるアイスは格別だと思ってな。小説の取材に使えそうだ」
 そして、俺のおかずにも!
「なら良かったぁ☆ アンナも一緒に来た甲斐があったよぉ」
 無邪気に笑う彼女に、妙な罪悪感を感じる。

   ※

 アイスを食べ終えて、しばらくイルミネーションを眺めたあと、俺たちはホテルの中に入った。
 ホテルにも土産屋が数件あって、アンナが見ていきたい、と言ったからだ。
 彼女は店の中で、主にお菓子やぬいぐるみなどを物色していた。
 俺と言えば、こういうのにあまり興味がないから、ちょっと離れた場所から、アンナを見つめている。

 ふと、振り返ると、ロビーが目に入る。

 夜の10時を過ぎたせいか、辺りは静まり返っていた。
 フロントも夜勤のスタッフが一人いるぐらい。
 客はみんな自室に戻ったのかも。

 そう考えていると、二人の人影が目に入る。
 フロントの反対側にチェックインなどの際に、客が待機するスペースがある。
 ソファーがいくつもあって、そこで受付や会計を待つ時に使うものだ。

 今は夜遅いから、もう客などいないのだが。

 浴衣姿の男女が二人。
 スキンヘッドの大男とショートボブの小柄な女。
 少し離れた距離で、肩を並べて座っている。

「ん、あれ。リキとほのかじゃないか……」

 そう呟くと、いきなり背後から誰かが囁く。

「ホントだ……リキじゃん」
 
 振り返れば、怪しく微笑むアンナが。

「アンナ? お前、なんでリキの名前を知っている?」
 さりげなく、突っ込んでおく。
 俺の問いにうろたえだすアンナ。
「え、え、え? リキくんのことは、ミーシャちゃんから聞いてるから、ね。面識はないけど、昔から友達だって……」
「なるほど」
 そういうことにしておいてやるか。

 ということで、今から俺たちは、『ステルスミッション』を開始するのであった。
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