206 / 490
第二十六章 真夏の夜の部
真のサブヒロインは、千鳥力!?
しおりを挟む花火が終わりを迎え、俺はそろそろ、混浴温泉であるクーパーガーデンから出ようと、ミハイルに提案する。
すると、彼はなぜか、ぎこちなく頷く。
「あ、うん……」
妙に元気ないな。
「どうした? 夏とはいえ、夜の温水プールだ。身体を冷やしたのか? なら、早く『タンスの湯』で身体を温めよう」
俺がそう促すが、彼は急に慌てだす。
「あ、お風呂ね……」
どうも、歯切れが悪い。
あれか? 男同士とはいえ、一緒に真っ裸で大浴場に入るのが、恥ずかしいのか。
※
クーパーガーデンを出て、また玄関で男女が別々になる。
先ほどの更衣室に向かうため、バラバラに行動せねば、ならないからだ。
左右に別れた階段を進んで、そのまま、更衣室で水着を脱ぎ、大浴場と露天風呂のあるタンスの湯に行ける。
行きは疲れたが、帰りはこりゃ楽だ。
「じゃあまたね」
どこからか、若い女性の声が聞こえてきた。
見れば、競泳水着に眼鏡の女子。
北神 ほのかだ。
リキに別れを告げて、奥の女子専用廊下へと進んでいく。
「うん。ありがとな、ほのかちゃん」
頬を赤くした力がオーバーに両手をブンブンと振って、別れを惜しむ。
「リキ、結構、順調みたいだな」
彼の背中に声をかけてみる。
「ああ、タクオ! こりゃ、イケるかもだぜ!」
拳を作って、はしゃぐリキ。
「だといいな」
「そうだ! 今から俺と一緒に露天風呂へ行こうぜ! マブダチとして!」
「ああ。俺もちょうど、ミハイルと行くところだったんだ……なあ、ミハイル?」
隣りに視線を戻すと……そこには誰もいなかった。
「なっ!? ミハイル? どこだ?」
心配になって、辺りを探すが、どこにもいない。
「タクオ、ミハイルのやつなら……ほれ。もうあっちに行ったぜ?」
リキの指差す方を見れば、階段を物凄いスピードで走り去るミハイルの姿が。
うむ、濡れた水着の小尻も最高……じゃなかった!
なんであいつ、逃げていくんだ?
ちょっと、腹が立つわ。
「まあタクオ。ミハイルもなんか用事あんじゃね? 腹でも壊したとかよ」
「な、なるほど……」
それなら、確かにあの動揺した姿も頷けるか。
結構、あいつ。ああ見えて、恥ずかしがり屋だからな。
※
更衣室で、水着を脱ぎ、近くにあった小さなタオルを手に取ると、早速、大浴場に入って見た。
中はかなり賑わっている。
おじいさんや親子たちで、ガヤガヤと騒がしい。
全員フル●ンで、見ていてエグいがな。
俺は簡単にシャワーで身体を洗い流すと、まずは露天風呂である『タンス湯』へと向った。
別府の夜景を楽しみながら、塩水で温められた天然温泉らしい。
たまには、都会から離れた静かな高原で、リラックスしたいからな。
大浴場を抜けて、露天風呂に出た。
湯船は全部で、上から4段に別れた構造になっている。
一段目に屋根があり、二段目から完全に露天風呂。三段目が一番大きく、また足湯も完備。最深部が寝湯になっていて、石造の枕まで完備。
こりゃあ、日々の疲れが取れるってもんだ。
俺は迷うことなく、寝湯の方へ降りていく。
最近、自作『気にヤン』の執筆を追い込んだせいで、肩がかなり凝っているから。
少しでも肩こりをほぐしたい。
湯船につかり、仰向けになって、寝てみる。
枕もいい感じの高さで、ちょうど耳に水が入らないぐらいだ。
「ごくらく、極楽~」
なんて鼻歌が出るぐらい快適。
どうしても、身体の力を緩めると、足先が浮かんでしまうが、そんなこと気にならないぐらい、気持ちが良い。
上を見上げれば、星々がたくさん広がっていて、最高のプラネタリウム。
前方に目をやれば、別府湾や街の夜景が見渡せる。
ちょっと、熱すぎるぐらいの温泉だが、半身がどうしても、水中から浮かんでしまうので、濡れた素肌を、前方から吹きつける強い風が、火照った身体を冷ます。
これはこれで、気持ちが良いものだ。
「来て良かったなぁ」
と目を瞑って、呟いてみると……。
誰かが俺の言葉に同調してくる。
「だよな!」
瞼を開いて、声の主を探す。
左側には誰もいない。
じゃあ、逆の右を見てみるか……。
「うなぎぃっ!?」
水中にうなぎが泳いでいる。
「な、なんだこいつ!? どこから入ってきたんだ!」
パニックを起していると、大きな手が俺の肩をつかみ、静止させる。
「どこ見てんだよ、タクオ? 俺だよ」
「へ?」
うなぎの持ち主は、千鳥 力。その人であった。
「ああ……お前だったのか。未知の生命体がこの別府に落ちてきたかと思った」
「ハハハッ、宇宙人なんて信じてんのかよ、タクオってやっぱ変わってんな」
そう言って、俺の背中をビシバシ叩く。
いや、確かに君のおてんてんは宇宙人だよ。
だって、ごんぶとだし、長すぎるし、水中から顔を出すなんて……。
咳払いして、動揺を隠そうとする。
「お、おほん! お前のって、その……デカいんだな」
恐る恐る、彼の股間を指差す。
「はぁ? そうか。フツーじゃね?」
いや、異常だ! 見たことない! 信じたくもない!
馬並みだ。
「普通ではないだろう。リキ、お前のってさ。何というか、デカいというか、長さもあるし……」
怖いよぉ!
「そんなに驚くなよ、ハハハッ。タクオが小さすぎんじゃね?」
比較したことないけど、普通の部類だと思ってます。
「だって、浮かぶか? 普通……」
「え、タクオは浮かばないの?」
巨乳の人が浮かぶと聞くが、男の話は初めてだ。
「ないよ……」
「そっかぁ。まあ、俺もあんまり温泉とかこねーから、わかんねーや。うちの親父とかも浮いてるしな~」
家系だってか!
リキは俺のことなど気にせず、温泉を楽しんでいる。
だが、ここである疑問というか、不安を覚える。
ミハイルのことだ。
彼は幼いころから、リキやここあと一緒に遊んでいたらしい。
多分、お泊りとかも。
ならば……ミハイルのサイズも知っておかないと。
だって、怖いじゃん!
「なあ、リキは……ミハイルと風呂とか、入ったことあるのか?」
「え? ミハイルと? あるよ。近所だし、ヴィッキーちゃんにはお世話になってるしなぁ」
「じゃあ、そのミハイルってお前と同じぐらいの……そのサイズだったか?」
彼の回答に思わず、生唾を飲み込む。
「うーん」
しばらく考え込むリキ。
沈黙が怖い。
「最近は一緒に入らないからなぁ……多分、同じぐらいじゃね?」
ファッ!?
「そ、そうなんだ……」
あの華奢な身体で、どうやって、『ガンホルダー』におさめるというのだ?
と、ここで、また新たな疑問が俺の頭に浮かぶ。
「なあ。ところで、そんなに長いサイズのをどうやってパンツに入れるんだよ?」
「え? 太ももにゴムのバンドで折りたたんでるぜ。普通のことだろ?」
あっさり、爆弾発言をするリキ。いや、リキ兄貴。
「そ、そうですね。普通のことですよね。普通の……」
なぜか縮こまってしまう俺だった。
※
長い、長すぎる……なにがって?
この隣りの野郎のことだよ。
「それでよ、ほのかちゃんのどこがいいかってよ。まず、あの真面目そうな顔とは反したワガマボディ! それに眼鏡の奥からたまに見える鋭い眼差し。あと、毎回制服着てくるというこだわり! たまらねぇよな! あとさ、気づかいもできるし、芯が強い女の子だって思うわけ。自分の気持ちは曲げない潔さ! 全部、全部が可愛すぎて……」
うるせぇ!
お前がどれだけ、ほのかのことを想ってることは、もうわかったよ。
一時間近くも聞かせられるこっちの身にもなってくれ。
もうさすがに、熱さで身体のぼせてきた……。
「悪い、リキ。先にあがるわ」
ちょっと、熱で頭がふらつく。
フラフラと立ち上がろうとする……が、ごつい彼の大きな手が俺の腕を掴む。
「ちょ、ちょっと待てよ! タクオ! これからがいいところなんだ、もうちょっと付き合ってくれよ!」
「話なら温泉を出てからでいいだろ……」
「いや、俺の気持ちはこの夜景を見ながら、マブダチのお前と語り合いたいんだって!」
俺の腕を一向に離そうとしないリキ。
だが、もう相手をしてられん。
早く出ないと俺が倒れそうだ。
「悪いが出るぞ……」
必死の思いで、湯船から脱出しようとした瞬間だった。
見くびっていた。『剛腕のリキ』の異名を。
俺の意思とは反して、力づくで引っ張られ、地面に叩きつけられる。
「いってぇ……」
石畳の上でうつ伏せの状態に倒れてしまった。
心配したリキが咄嗟に立ち上がる。
「わりぃ! タクオ、大丈夫か!?」
急いで俺の元へ駆け寄ろうとするが、彼も長時間、湯船に浸かっていたせいか、思ったように足が動かず、フラついている。
「ありゃっ!」
リキのアホな声と共に、ドシン! とナニかが、乗っかかてきた。
「いってぇぇぇ!」
倒れこんでいる俺の背中に、リキの巨体がボディプレス。
あばら骨が折れたかも?
だが、そんなことよりも、気になるのは、俺の臀部あたりだ。
ナニかが、俺の割れ目にグニョグニョとうごめいている。
ま、まさか!?
「わりぃ、タクオ。こけちまった……」
「そんなことはいい! 早く俺から離れろ! こんなところ、誰かに見られたら……」
時すでに遅し。
目の前には、細い脚が4本。
見上げると、そこには、おかっぱ頭のキノコ頭が二人。
同じクラスの日田兄弟が立っていた。
「し、新宮殿! まさか、氏は、剛腕のリキとそのような関係……」
「兄者、ここは一つ……」
お互いの顔を見つめあうと、無言で頷く。
「「ぎゃあああ! ホモダチだぁ!!!」
「……」
終わったな、俺のスクールライフ。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる