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第二十五章 まだまだ終わらない高校

まさかのリキルート!?

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 夕食を腹いっぱい食べた……というか、ミハイルに無理やり食わされたのだが。
 吐き気を感じながら、一旦、ホテルの部屋に戻ることにした。
 エレベーターで、ミハイルと別れを告げて。


 部屋には、今晩一緒に過ごすことになっている千鳥 力がいた。
 テレビをつけて、ソファーの上でゲラゲラ笑っている。

「よう、タクオ! ホテルのバイキング、超豪華だったよな! 俺なんか、一生分ぐらい食っちまったかもしれんぜ? もう腹がパンパンだ」
 そう言って、自身のポッコリと出た腹をさする。
「そ、そうか……よかったな。俺も豪華すぎる料理を死ぬぐらい食べてきたよ……」
 これ以上、喋ると吐きそう。
「ふーん。タクオって結構大食いなんだな」
 違います。あなたのお友達に、無理やり食べさせられたんです!

   ※

 一時間ほど、ベッドで寝込んでいた。
 と言っても何回もトイレを往復していたので、身体は休めていない。
 ようやく、身体が身軽になったころ、千鳥が声をかけてきた。

「なぁ、タクオ。ぼちぼち、『クーパーガーデン』に行こうぜ。今夜は花火もあがるらしいぞ♪」
「へ、へぇ……」
 力なく答える。
「元気だせよ、混浴温泉だぞ?」
 ヘラヘラ笑って、いやらしい。
 だが、事前情報として、全員水着着用と知っているので、俺はなんとも思わん。
「さっきの、プールと変わらんだろう」
 俺がそう言うと、千鳥は不敵な笑みを浮かべる。
「わかってねぇな。だから、タクオは一生童貞なんだよ」
「は?」
 ガチでキレそうになった。

「あのな、夜景のキレイなプールとか、海とかはよ……ヤレちゃうんだぜ?」
 ファッ!?

「な、なにを言っているんだ、千鳥?」
「女ってのはさ。星空とか、夜景とか、非日常的な光景に弱いもんなのよ。俺が小学生の頃さ、夜に近所の海岸へ遊びに行ったらさ……真面目そうなカップルが、暗いことをいいことに『アンアン』してたんだよっ!」
 鼻息荒くして、俺の両肩を掴み、強く前後に揺さぶる。
「だ、だるほどぉ~」
 振動で声が震える。
「だから、俺も今日にかけるぜ! ほのかちゃん、落としたいからよっ!」
 そこで、ピタッと動きが止まる。
「え……?」
 なんか、今さらっと、大事なお話をされたような気が。

 千鳥はキランと輝くスキンヘッドを真っ赤にさせて、人差し指で鼻をこすっている。
「二度も言わせなんよ……俺、ほのかちゃんに告白しようと思っててよ」
 俺は耳を疑う。
「なぁ、千鳥。お前、俺をおちょくってんのか? ほのかって、同じクラスの……アレのことか?」
 汚物のような表現をしてしまった。
「ほのかちゃんったら、北神 ほのかちゃんしか、いねーだろ!」
 胸ぐら掴まれて、睨みつける千鳥。
 ん~ 確かに、今の彼は凄みを感じる。ヤンキーとして。
 だが、キレている原因が、あの腐女子で変態の北神 ほのかなんだもん。
 思わず、失笑してしまう。

「ブフッ!」
 俺の唾を真正面から食らう千鳥。
「きったねぇな! 俺、マジなんだぜ……今回の旅行にかけてんだ!」
 ハゲのおっさんでも、泣きそうな時ってあるんすね。
 なんだか、かわいそうになってきた。
「そ、そうだったのか……てっきり、千鳥は、花鶴と付き合っていると思い込んでいたよ」
 いつもバイクで二人乗りしているし、ていうか、基本セットで歩いているから。
 俺がそう言うと、また顔を真っ赤にして激怒する。

「んなわけねーだろ! ここあとは、ガキからの腐れ縁で、ああいうビッチな女は苦手だよ……」
 おいおい、ダチのくせして、ビッチ呼ばわりかよ。
 花鶴、ちょっとかわいそう。
「な、なるほど。ちなみに、興味本位で聞くのだが、ほのかの、どういうところが好きなんだ?」
 千鳥は照れくさそうに答える。
「ほのかちゃんってさ。なんか、一見すると、大人しそうな普通の女子高生じゃん? でもさ、時折見せるギャップ萌えってやつ? あれがすごくカワイイんだよ……バカなこと言わすなよ、タクオ」
 言いながら、めっちゃ嬉しそう。
 そして、自分のことのように、ほのかを絶賛している。
「ギャップて、どういうところだ?」
「なんかさ、ほのかちゃんって……普段、隠しているみたいだけど、本当は芯の強い女の子だと思うんだよ。俺にはまだよくわからないけど、ほのかちゃんの真っすぐな姿勢が見えた時、すげぇなって、感じたりしてて」
 ちょっと、俺の脳内がフリーズしている。
 わけがわからん。
 どうやったら、あの変態が芯の強い女性なのだろうか。

「なあ……千鳥、お前マジで言ってるのか?」
「当たり前だろ! タクオがマブダチだから、相談してんじゃん!」
 あ、これ恋愛相談だったんだ……カウンセリングかと思った。
「なるほどなぁ」
 いつも、ほのかに優しく接していると思っていたが、まさかこんなにも片思いしちゃってるなんてな。
 千鳥には悪いが、めっちゃ草生える。
「マブダチと言ったな? なら、俺も今日からお前への認識を改めよう。ダチの恋愛相談だ。しっかりと俺も応援させてもらうっ!」
 この際だから、めんどくさい腐女子のほのかを、千鳥に押しつけよっと♪
「マジかっ!? サンキュな、タクオ」
 そう言って、俺の両腕を掴む千鳥。
「ああ、絶対にっ! この恋愛を成就させよう、千鳥! いや、今日からリキと言わせてもらおうっ!」
「タクオ~! お前は今まで出会ったダチの中で、一番いいヤツだぁ!」
 何を思ったのか、急に俺を抱きしめるリキ。
 痛い痛いっ!
 ミハイルに負けず劣らずの馬鹿力だ。
 しかも、可愛らしいミハイルとは違い、見た目がゴツいハゲのおっさんに抱きしめられるとか、どんな拷問だよ。

 その時だった。

「タクト~☆ なにやってんだよ、ずっと廊下で待ってたの、に……?」

 気がつくと目の前に、浴衣姿の天使こと、ミハイルきゅんが立っていた。
 太い両腕で背中を抱きしめられる俺を見て、絶句している。

「なに、やってんの……タクト?」

 この世の終わりのような、絶望した顔で俺たちを凝視している。

「み、ミハイル。違うぞ? 今、リキの相談を受けていてだな……」
 しどろもどろに言い訳をする。
「うわぁん! タクオ、俺さ。お前と今晩、一緒になれたことを……一生の思い出にするぜ!」
 号泣して更に俺の身体を引き寄せるリキ。
 本人はそんな気はないのだろうが、興奮しているせいか、俺の尻に右手が回っていた。
「リキ……ミハイルの前だ。堪えてくれ」
 俺の声は泣き声でかき消される。
「タクオぉ! 好きだ、マジで感謝してるぜ!」
 ミハイルは一連の行動を見て、引きつった顔をしている。

「タクトが『リキ』って言ってる……それに、リキもタクトのこと、好きだったの……?」
 誤解ってレベルじゃねー!
 マジで、俺とリキがホモダチになっちまうよぉ!

「ミハイル? これは違うからな? ダチ同士のスキンシップってやつだ」
「オレとも、したことないのに?」
 冷えきった声で、睨みつけてきた。
「いや、それは……」
「タクトのバカッ! アンナに言いつけてやるからな! もう知らない! オレは先に温泉行ってるから。ゆっくり、マ・ブ・ダ・チのリキと来れば!? フンッ!」

 バタンッ! と扉を閉める音が、部屋に響き渡る。

「タクトぉ、マジで好きだぜぇ!」
「あ、そう……俺もだよ。ダチとしてな」

 こうして、俺と千鳥は兄弟よりも深い絆を結んだのであった。
 その代償としてなにかを失った気がする。
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