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第二十五章 まだまだ終わらない高校
ビクンッビクンッ!
しおりを挟む更衣室を出て、とぼとぼと歩く。
俺は肩を落とし、目の前の小尻を眺める。
「タクトぉ~ 早く早くぅ~☆」
振り返る天使(♂)
だが……、なぜ上半身を裸体にしない!?
残念だが今日はおケツを堪能するしかないのだな。
「ああ……今行くよ」
覇気のない声で返事をしたせいか、ミハイルが立ち止まって、俺の胸を指で小突く。
「ねぇ、タクト? なんでそんな顔してんの?」
上目遣いで、グリグリと指を回す。
「あ、ああ……」
どうせ回すなら、もうちょっと左がいいです。乳首があるので……。
「ひょっとして、オレの水着のせい?」
頬を膨らませて、不服そうだ。
「いや、断じて違う。個人的な……そう小説のことを考えていた」
ちゃんと作品に、ヒロインの乳首の色を書かないとダメだもんね♪
「しょーせつ? あ、そっか。今日の旅行も取材なんだな☆」
急に態度を変え、目をキラキラと輝かせる。
「そ、その通りだ」
ヒロインの乳首を見たいという、ただの欲望だが。
「なら、オレも手伝うよ☆」
じゃあ、今すぐ裸になれ!
※
松乃井ホテルの敷地内になる別館。
通称、『波に乗れビーチ』
売りとしては、屋内に作られた南国風の海水浴場らしい。
二階の更衣室から出ると、ヤシの木に覆われたプールが目に入る。
「うわぁ~ 海みたい~☆」
身を乗り出して、下を眺めるミハイル。
「おい、危ないぞ」
と注意しつつ、俺は桃尻をガン見しているのだが。
一階には、波が出る大きなビーチ。
プールを囲むようにたくさんのデッキチェアが設置された。
まるで、ハワイに来たような感覚を覚える。
俺とミハイルはさっそく、一階に降りようと小走りで向かおうとした……その時だった。
「アアアッ! イッちまうぜ~!」
どこからか、男の叫び声が聞こえてきた。
二階にはフードコートがあるのだが、その隣りに小さなのぼりが立っている。
『ドクターフィッシュ ご利用できます! これであなたも美肌に!』
ビニール製のプールにタトゥー姿の男が、両脚を浸けている。
白目を向いて、口元からは泡を吹き出す。
確かにイッちゃてる……。
「あぁ~ お、俺りゃあの、か、角質が! 皮膚が!」
いや、解説せんでもいいよ。
というか、夜臼先輩がドクターフィッシュでリラクゼーションしているせいか、周りの人たちが怖がって、近づけない。
「パパ、あの人変だよ?」
「見ちゃダメだよ! あの人は絶対危ないお薬に手を出してる悪い人だからね!」
「あなた、早く通報しなさいよ!」
おいおい、人を見た目で判断しちゃダメですよ。
あの人はごく普通の一般市民ですので。
「アアアッ! こいつはキメちまいそうだな……」
彼の言い方はさておき、なんだか気持ちよさそうだ。
「なあ、タクト。太一がやってるのってなあに?」
「あれはドクターフィッシュって言うんだ。魚が人間の悪い所を食べてくれて、綺麗なお肌になれるらしいぞ」
「ホントか!? なら、オレもやってみたい!」
偉く乗り気だな。
「まあ、俺も未体験だし、やってみるか?」
「うん☆」
夜臼先輩の隣りにお邪魔する。
ビニールプールの中には、無数の小さな魚たちがうようよと泳いでいた。
俺たちが足を入れると、すぐに寄ってくる。
そして、小さな口で肌に触れる。
ちょっと、こそばゆいが、なんだか気持ちが良い。
「おう、お前らもコイツらでキメちまう気か?」
「ま、まあ俺たちやったことないんで……」
俺がそう言うと、夜臼先輩は不気味な笑みを浮かべた。
「琢人。コイツらよ。小さいガタイのくせして、ヤルことやっちまう奴らなんだぜ? 俺りゃあよ、アトピーが酷いんだが、コイツらに皮膚を食ってもらって、何度もイッちまったぜ……」
健康的に昇天されて何よりです。
「そ、そうなんですか……あれ、じゃあ夜臼先輩の身体中にある紫色のプツプツって……」
「おうよ! アトピーだ」
症状が良くないから、いつも健康に気を使われてたんですね。
「んっ、んんっ! あ、ああん!」
俺と夜臼先輩が雑談していると、左隣りから何やら女性の喘ぎ声が。
視線を隣りにやると、ミハイルが荒い息遣いで、頬を紅潮させていた。
時折、ビクッビクッと身体を震わせて。
「ミハイル? どうしたんだ?」
そう尋ねると、なにを思ったのか、俺に抱きつく。
「あ、ああん! こ、このお魚ちゃんたちが……はぁはぁ……止まんないよぉ!」
なんて声を出してんだ。
俺の腕にしがみついて、悶えている。
なるほど、ミハイルは感じやすいタイプなのか。
それにしても、エロい。
「ハハハッ! ミハイルも俺りゃあみたいにデリケートな肌なのかもな。たくさん、イッちまえよぉ。ツルツルお肌になれるぜぇ~」
あのさっきから、『イクイク』ってどこに行くんですか。
「大丈夫か、ミハイル? 出るか?」
「イヤッ……ま、まだ、入ってたいかも……く、くすぐったいけど……あああん! なんか、気持ちいい☆」
どうやら、ハマったようだ。
「あああん! す、すごいよぉ、タクト~! オレ、なんか頭が変になっちゃう~!」
たかだか、小魚どもで感じやがって。
ちょっとだけ、嫉妬を覚えちゃう。
「くっ! 俺りゃあもまたイッちまいそうだぜぇ~!」
そう言って、泡を吹くアトピー患者。
「はぁはぁ……すごく、いいよ。これぇ……」
変な声で喘いだり、騒いだりしている人たちに挟まれて、俺は一体どうしたらいいんでしょうか?
「タクトぉ~ この子たち、止まらないよぉ~ 気持ち良すぎるから、どうにかしてぇ~!」
このプールから出ればいいだけだよ。
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