198 / 490
第二十五章 まだまだ終わらない高校
教師は容姿で扱いが全然違う
しおりを挟むバスの中に入ると、普段なかなか登校しない奴らがたくさんいた。
遅刻が多い、千鳥 力と花鶴 ここあも既にシートの上で、ゲラゲラ笑っている。
もちろん、変態女先生こと北神 ほのかや自称芸能人の長浜 あすかまで。
ほのかは別として、他の奴らは真面目にスクリーングしてないだろ。
遊びの時だけ、本気になるなんて……。
俺がそう呆れていると、近くの席から声をかけられた。
「よう~ 琢人じゃねぇか」
柄の悪いおっさん……じゃなかった、無駄に健康オタクな夜臼先輩じゃないですか。
「あ、夜臼先輩も旅行に参加されるんすか?」
この人、確か今36歳だったよな。
10代の若者と旅行とか、抵抗ないの。
「おうよ! 別府でなら俺りゃあのアイスも売れるかもしれないだろぉ~」
そう言って、クーラーボックスを取り出す。
「そ、そうですか。売れるといいですね……あの、気になったんですけど、ひょっとして、夜臼先輩って、今期で卒業されるんですか?」
だって36歳だよ? もう良くない?
「バカ野郎! 俺りゃあ、まだ単位10ぐらいしか、取れてねーよ。恥ずかしいこと言わせんなよ」
えぇ……。
確か、一ツ橋高校を卒業する必須単位は最低でも60単位ぐらい必要だった気が。
新入生の俺ですら、今期で20単位ぐらい取得する予定なのに。
「夜臼先輩って入学して何年目っすか?」
「俺りゃあか? へへへ、5年目だよ。けどよ、一回退学してっから、まあ合計すると13年目かな。まあ売人しかできねーからさ。カミさんが卒業しろってうるせーんだよ」
ファッ!?
13年生の高校生なんて、初耳だ!
「ちょ、ちょっと待ってください。退学って宗像先生にされたんですか?」
「バーカ、蘭ちゃんは優しいからそんなことしねーよ。それに蘭ちゃんとは先輩、後輩の仲だったんだぜ? 俺りゃあがバカだからよ。8年経っても単位が取れなくて、一回てめぇから退学をして、再入学したのよ」
泣けてきた……。
後輩だった宗像先生が、今では教える側になっちゃったのか……。
てか、この人生きていくスキル持ってんだから、もう中卒でいいだろ。
「おい、なーに湿っぽい話をしているんだ? 新宮!」
振り返ると、バスガイドのコスプレをした宗像先生がニッコリ笑っていた。
「あぁ、夜臼先輩の経歴を聞いてました……」
聞いちゃいけないことだったのかな。
「だぁはははっははは!」
なにがおかしい! 人の不幸を笑うな!
「うっひゃひゃ! マジウケるよな! 蘭ちゃんが先生で、俺りゃあが生徒でよ」
あなた、もうこの高校やめろよ。
「あー、おかしい! 私が一ツ橋高校に教師として赴任して来た時、夜臼がまだいやがって、クッソ笑ったわ!」
「だよな、蘭ちゃん先生」
あんたら、そんなんでいいの?
「ま、そんなことより、今から終業式を始めるぞ! 席につけ、新宮!」
「あ、はい……」
俺が立ち去ろうとした際、夜臼先輩が「琢人、あとで上物の“野菜”をやるからな」と囁く。
周辺にいた生徒が野菜という言葉を隠語として、捉えたようで、震えあがっていた。
俺の座った席は、後ろから二番目のシート。
窓側には既にミハイルが座っていて、「こっちこっち」と座席をポンポンと叩き、促す。
※
バスが出発し、しばらく国道を走った後、高速道路に入る。
そこで、宗像先生が立ち上がって、マイクを手にする。
「あーあー、テステス。これより、春期終業式を始める。この前の試験とレポート。それからスクリーングの出席回数を見合わせて、単位を与えている。テストの答案用紙と一緒に取得単位結果表を配布するから、各自席で待っていろ」
そう言って、前から順番に書類をひとりひとり、渡し始める。
だが、宗像先生は生徒に渡す際、一声かける。
「おし、夜臼は今期もてんでダメだな。取得できた単位はたったの3だ」
「あちゃ~」
夜臼先輩をこれ以上いじめないであげてください。
もちろん、マイクで話しているから、スピーカーから丸聞こえ。
その後も次々、生徒の欠点ばかり言いやがるから、落ち込む奴らが大半だった。
最後の方で、俺とミハイルの番になった。
「うむ。新宮はパーフェクトだ。テストも満点だし、単位も全単位取得できた。さすがはこの私が見こんだルーキーだな!」
そう言って、書類を受け取ったが、何も嬉しくない。
このレベルで、満点とか逆にディスられた気分。
「あ、あざっす……」
「そして、最後は古賀だな。ちょっとレポートの答えが意味不明なことばかり書いてあって、『マジこいつバカだわ』と感じたが……」
ひでっ!
「ご、ごめんなさい……」
泣き出すミハイル。
「だが、しかしだ! 後半からほ~んのちょっとだが、成績もあがってきた。この前の期末試験もまあ酷いもんだったが、がんばったから、新宮と同じく全単位取得だ! よくがんばったな、古賀!」
ニカッと歯を見せて笑う宗像先生。
それを見て、パァーっと顔が明るくなるミハイル。
「宗像センセ! ありがとう!」
喜びのあまり、宗像先生に抱きつく。
泣きながら、「ホントーにありがと~」と感謝していた。
対して、宗像先生は、彼の頭を撫で回す。
「よしよし、古賀は男のくせに可愛いし、ちっこい尻を叩くのも先生は大好きだからな! この調子で卒業までがんばれよ! お前は新宮と同じく私が見込んだ、期待のスパンキングボーイ……じゃなかった。ルーキーだ! 多分」
絞め殺すぞ、こいつ!
えこひいきじゃねーか。
しかも、俺の大事なダチを、性のはけ口にしやがって!
だが、ミハイルはそんなことお構いなしで、泣いて喜ぶ。
「うん☆ オレ、宗像センセについてく!」
「よし! 私に任せろ! さ、くっだらねぇ終業式はもう終わりだ。高速に入ったし、別府に着くまで、ハイボールをキメるか!」
もうお前、教師やめちまえ!
「なら、オレが作ってきたジャーマンポテトでも食べるっすか☆」
リュックサックからネッキーがプリントされたタッパーを持ち出す。
「おお、こいつは酒が進みそうだ。古賀はいい婿さんになるなぁ~ ヴィッキーのやつ、こんな洒落たつまみで、晩酌してやがるのか……」
「ハイ☆ ねーちゃんはあんまり料理しないんで☆」
虐待だよ、それ。
※
高速で走ること、二時間ぐらい。福岡県を抜けて大分県の別府温泉にたどり着いた。
俺たちが泊まるホテルは、松乃井ホテル。
高い山の上に高層ビルがいくつも連なって出来た温泉ホテルだ。
バスから降りると、ロビーに集まり、部屋割りをすることになった。
俺は千鳥と一緒の部屋になった。
「タクオ! 今夜はよろしくな!」
えぇ……ミハイルの方が良かったよ。
「ああ、よろしくな」
続々とペアが決まっていく中、ミハイルだけが一人残された。
「よし、じゃあ、これで部屋割りは決まったな。各自、好きに遊んでいいぞ。夕方の6時になったら食堂に集まれ! それまで解散!」
みんな歓声を上げて、散り散りに去っていく。
「ちょ、ちょっと! 宗像先生!」
エレベーターに向おうとする先生の腕を掴んで、止めに入る。
「なんだ、新宮? 私と同室して童貞を捨てたいのか?」
「違いますよ! どうしてミハイルだけ、1人なんすか!」
フロアで1人ぽつんと立つ彼を指差す。
頬を赤くして、どこか恥ずかしげにしている。
「ああん? 古賀のことか。あいつは家族と一緒に泊まるって言うから、事前に部屋を決めておいたぞ」
「家族……?」
「まあそういうことだから、心配すんな」
先生はそう言うと、ハイボール片手にエレベーターに乗って、どこかに行ってしまった。
「タクオ、ミハイルなら大丈夫だろ」
笑顔を見せるハゲ。
「うーむ。まあ本人の望みなら仕方ないな……とりあえず、部屋に荷物を置きに行くか」
「おお! プールがあるから、そこで遊ぼうぜ!」
「了解した」
去り際、ミハイルに声をかける。
「またあとでな。ミハイル」
俺がそう言うと、なぜかビクッとして、顔を真っ赤にする。
「え!? う、うん。プールでね……」
なんか様子がおかしいな。
エレベーターのドアが閉まる際、彼は床をじーっと見つめていた。
別府にまで来て、床ちゃんを友達に追加するとはな。
千鳥が8階のボタンを押すと、こう言った。
「そう言えば、タクオって着替えとか持ってきてないんだろ? 水着どーすんだ?」
「あ……」
「しゃーねから、ブリーフで泳げよ」
絶対に嫌です。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
W-score
フロイライン
恋愛
男に負けじと人生を仕事に捧げてきた山本 香菜子は、ゆとり世代の代表格のような新入社員である新開 優斗とペアを組まされる。
優斗のあまりのだらしなさと考えの甘さに、閉口する香菜子だったが…
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる