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第二十五章 まだまだ終わらない高校

教師は容姿で扱いが全然違う

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 バスの中に入ると、普段なかなか登校しない奴らがたくさんいた。
 遅刻が多い、千鳥 力と花鶴 ここあも既にシートの上で、ゲラゲラ笑っている。
 もちろん、変態女先生こと北神 ほのかや自称芸能人の長浜 あすかまで。

 ほのかは別として、他の奴らは真面目にスクリーングしてないだろ。
 遊びの時だけ、本気になるなんて……。

 俺がそう呆れていると、近くの席から声をかけられた。

「よう~ 琢人じゃねぇか」
 柄の悪いおっさん……じゃなかった、無駄に健康オタクな夜臼先輩じゃないですか。
「あ、夜臼先輩も旅行に参加されるんすか?」
 この人、確か今36歳だったよな。
 10代の若者と旅行とか、抵抗ないの。
「おうよ! 別府でなら俺りゃあのアイスも売れるかもしれないだろぉ~」
 そう言って、クーラーボックスを取り出す。
「そ、そうですか。売れるといいですね……あの、気になったんですけど、ひょっとして、夜臼先輩って、今期で卒業されるんですか?」
 だって36歳だよ? もう良くない?
「バカ野郎! 俺りゃあ、まだ単位10ぐらいしか、取れてねーよ。恥ずかしいこと言わせんなよ」
 えぇ……。
 確か、一ツ橋高校を卒業する必須単位は最低でも60単位ぐらい必要だった気が。
 新入生の俺ですら、今期で20単位ぐらい取得する予定なのに。

「夜臼先輩って入学して何年目っすか?」
「俺りゃあか? へへへ、5年目だよ。けどよ、一回退学してっから、まあ合計すると13年目かな。まあ売人しかできねーからさ。カミさんが卒業しろってうるせーんだよ」
 ファッ!?
 13年生の高校生なんて、初耳だ!
「ちょ、ちょっと待ってください。退学って宗像先生にされたんですか?」
「バーカ、蘭ちゃんは優しいからそんなことしねーよ。それに蘭ちゃんとは先輩、後輩の仲だったんだぜ? 俺りゃあがバカだからよ。8年経っても単位が取れなくて、一回てめぇから退学をして、再入学したのよ」
 泣けてきた……。
 後輩だった宗像先生が、今では教える側になっちゃったのか……。
 てか、この人生きていくスキル持ってんだから、もう中卒でいいだろ。
 

「おい、なーに湿っぽい話をしているんだ? 新宮!」

 振り返ると、バスガイドのコスプレをした宗像先生がニッコリ笑っていた。

「あぁ、夜臼先輩の経歴を聞いてました……」
 聞いちゃいけないことだったのかな。
「だぁはははっははは!」
 なにがおかしい! 人の不幸を笑うな!
「うっひゃひゃ! マジウケるよな! 蘭ちゃんが先生で、俺りゃあが生徒でよ」
 あなた、もうこの高校やめろよ。
「あー、おかしい! 私が一ツ橋高校に教師として赴任して来た時、夜臼がまだいやがって、クッソ笑ったわ!」
「だよな、蘭ちゃん先生」
 あんたら、そんなんでいいの?


「ま、そんなことより、今から終業式を始めるぞ! 席につけ、新宮!」
「あ、はい……」
 俺が立ち去ろうとした際、夜臼先輩が「琢人、あとで上物の“野菜”をやるからな」と囁く。
 周辺にいた生徒が野菜という言葉を隠語として、捉えたようで、震えあがっていた。

 俺の座った席は、後ろから二番目のシート。
 窓側には既にミハイルが座っていて、「こっちこっち」と座席をポンポンと叩き、促す。


   ※

 バスが出発し、しばらく国道を走った後、高速道路に入る。
 そこで、宗像先生が立ち上がって、マイクを手にする。

「あーあー、テステス。これより、春期終業式を始める。この前の試験とレポート。それからスクリーングの出席回数を見合わせて、単位を与えている。テストの答案用紙と一緒に取得単位結果表を配布するから、各自席で待っていろ」

 そう言って、前から順番に書類をひとりひとり、渡し始める。
 だが、宗像先生は生徒に渡す際、一声かける。

「おし、夜臼は今期もてんでダメだな。取得できた単位はたったの3だ」
「あちゃ~」
 夜臼先輩をこれ以上いじめないであげてください。
 もちろん、マイクで話しているから、スピーカーから丸聞こえ。
 その後も次々、生徒の欠点ばかり言いやがるから、落ち込む奴らが大半だった。

 最後の方で、俺とミハイルの番になった。

「うむ。新宮はパーフェクトだ。テストも満点だし、単位も全単位取得できた。さすがはこの私が見こんだルーキーだな!」
 そう言って、書類を受け取ったが、何も嬉しくない。
 このレベルで、満点とか逆にディスられた気分。
「あ、あざっす……」

「そして、最後は古賀だな。ちょっとレポートの答えが意味不明なことばかり書いてあって、『マジこいつバカだわ』と感じたが……」
 ひでっ!
「ご、ごめんなさい……」
 泣き出すミハイル。
「だが、しかしだ! 後半からほ~んのちょっとだが、成績もあがってきた。この前の期末試験もまあ酷いもんだったが、がんばったから、新宮と同じく全単位取得だ! よくがんばったな、古賀!」
 ニカッと歯を見せて笑う宗像先生。
 それを見て、パァーっと顔が明るくなるミハイル。
「宗像センセ! ありがとう!」
 喜びのあまり、宗像先生に抱きつく。
 泣きながら、「ホントーにありがと~」と感謝していた。

 対して、宗像先生は、彼の頭を撫で回す。
「よしよし、古賀は男のくせに可愛いし、ちっこい尻を叩くのも先生は大好きだからな! この調子で卒業までがんばれよ! お前は新宮と同じく私が見込んだ、期待のスパンキングボーイ……じゃなかった。ルーキーだ! 多分」
 絞め殺すぞ、こいつ!
 えこひいきじゃねーか。
 しかも、俺の大事なダチを、性のはけ口にしやがって!

 だが、ミハイルはそんなことお構いなしで、泣いて喜ぶ。
「うん☆ オレ、宗像センセについてく!」
「よし! 私に任せろ! さ、くっだらねぇ終業式はもう終わりだ。高速に入ったし、別府に着くまで、ハイボールをキメるか!」
 もうお前、教師やめちまえ!
「なら、オレが作ってきたジャーマンポテトでも食べるっすか☆」
 リュックサックからネッキーがプリントされたタッパーを持ち出す。
「おお、こいつは酒が進みそうだ。古賀はいい婿さんになるなぁ~ ヴィッキーのやつ、こんな洒落たつまみで、晩酌してやがるのか……」
「ハイ☆ ねーちゃんはあんまり料理しないんで☆」
 虐待だよ、それ。
 

   ※

 高速で走ること、二時間ぐらい。福岡県を抜けて大分県の別府温泉にたどり着いた。
 俺たちが泊まるホテルは、松乃井まつのいホテル。
 
 高い山の上に高層ビルがいくつも連なって出来た温泉ホテルだ。

 バスから降りると、ロビーに集まり、部屋割りをすることになった。

 俺は千鳥と一緒の部屋になった。
「タクオ! 今夜はよろしくな!」
 えぇ……ミハイルの方が良かったよ。
「ああ、よろしくな」

 続々とペアが決まっていく中、ミハイルだけが一人残された。


「よし、じゃあ、これで部屋割りは決まったな。各自、好きに遊んでいいぞ。夕方の6時になったら食堂に集まれ! それまで解散!」

 みんな歓声を上げて、散り散りに去っていく。

「ちょ、ちょっと! 宗像先生!」
 エレベーターに向おうとする先生の腕を掴んで、止めに入る。
「なんだ、新宮? 私と同室して童貞を捨てたいのか?」
「違いますよ! どうしてミハイルだけ、1人なんすか!」
 フロアで1人ぽつんと立つ彼を指差す。
 頬を赤くして、どこか恥ずかしげにしている。

「ああん? 古賀のことか。あいつは家族と一緒に泊まるって言うから、事前に部屋を決めておいたぞ」
「家族……?」
「まあそういうことだから、心配すんな」
 先生はそう言うと、ハイボール片手にエレベーターに乗って、どこかに行ってしまった。


「タクオ、ミハイルなら大丈夫だろ」
 笑顔を見せるハゲ。
「うーむ。まあ本人の望みなら仕方ないな……とりあえず、部屋に荷物を置きに行くか」
「おお! プールがあるから、そこで遊ぼうぜ!」
「了解した」
 去り際、ミハイルに声をかける。

「またあとでな。ミハイル」
 俺がそう言うと、なぜかビクッとして、顔を真っ赤にする。
「え!? う、うん。プールでね……」
 なんか様子がおかしいな。

 エレベーターのドアが閉まる際、彼は床をじーっと見つめていた。
 別府にまで来て、床ちゃんを友達に追加するとはな。

 千鳥が8階のボタンを押すと、こう言った。

「そう言えば、タクオって着替えとか持ってきてないんだろ? 水着どーすんだ?」
「あ……」
「しゃーねから、ブリーフで泳げよ」
 絶対に嫌です。
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