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第二十四章 夏だ! プールだ! 男の娘の水着だ!
ギクシャクする時は脈あり
しおりを挟む例のナンパ男たちに絡まれた事により、アンナはすっかり元気をなくしていた。
いや、恥じているという表現の方が、正しいかもしれない。
頬を赤く染めて、黙って俯く。
俺を養護するための“パフォーマンス”だったとはいえ、中々に破廉恥な行為だったからな。
あとになって、恥ずかしさがこみあげてきたのだろう。
その後、何度かプールで泳いだりしたが、全然楽しそうじゃない。
なんだか、悪いことをした気分だ。
やり方はどうあれ、俺を守ろうとしたのは事実じゃないか。
仮とはいえ、彼氏役の俺がしっかりアフターケアしてやらんとな。
水面が夕陽でオレンジ色に輝きだした。
時計を見れば、もう夕方の4時半近く。
このプールは5時で閉園だ。
今日の取材が、こんな風に終わるのはなんともかわいそすぎる。
なにかアンナが元気になることはないだろうか?
そう頭を悩ませていると、どこからか、歓声が湧き上がる。
「なんだ?」
フードコートの横に大きなステージが設置されており、そこにたくさんの人だかりができていた。
なにやらイベントをやっているらしい。
スピーカーからアニメ声が聞こえてきた。
「許さないわよ! イケメンガー!」
ん? 聞いたことのある名前だ。
「ぐわっははは! また会ったな、ボリキュアども! 今度こそ駆逐してやるぅ!」
あ……これだ!
俺はすぐにアンナへと伝える。
「アンナ、あっちでボリキュアショーってやってみるたいだぞ!」
するとアンナは、ピョコンと首をまっすぐ立てる。
そして、「え、どこどこ?」と辺りを見渡す。
「あそこだよ。せっかくだから、見ていくか?」
「うん☆」
彼女に笑みが戻る。
良かった、おこちゃまなやつで。
※
俺たちは、急遽ボリキュアショーを観覧することになった。
前回、かじきかえんで観た時より、出演しているキャラは少ない。
今期のボリキュア『ロケッとボリキュア』から、ボリエール、ボリアンジュ、ボリエトワールの3人。
それから、今年は生誕15周年ということもあってか、初代の『ふたりはボリキュア』からボリブラックとボリホワイトが参戦。
いつもながら、敵役はイケメンガーひとりのみ。
5人対1人っていじめだよね……。
必殺技を連発するボリキュアたちだったが、毎度の展開で、イケメンガーがチート並みのスキルで、全員をブッ倒す。
というか……ボリキュアが勝手にずっこけた演出なのだけど。
気がつけば、意気消沈していたアンナはどこにいったのやら。
近くにいた幼いキッズたちと叫んでいた。
「ボリキュア、がんばれ~! イケメンガーに負けちゃいや~!」
元気になったのは嬉しいのだけど、ねぇ……。
金髪のハーフ美少女がさ。一番前で、ステージに向かって大声で叫ぶんだぜ?
彼氏役は辛いよ。
どこからか、キッズたちのパパさんママさんが失笑していた。
うちの彼女役。しんどいです。
アンナに目をつけたイケメンガーが、指をさす。
「ほほう~ アインアインプールにも『アクダマン』になりそうな、いい子供たちがいるなぁ~」
あれ、この流れ。前にもあったような。
「イヤァ~! またアンナたち良い子をさらう気ねぇ!」
迫真の演技でまんまと乗っかる女装男子、15歳。
「フッハハハッ! その通りだよぉ、お嬢さん。君をアクダマンにしてやろう」
そう言い放つと、イケメンガーは舞台から降りて、俺の隣りにいたアンナと近くに座っていた女児を数人に連れて行く。
もちろん、合意の元でだ。
だって、このあとボリキュアたちが勝利して、写真を撮れる特典つきだからな。
みんなこぞって、参加したがる。
「キャ~! タッくん、助けてぇ~」
自分からステージに上がりやがるくせに、わざとらしく叫ぶアンナ。
俺に手をさし伸ばしてはいるが、脚はしっかり後ろへ進む。
周りにいたママさんパパさんが、それを見て笑い出した。
「可愛らしい二人ね」
「おもしろいカップルだ」
「むむむっ! あの女史は以前、かじきかえんで出会った同志では!?」
左を見ると、真っ黒に焼けた男がいた。
望遠レンズ付きの高そうなカメラを首からかけている。
頭には、プラスチック製のピンク色のカチューシャ。
そしてフリルがついたワンピースタイプの水着を着ていた。サイズはきっと子供用なのだろう。
ピチピチで、もう生地が破れてしまいそう。
エグすぎる大友くんだ!
類は友を呼ぶ……か。
博多って変態が多い街なんですね。もう引っ越そうかな。
その光景に俺が絶句していると、ステージでは物語が進行していく。
倒れたボリキュア戦士たちに向かって必死にエールを送るアンナ。
「ボリキュア、がんばれぇ~」
あなたが一番目立ってどうすんのよ。
「フハハハハ! この子たちを全員アクダマンにして、アインアインプール。いや……海ノ中道海浜公園を征服してくれるわぁ!」
スケールちっちぇ!
不穏なBGMが流れだした、その時だった。
「いいえ、そんなことはさせないわ……」
よろよろと立ち上がるボリブラック。
「そうよ。こんなときこそ、力を合わせて良い子たちのために戦うの!」
ブラックから手を借りて、起き上がるボリホワイト。
「「「先輩たちの言う通りよ!」」」
声を合わせて叫ぶのは、今期のボリキュア戦士。
その後は、テンプレ通りの展開だ。
各戦士たちによって、フルボッコにされるイケメンガー。
捨て台詞を吐くと、優しくアンナや女児たちを解放する。
気づかい半端ないっす。
「アインアインプールも海ノ中道も私たちがいる限り、悪い子の好きなようにさせないわ!」
夕陽にむかって、高々と拳を突き上げる。
ボリブラック。
だから、なんで海ノ中道だけ限定なの?
せめて福岡市ぐらい守れるでしょ。ヒーローなんだから。
閉幕と同時に、撮影会が始まる。
捕らわれたアンナと女児たちはVIP待遇だ。
ボリキュアの5人が、周りを囲んで撮影タイム、スタート。
アインアインプールのスタッフがポライドカメラで、無料で撮ってくれた。
それをもらったアンナは、満足そうに舞台から降りてきた。
「タッくん! 見てみてぇ! ボリキュアと写真撮れちゃった☆」
「ハハ……良かったな、アンナ」
俺は既に呆れていた。
「これもタッくんのおかげだよ☆ ありがと、タッくん☆」
いや、それは違うと思う。
あなたの演技力が素晴らしかったんじゃないんですか、知らんけど。
※
「写真も撮れたし、そろそろ帰るか?」
「うん☆ 楽しかったね、初めてのプール☆」
「ああ、そうだな……」
互いに見つめあって笑い合うと、二人で仲良く更衣室に向かう。
歩いていると、とあるカップルに声をかけられた。
「あの、すみません。良かったら写真撮ってくれませんか?」
いかにもリア充って感じの好青年だ。
どうやら、彼女とのツーショットが欲しいらしい。
「いいですよ」
俺は快くそれを引き受ける。
何枚か撮り終えると、スマホを相手に見せて確認させた。
青年が「ありがとうございます」と頭を垂れたので、俺は「いえ、気になさらずに」と背を向けた。
だが、ガシッと強い力で肩を掴まれる。
振り返ると、青年がニカッと笑っていた。
「お返しにカノジョさんとの、写真撮りますよ」
言われてすごく困った。
俺たちは確かにカップルぽく振舞ってはいるが、実際は違う。
そう思って、断ろうとしたら、アンナが代わりに答えてしまう。
「いいんですか!? じゃあ、タッくん。撮ってもらおう☆」
「え……ああ」
流れで、俺たちまでツーショットを撮ってもらうことになってしまった。
アンナはどこか嬉しそうにしている。
俺の左腕に、小ぶりの胸を押し付けて「ハイ、チーズ」と一枚撮られた。
もちろん、彼氏役の俺はガチガチに固まってしまう。
「もう一枚、撮っておきましょう!」
青年がいらぬ気づかいをする。
すると、アンナが俺にしか聞こえないぐらいの小さな声で囁いた。
(来年の夏も絶対に来ようね……)
え? 俺たちの取材っていつ終わるんですか。
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