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第二十三章 第二次テスト大戦

カンコって10回言ってみろや!

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 夜臼先輩が日焼け止めクリームを塗ってくれたことで、俺たちは紫外線を気にせず、外のテニスコートに移動できた。

 今回、武道館利用の件で全日制コースの立場がかなり上だと再認識できた。
 確かにバスケットボールの試合は武道館でしか出来ないのだから、仕方ないのだけども、
いきなり変更とか……確かに夜臼先輩が怒るのもよくわかる。

 まあ結局あれだろう。
 毎日通学して、学費も高い全日制の三ツ橋生徒はお得意様で、たまにしか学校に来ない俺たちは、二の次ってやつだ。
 部活なんて趣味レベルだろうし、なにをそんなにやる気がマンマンになるのだろうか?
 きっと彼らは己の性欲を、全て運動の汗によって発散しているのでは……。

 そう思っていると、コートのフェンスに大きな横断幕が見えた。

『祝 三ツ橋高校テニス部全国優勝おめでとう!』
『本校卒業生、丸井くんプロデビューおめでとう!』
『丸井くん、グランドスラム達成おめでとう!』


「え……丸井くんって誰?」
 三ツ橋高校からそんな名選手を送り出したってのか。
 そう言えば、前に噂で聞いたな。
 部活に力を入れてるって……。
 だが、そこまですごいプレイヤーを生み出す学校だったとは。

 
 テニスコートで一人ポカーンと口を開けていた。
 すると、誰かが俺の袖を掴む。
 隣りを見ると、ブルマ姿の天使……いや、ミハイルが頬を膨らませていた。

「なぁ、タクト。なにやってんの? もう体育の授業始まるゾ!」
「おお……悪い悪い」


   ※

 急遽変更した授業なので、わかりきっていたことだが、もちろん今日の体育はテニス……の練習である。

 宗像先生が素振りを簡単に説明し、その後は各生徒がコンビを組んでバラバラに散る。
 二つしかコートがないので、実質的にダブルスで4人ずつしか試合ができない。

 その間、俺たちは隅で体操座りして、他の生徒の試合をただ傍観するのみ。
 お世辞にも上手いとはいえず、サーブすらろくに打てない生徒も多い。

 みんなヘラヘラ笑いながら、「やっだぁ」とか「うてねぇ、ウケるわ」とか、真剣にやってない。

 指導役である宗像先生と言えば、審判台に座って、ハイボールを飲んでいる。

「ふぅ~ こんな真夏の日曜日ときたら、酒でも飲んでないと教師なんてやってられないからなぁ」
 もう教師をやめてください。
 これ以上、被害者を増やさないでください。


 それにしても、暑い。
 宗像先生じゃないが、確かに喉が渇く。
 俺も冷たいアイスコーヒーでも飲みたいもんだぜ……。

 突如、隣りのコートから歓声が上がる。
 振り返ると、一人の女子生徒に目が行く。
 みんな宗像先生の指示通り、体操服を着用しているのに、その生徒だけはピンクのシャツとスコートを履いていて、軽快な音でボールを弾き返している。
 様になっているなと思った。

 俺はその子のテニスが上手いから、みんな騒いでるのだろうと思っていたが、それは違った。
 なぜならば、みんなスマホを片手に、その女子生徒の下半身ばかり狙って盗撮していたからだ。
 
「おふぅ、あすかたんの見せパンゲットなり~!」
「あすかちゃん、カワイイよぉ~ スコート姿の下半身~ 胸~」
「推しの汗を飲みたい……」

 なんだ、変態ばかりじゃないか。

 あすか? 誰だっけ?
 どこかで聞いたような名前だったな……うーん、あ、自称芸能人の長浜 あすかさんか。
 存在が空気すぎて、忘れていた。

 俺の認知度とは差があるようで、フェンスの裏にある部室から何十人も三ツ橋の男たちがギャーギャー騒いで、長浜を眺めている。
 練習なんかそっちのけで。

「なあ、あの子。可愛くね? なんだっけ、テレビで見たことあるような……」
「アレじゃん、深夜のローカルに出てるあすかちゃん」
「ああ。だからか。見たことあるなって思ってたんだよ。俺、この前あの子のグラビアでつかっ……」

 そんなことを大声で叫ぶなっ!
 どこか隠れてヒソヒソやれ、生々しいんじゃ!

 しかし、まあなんだかんだ福岡市民から愛されているんだな、長浜のやつ。
 こりゃ、芸能人として化けるかもしらん。
 俺も作家として負けてらんねぇわ。

 そう意気込んで拳を作る。
 すると、誰かが俺の肩に触れた。

「タクト☆ オレと組もうぜ」
 見上げると、ブルマ姿のミハイルきゅん。
 ニッコニコ笑って、ラケットを二つも抱えてやがる。
「ああ、構わんが俺は上手くないぞ?」
「いいよいいよ☆ オレだってルールとか全然わかんないし☆」
 なら、なぜ俺を誘った?


   ※

 俺とミハイルがテニスコートに入る。
 相手チームは、日田兄弟の片割れとなぜか体験入学中のトマトさん。
 トマトさんの汗はいつも以上にダラダラと流れており、もう少し脱水症状を起して倒れそう……。

 試合が始まりはするが、案の定、トマトさんが暑さにやられて、退場。
 残った日田も一人じゃ試合が続行できないから、困っている。

「参ったな……。日田っ! もう試合棄権するか?」
 どうせ単位はもらえるんだから、やめればいいんだよ。
 こんな授業に意味はないのだから。
「しかし……それでは、筑前殿の無念を晴らすことができませぬ」
 いや、ただの運動不足で倒れただけやん。

 参ったなと困っていたその時だった。
 
「おいおい、見ろよ。一ツ橋の奴ら試合もろくにできないぜ」
「テニスなんてやらせる意味ないんだよ、バカなヤンキーとキモいオタクしかいない高校だろ。邪魔だから早く終わらせろよって感じじゃね? 俺らも練習したいのにさ」
「でもさ、あすかちゃんとテニスするなら俺も一ツ橋に編入してみたいわ。一日だけな」

「「「ハハハッ」」」

 言わせておけば……。
 確かにトマトさんは、犯罪者予備軍に近いキモオタだが、そこまで言われる筋合いはない。
 ミハイルや花鶴、千鳥だってバカだけど、こいつらも学費を納めてんだ。
 授業を受ける権利はしっかりとあるはずだ!

 腹が立った俺は、フェンス外で笑っていた三ツ橋の生徒たちを睨みつける。
 それに気がついた相手生徒たちが、嘲笑う。

「よぉ、あのオタク。こっち睨んでね?」
「マジかよ。しかも、オタクの隣りに立ってるやつ。男のくせして、細い体つきでナヨくね? あんなやつ俺が試合したら、一発で倒せるわ」
 ミハイルのことを言っているのか?
「それに見ろよ。男なのに、女子のブルマ着てるぞ。あいつ……おかしくね?」
 あ、それは本当におかしいと思います。
 僕の趣味に、彼が付き合ってくれているだけなので、責めないであげてください。


 一連のヤジを聞いていた宗像先生が、審判台から叫んだ。

「おぉい! お前らっ! 聞こえてるぞ! 文句があるなら、うちのエース、新宮と試合しろ! 勝ったら何でもしてやる、ご褒美がないとなぁ」

 おいおい、勝手になに煽ってんの?
 しかも、俺はエースじゃないって。

 それを聞いた三ツ橋生徒たちが、騒ぎ出す。
「よぉ、褒美だって。どうする?」
「あすかちゃんと写真とか握手とか、できるならやってもいいかもな」
「俺は勝ったら、この昨日『使用した』右手で握手してもらう」
 福岡って本当に変態が多いですね。
 どっかの調べで、ピンク系の犯罪率が全国でワースト1だって聞いたことあります。


 宗像先生の思いつきで、無惨にも日田は強制退場され、代わりにヤジを飛ばしていた三ツ橋高校から何人もテニスコートに入場する。
 だが、入ってきたのは男だけだ。
 どうやら、芸能人の長浜 あすかにしか興味がないらしい。


「タクト、このボールってどこに投げたらいいの?」
 上目遣いで、目を輝かせるミハイル。
「ああ、とりあえず、相手のコートにこのラケットでボールを打てばいい」
「線がいっぱいあるじゃん。どこの線に向けたらいいの?」
「俺も詳しくはルールは知らん。まあゲームとかで見るのは、だいたい相手選手のラインに向かって打つよな」
「わかった☆ じゃあ、このボールを相手のヤツに飛ばせばいいんだな☆」
「そうだけど……」

 俺はこの時、彼に軽く返事してしまったことを、後々後悔する。

 なぜならば、その後が地獄だったから。
『相手に向けてボールをラケットで打つ』という俺の指示を忠実に守ったミハイル。
 忘れていたんだ、俺は。
 彼の華奢な体つきと女みたいなルックスに反して、その力はプロレスラー並みの破壊力を持っていたことを……。

 
 審判の宗像先生が、笛を鳴らす。

 相手選手はニヤニヤ笑いながら、ラケットを構えていた。
 女みたいな見た目のミハイルだから、余裕で勝てると思っていたのだろう。
 だが、その予想は大きく裏切られる。

 ミハイルがサーブを打つと、風を切ってボールは一瞬で、相手選手を襲う。
 直撃したのは、股間だった。

「うぐっ……」

 泡を吐いて、その男の子は倒れてしまった。
 コンビを組んでいた隣りの選手は、ミハイルの豪速球を見て、震えあがっていた。

「チッ、倒れたのか。おい、次のやつ、入れ。お前ら一ツ橋にケンカ売ったんだ。全員、新宮と試合しろ」
 宗像先生はそう吐き捨てて、新しいハイボールをプシュッと開ける。

「勝った勝った☆ やったよ、タクト☆」
 その場で飛び跳ねて、天使のような優しい笑顔を見せてくれるミハイル。
 対して、担架で運ばれる『玉』を潰された男子。
「……」
 俺は同じ男として、涙を流した。

 震えあがる三ツ橋高校の生徒たちを見て、宗像先生が怒鳴り散らす。

「早くせんか! 授業が終わるまでお前ら全員帰るなよ!」

 そうして、健康な男子たちの股間が、次々と砕け散っていくのであった。
 全てミハイルの手により……。
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