上 下
185 / 490
第二十三章 第二次テスト大戦

愛の結晶

しおりを挟む

 俺はかくして18歳を無事に迎えることができた。
 ていうか、ミハイルとアンナに祝ってもらえてウルトラハッピー! な年だったぜ。
 ちょっと今までの人生があまりにも孤独だったせいか、彼と彼女からもらったプレゼントを毎日眺めては、涙を流していた……。
 アンナの作ってくれたパジャマを着て、胸ポケットにミハイルがくれた万年筆を入れ、執筆活動に勤しむ。
 書ける書ける! スラスラと映像が文字に変換されていく。
 ラブパワーだな。
 
 
 ある日、博多社の担当編集、白金 日葵から電話がかかってきた。
 電話に出ると、いつもふざけているロリババアがかなり慌てている。

『あ、DOセンセイ! 大変です!』
「どうした? お前の合法ロリ風俗店就職が決まったのか?」
『んなわけいでしょ!』
 されたらいいのに。今よりだいぶ稼げるんじゃない。
「なんだよ。ちょうど筆がイイ感じで進んでいたのに……」
『ホントですか!? ならちょうどいいです!』
「なにがだよ?」
『今月号の‟ゲゲゲマガジン”で発表したセンセイの拙作‟気にヤン”が大反響で、発刊以来の重版決定となりました!』
 拙作て自分で言うもんじゃないの……。
「重版?」
 耳を疑う。
 白金がとうとう頭がイカれちまったんだろって思った。

『なので、長編書いてください! 単行本発売決定で、すぐに8万文字必要です! 期限は2週間! では、おなーしゃす! ブチッ……』
「ちょ、ちょっと……」
 一方的に切られてしまった。
 それにしても、俺の作品が久しぶりに単行本化するのか。
 書いたのがラブコメってのが、ちょっと癪だけど、まあ悪くない。
 よし、書こう。
 今の俺なら来週までに8万文字なんて、訳ないぜ。

 なぜなら、アンナのパジャマとミハイルの万年筆があるからなっ!
 タイピングしていく指の速さがグンと上がる。
 その時だった。
 自室の扉がバタンと、大きな音を立てて開く。

 妹のかなでだ。
「ただいまですわっ!」
「おう、おかえり……」
 俺は振り返りもせず、机の上でパソコンとにらめっこ。
 自身に追い込みをかけているからだ。
「おにーさまったら、顔も見てくれないなんて……てか、そのパジャマ……ダセッですわ」
「……」
 この時、俺は思った。かなで、いつかぶっ殺す。


 ~2週間後~

 連日連夜、原稿に終われていた。
 ちょくちょく白金とオンラインで打ち合わせ重ね、構成を見直したり、キャラをもっと深堀したりとまあ、作家らしい仕事をこなす。
 その間、新聞配達も朝と夕方にやるから、仮眠を取る暇があまりない。
 徹夜の日々であっという間に、原稿の期日になる。
 もちろん、この天才作家のことだ。ちゃんと間に合わせたさ。
 ネットで原稿を白金に送り、あとは全部出版社に丸投げ。
 

 ふとカレンダーに目をやる。
「あ、今日はスクリーングだったか……」
 原稿のことばかりで、すっかり忘れていた。
 一ツ橋高校の二回目の期末試験。
 寝不足だが、あんな幼稚なテスト余裕だな。
 あくびをかきながら、リュックサックを持って家を出た。


 小倉行きの電車に乗り、車内のロングシートに腰を下ろすと、すぐに夢の中に入る。
 しばらくすると、どこかの駅に止まった。
 振動で目を開く。すると、ミハイルが隣りに座っていた。
「ミハイル……」
 ゆっくり身体を起そうとするが、白い手が俺の瞼を覆う。
「タクト、疲れてんでしょ? オレが起すから寝てて☆」
 耳元でそう囁く。
 その声はとても優しく、俺の疲れも吹っ飛んじまうぐらい愛らしい。
「た、頼む…」
「いいよ☆」


   ※

 スマホの振動で目が覚める。
 気がつくと、俺は身体を横にしていた。
 枕にしてはやけに柔らかい。
 なんだろうと思い、顔を下にずらす。
 すると、ぷにぷにと何かが唇に当たる。
「キャッ!」
 ミハイルの声?
 ということは、これは……。
 太ももだ!

 クンクン、思わず香りを堪能してしまう。
 だって、こいつが悪いんだ。
 毎回ショーパンなんて履いてやがるから、細くて白い太ももが露わになっちまうだろ。誰でも匂ったり、その感触を確かめたりしたいのが、人間!
 自身の唇で太ももの柔らかさを確認しつつ、鼻で石鹸の甘い香りを楽しむ。

 徹夜した甲斐があったてもんだ。
 癒されるぅ~

「ちょっ……タクト! なにふざけてんの! もう赤井駅だよ!」

 自分で膝枕させておいて、頭を叩いてきた。
 まったく困ったツンデレのダチだな。

「すまん。ここ連日徹夜していててな……寝入ってしまったようだ」
 しれっと言い訳をしておく。
「そっか……タクトも試験勉強?」
 話しながら、車内から出てホームに降りる。

 赤井駅を出ても、話は続く。

「俺は、試験勉強じゃなくて執筆の方だ」
「え、新作を書いてんの?」
「以前にアンナを……モデルにしたラブコメの短編があってな。それが人気らしくて、いきなり単行本化だそうだ」
 クソがっ! なんで俺が書いた処女作『ヤクザの華』は売れないんだよ!
 俺の思惑とは裏腹に、ミハイルは瞳をキラキラと輝かせる。
「スゴイじゃん! おめでとう、タクト☆」
 ニカッと白い歯を見せて、微笑む。
「う、うむ……。今回の作品に関しては、ミハイルにその、感謝してる」
「オレに?」
「ああ。アンナという取材対象を紹介してくれてな」
 一応、礼はしておく。
 って、目の前にいるやつなんだけど。

「そ、そんな……まだ本も発売されてないのに。気が早いよ……」
 言いながら、顔を赤くしてモジモジしだす。
「でも、オレからアンナにちゃんと伝えておくよ」
 伝えるもなにも、今面と向かって俺があなたに言ったじゃない。
 なにこの、面倒くさいやりとり?


 一ツ橋高校に着くまで、ミハイルは終始、頬を赤くしていた。
 どうやら自分のように喜んでくれているらしい。
 ま、そりゃそうだよな。
 小説ていうか、ただの日記みたいなもんだ。
 言わば、合作だ。
 俺とミハイル、アンナの……。


 








しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...