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第二十二章 第一次テスト大戦
こいつの愛と勇気詰めて、告ってこい!
しおりを挟む俺は生まれて初めてもらった誕生日プレゼントに感動していた。
いや、家族からもらったことはあるんだけど。
母親からは薄い同人誌、妹からはエロゲ、父親は逆サプライズで金を要求してきやがる。
そんな酷い環境だったから、万年筆だなんて。
誕生日ってこんな思いやりがある品物をもらえるイベントだったんすね。
泣けてきました。
嬉しかったから、彼に一緒に帰ろうと言ったが、「まだ仕事が残っている」と断られた。
健気もんだ。
だが、しかし今日が俺の誕生日なのは仕方ないことだけど……。
俺だけがプレゼントをもらいぱなしってのも、なんか気になる。
「ミハイル、お前の誕生日っていつだ?」
やられたら、やり返す! 倍返しだ!
「オ、オレの……? し、知ってどうする気?」
頬を赤くして、もじもじする。
「そりゃ、もちろんダチの誕生日なんだから祝うに決まってんだろ」
「オレは12月の23日生まれだよ……」
耳元にかかった毛先を指で触って見せる。
照れているようだ。
「よし、認識した。じゃあミハイルは何が欲しいんだ?」
だってこいつの趣味ときたら、カワイイもんばっかだから、俺には分からん。
「え……タクトが選ぶものならなんでも……それにオレはタクトが、一緒に祝ってくれることが、一番のプレゼントだもん……」
なにいってんの、キミ。
「そうか。まあまだ半年もあるから。考えておくよ」
「うん☆ 約束だゾ! オレ、残りの仕事があるから、もうひと頑張りしてくるよ☆」
俺に背を向けると、レジへと走っていく。
その後ろ姿ときたら、ただの天使。
女の子のように両腕を左右に振り、桃のような小さな尻をプルプル震わせる。
「よし、俺も頑張るか」
ミハイルからもらった万年筆をギュッと掴む。
俺はタイピング派なのだが、この万年筆を持っていると、創作意欲が湧いて来るってもんだ。
確かな手ごたえを感じると、踵を返す。
※
帰宅するとセーラー服姿のかなでが抱きついてきた。
「おにーさまっ!」
無駄にデカい乳が俺を襲う。
プニプニした感覚がとてつもなく気色悪い。
自ずと呼吸ができなくなる。
「ふごごっ」
「お誕生日おめでとうございますわっ!」
こいつ、また乳が発育してないか。
中三でこのデカさとか、もう乳がんじゃね?
「いいから離せ!」
「あーん、おにーさまのいけず……」
「やかましい!」
人がせっかくミハイルのプレゼントを喜んでいたというのに……台無しだよ!
リビングに入ると、辺りは一変していた。
『HAPPY BIRTHDAY! TAKUTO』
という文字がデカデカと壁に貼られていた。
それに部屋中にリボンや造花で埋め尽くされている。
ただし、合い間合い間に裸体の美男子やランジェリーを着用した男の娘がパーティーに参加していた。
「はぁ……」
これだから、俺の誕生日パーティーは嫌なんだ。
ただの虐待。
かなでと母さんの趣味に付き合わせられているだけ。
主賓は俺じゃないんだよ。
こいつらはただ遊びたいだけ。
その証拠が眼前にある。
「タクくん、18歳おめでとう!」
そう言う母さんの手には、手作りのショートケーキが。
しかしだ。白い生クリームの上で、裸体の男同士でチャンバラごっこしているんだよなぁ。
こんな卑猥なケーキを作れるのって、母さんだけだと思う。
「はぁ……」
俺もそろそろ児童相談所に行くか。
※
宴もたけなわ、というか、乱痴気騒ぎがやっと治まる。
母さんがハイボール飲み過ぎて、裸で踊りだすし、妹のかなでも大音量でエロゲーをやりだす。
もう誕生日パーティーどころじゃない。
誰か、僕を助けて……。
そう思っていた瞬間だった。
スマホのベルが鳴る。
久しぶりに見る着信名だった。
その名も、「アンナ」
「もしもし?」
『あっ、タッくん☆ 今いいかな?』
「構わんぞ。ただ、ちょっとうるさいから外に出るわ」
だってバカ女たちがギャーギャーうるさいから。
「ヒャッハー! BL祭りじゃヒャッホー!」
と、裸のおばさん。
『ああんっ! おにーちゃん、ボクはおとこのこなのに……ああん!』
をガン見しているJC。
カオスすぎるので、外に出て話しますわ。
一階に降りて、裏口の玄関から外に出る。
気がつけば、空に月がのぼっていた。
もう夜も遅い。
スマホを持って、真島商店街に出た。
外の空気を吸いたいと言うのもあったけど、アンナの声を静かに聞きたかったから。
「もしもし、悪かったな」
『ううん。ひょっとして、お家でパーティーしてた? 電話してていいの?』
「問題ない。ありゃバカの末路だ……」
『バ、バカ?』
「こっちの話だ。気にするな。ところでどうしたんだ?」
『あ、あのね。今、アンナ真島駅にいるの』
「えっ!?」
驚いて、スマホを耳から離す。
時刻を確認すると、『11:20』
「アンナ! お前、今真島駅に来てんのかっ!?」
『うん、どうしても今日中に渡したいものがあって……』
「と、とりあえず、急いでそっちに向かうから、駅のコンビニにでも入って待ってろ!」
『え? 急がなくてもいいよ?』
「バカッ! 女の子がこんな時間に歩いてたら危ないだろっ!」
って言いながら、俺自身もアンナが男だってことに忘れてた。
俺はスマホで通話しながら、全速力で商店街を走り抜け、真島駅に3分もしないうちにたどり着く。
ピザの配達より早いね!
必死になって、アンナを探す。
コンビニの窓から手を振る一人の女の子がいた。
赤いチェックのワンピースに、リボンのついたローファーを履いている。
髪は後ろでハーフアップしていて、ワンピースと同じ柄のチェックの大きなリボンでまとめいていた。
俺が肩で息をしていると、慌ててコンビニから出てくるアンナ。
「タッくん……そんなに急がなくても良かったのに」
優しく微笑みかける。
気がつけば、俺の背中をさすってくれていた。
「だ、だって……女の子がこんな……深夜に危ないだろ……」
「ありがとう☆ 優しいね、タッくんは☆」
アンナの髪から甘いシャンプーの香りがした。
なんだか、ドキドキしてしまう。
息を整えると、彼女に問いかける。
「ところで、俺に渡したいものって?」
「ミーシャちゃんから聞いたんだけど、今日ってタッくんのお誕生日なんだよね?」
あの、自分から自分にものを伝えるってどうやってんの?
乖離した人格と精神の部屋みたいなとこで、ペチャクチャ話すの?
まあそれはさておき、話を合わせる。
「ああ、そうだが……」
さっきくれたじゃん。高い万年筆を。
ミハイルからだけどさ。
「アンナもね、プレゼントあげたかったけど、無職だから、お金ないの……」
ウソつけ! おまえ、さっきまでスーパーで働いてだろ!
「そ、そうか……まあ気を使わなくていいぞ?」
「そんなわけにはいかないよ☆ だって、タッくんとの初めてのお誕生日なんだから☆」
はにかんだ笑顔を見せる。
だが、久しぶりに見る彼女の姿には違和感を感じた。
化粧で隠しきれないほどの、大きなクマが瞼の下にあるからだ。
「アンナ、一生懸命考えて、プレゼントをこれにしたの☆」
俺に向かって大きな紙袋を差し出す。
「これを、俺にか?」
「うん、開けてみて☆」
紙袋から出てきたのは、丸い包み紙。
手に持ってみると、柔らかくて軽い。
なんだろうと思い、包装紙を丁寧に開いていく。
中には、紺色のボタンシャツとズボンが入っていた。
「ん? パジャマか」
「当たり☆」
広げて見ると、ただの寝巻きじゃないことに気がついた。
襟元と袖口にハートと星のプリントがいっぱい刺繡されている。
背中には
『TAKUTO FOREVER☆』
とある。
いや、俺まだ死んでないよ?
ズボンにも目をやる。
尻の割れ目の生地がピンク色になっていて、ハートの形。
ここにも文字があって、
『SWEET CUTIE』
と書いてあった。
これを着て寝ろと?
「あ、ありがとう。アンナ」
「気に入ってくれた?」
「ああ、すごく良くできているよ。ところで、これアンナが作ったのか?」
「うん☆ ミシンで作ったんだ☆」
そういうことか……。
慣れない仕事に、試験勉強、それに裁縫まで…。
俺のためなんかに、ここまで頑張るなんて。
それも知らずに、俺はのほほんと一週間を過ごしていた。
罪悪感が押し寄せてくる。
「本当にありがとな、アンナ。良かったら家に寄ってくか?」
「ううん、悪いけど帰るね。ほら、タッくんは今試験中でしょ。勉強の邪魔したら良くないから☆ また今度ね」
そう言うと、別れを惜しむこともせず、ささっと駅のエスカレーターを昇っていった。
俺はその姿を下から眺めていた。
あ、今日のパンツ。ピンクだ……。
これが、最高のプレゼントでした、と。
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