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第二十二章 第一次テスト大戦
男の娘差別
しおりを挟む結局、なぜミハイルがバイトを始めたのかは聞きだせなかった。
とりあえず、ホームルームを終えて、初めての期末試験が始まる。
午前中の4時限目まで全部ペーパーテスト。
午後からは音楽の試験があるらしい。内容は担当の光野先生しか知らないのだとか。
チャイムの音が鳴り、各々が選択している科目の教室に散らばっていく。
一ツ橋高校は単位制なので、全日制の高校を中退したり、編入してきた生徒たちがいるため、全員が全員、同じ科目を受けるとは限らない。
といっても、俺たち00生はみなほぼ同期なので、自ずと固定されたメンバーだ。
教室に残ったのは、いつも通り、俺とミハイル、北神 ほのか。
千鳥 力に花鶴 ここあ。それに日田の双子。
そんなもんか。
一時限目のテストは現代社会。
例によって、オタクっぽいもっさりとした、無精ひげの若い男性教師が「ふぅふぅ」と言いながら、プリントを持って教室に入ってくる。
しばらく見ない間に、長髪になっていた。
髭もネクタイまで伸びていて、どこかの尊師みたいだ。
眼鏡が曇っていて、不審者にしか見えない。
「それじゃ、プリント配るから後ろに回してね」
そう言うと、一番前の机に用紙を置いていく。
受け取った生徒が次々に後ろの席へと渡していった。
俺もそれを受け取ると、振り返って次の生徒に渡そうとする。
だが、相手はいびきをかいて眠っていた。
ギャルの花鶴 ここあだ。
机に足をのせて、股をおっ開けている。
つまりパンティどころの話ではない。
「お、おい! 花鶴! テスト始まるぞ!」
一応、彼女の足をつかんで揺さぶる。
「ふががっ……」
口を大きく開いて涎を垂らしていた。しかも白目向いて寝てやがる。
なんて下品な女だ。
「起きろって!」
ペシンと彼女の脚を叩く。
「ふごっ! ん? なぁに……オタッキーってば?」
「なにって……ほら。テストだよ。お前の分をとって後ろに回せよ」
「ハイッハイッ…」
そう言って、プリントを受け取り、雑に後ろへと回す。
一連の行動を終えると、あろうことか、テストを机に置いてまた眠りに入る。
「ふごごごっ」
なんてやる気のないやつだ。
もう、花鶴は単位取れないな。
心配になって、右隣りのミハイルに目をやる。
俺の不安をよそに彼は本気のようだ。
しっかり筆箱を用意して、真剣な目つきでプリントと睨めっこ。
ほう、やる気のようだな。
そして、教師が「では始め」と合図を出す。
一斉に鉛筆の「カッカッ!」という音が教室中を駆け巡る。
もちろん、俺もそのうちの一人だ。
試験の内容は、宗像先生の予告通り、レポートの復習だった。
暗記するまでもない。
俺はスラスラと空欄を埋めていく。
気がつけば、10分で書き終えていた。
内容も酷いが、レポートさえあれば、こんなの楽勝じゃないか。
鼻で笑うと、俺はプリントを裏返して、教室の時計に目をやる。
それに気がついた教師が俺に声をかける。
「あ、もう終わっちゃった? 悪いけどみんなが終わるまで待っててね」
「はぁ……」
別にカンニングするつもりはないが、暇だったので、クラスの中をグルッと一望する。
俺みたいにさっさと終わっちまう生徒はごくわずかだ。
日田の兄弟は余裕だったようで、テストそっちのけで、アイドルの話をしている。
「兄者、今期のあすかちゃんのライブはどうなされますか?」
「ふむ。10万は課金しよう」
あんな奴にそんな大金を貢ぐのかよ……。
左隣りに座っている北神 ほのかは、かなり苦戦しているようだった。
「ん~っと……これなんだっけ。徹夜でネーム書いてたから、覚えてないよぉ」
そんなことしてりゃ、覚えるわけないだろ。
俺が呆れていると、以外なことに助け舟が渡ってくる。
現代社会の尊師だ。
試験に不正行為がないか、教室をウロチョロしていた。
時折、立ち止まっては、生徒の書いているプリントを覗き込む。
ただし、女子のみだ。
男子はガン無視。
息を荒立てて、「はぁはぁ……」上から女生徒の胸元をのぞくように、見張っている。
キモッ。
ほのかの席の前に立つと、じーっと彼女を見つめる。
隣りから見ていると、彼女のふくよかな胸を眺めているようにしか、感じない。
しばらく黙ってほのかを監視していたと思っていたら、急に尊師の手がサッと動く。
彼女の指を自身の手でどかして、「これ違うよ」と言う。
「えっ……」
俺は思わず声に出していた。
次の瞬間、尊師は小声でほのかにささやく。
「この問題は三択だよね。答えはB。あと、こっちの問題も間違ってるよ? これはね……」
おいおい、なに言いだしてんの? この先生……。
不正どころか、答えを教えてやがる。
今日って期末試験だよね?
授業じゃないよな……。
「あっ、そっかぁ。ありがとうございますぅ~」
すんなり受け入れるほのか。
尊師は別に悪びれる様子もなく、「うん、いいよ。また分からないとこあったら声をかけて」なんてほざきやがる。
どういうことだってばよ?
その後も尊師は、教室中の生徒に声をかけては次々と答えを言ってしまう。
だが、助言するのは女子のみだ……。
なぜか、男子には声をかけない。
意味がわからん。
俺は初めて見るその光景に、呆然としていた。
「うーん……これって、えっとぉ……あっ! そっか、思い出したぞ☆」
ふとミハイルに目をやる。
必死になって、答えを思い出しているようだ。
対して北神 ほのかや他の女子生徒たちは楽して、試験を終えていく。
「はぁ~ 書けてよかったぁ!」
そう言って背伸びをするほのか。
ブラウスのボタンがはじけそうなぐらい胸が前にのめりだす。
「えっと……これはなんだっけ? 思い出さなきゃ、タクトから借りたレポートを……」
額に尋常ないぐらいの汗をかいて、答えを絞り出すミハイル。
健気だ。
あのおバカなヤンキーがここまで、真面目に勉強しているなんて……。
よっぽど、俺と一緒に卒業したいらしい。
しかし、なんだ。
わかりやすいほどに、男女差別が激しいな。
ミハイルは天使のような可愛さだというの、男だってだけで、教師は答えを教えてくれないだもんな。
だが、こればっかりは努力でどうにか這い上がってもらうしかない。
不正行為は良くないし。
がんばれ、ミハイル!
俺は両手を合わせて、祈りを捧げる。
無神論者なくせに、こういうときだけ人間ってのは、信心深くなるんだな……。
どうか、ミハイルが合格できますように。
目をつぶって、そう願掛けをしている最中だった。
背後から声が聞こえてくる。
「ねぇねぇ、キミ」
尊師の野太い声だった。
俺を呼んだと思って振り返る。
すると予想は外れていて、教師が声をかけたのは、未だに夢の中の花鶴 ここあだった。
「ほがっ! ん……なに? しんしぇ?」
相変わらず涎を垂らして、アホ面でそう答える。
「テスト中だよ。ちゃんと書いて」
答えを教えまわるお前には言われたくないけど。
「えぇ……めんどくさいっしょ~」
「キミねぇ、ちゃんと卒業したいんでしょ? 僕が今から答えを言うから……」
教えるんかい!
「わーったよ。なんであーしが、こんなの書かなきゃいけないっしょ」
そうブツブツ言いながら、尊師お言葉に沿って、空欄を埋めていく花鶴。
一方で、俺の隣りにいるミハイルは、眉間に皺を寄せて、奮闘していた。
「あともう一問……んっと、タクトはなんて書いてたっけ……」
泣けてきた。俺の書いた字を思い出しているんだな。
偉いぞ、ミハイル。
そしてくたばれ、このクソ差別教師がっ!
答えを教えて、ワンチャンJKとお近づきにでもなりたいんだろ。
「ここはね、こうだよ」
「あーマジ? 先生って頭いーね♪」
「ハハハッ! 僕は教師だからさ……」
わからんが、この胸に沸々と湧き出る感情は、殺意ってやつか……。
だが、一方でイレギュラーは存在するものだ。
花鶴の隣りに、一匹の赤いタコがいる。
「クッソ~! わかんねぇ!」
ハゲの千鳥 力だ。
うん、君は自分でがんばりましょう。
見た目おっさんだし、可愛くないから、俺もスルーで……。
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