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第二十二章 第一次テスト大戦

試験前は禁欲が常識

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 五月も終わりを迎えるころ、自宅に一通の手紙が届いた。
 送り主は、一ツ橋高校の宗像 蘭先生。

 なんか久しぶりだな。この人。
 最近はミハイルとキャッキャッやってたから、存在感が薄すぎるわ。
 そうかわいそうに思いながら、封を破る。
 中に入っていたのは、一枚の用紙。

 手書きで殴り書きしてある。

『次回のスクリーングから春期試験を始める! 二回やるからしっかり勉強しておけ! 尚、出題範囲は返却されたレポートのみ!』

「あ、もうそんな時期か」

 いわゆる期末試験ってやつだ。
 一ツ橋高校は、レポートとスクリーングの出席。それから期末試験で一定の成績を残すことで、今期の単位が取得できると聞いた。
 スクリーングに行く度に、提出したレポートが返却される。
 大体6枚ぐらいの小テストだ。
 こんなものは暗記するまでもない。
 それに中学生時代のおさらいだしな。下手したら、小学校より低レベルな問題も多い。
 

 アホらしいと、俺は宗像先生の手紙をゴミ箱に捨てようとした。
 すると、用紙の裏に何かがクリップで挟んであることに気がつく。

「なんだ?」

 クリップを外してみると、そこには一枚の写真が……。
 恐る恐る覗いた。

 セーラー服姿の宗像先生が、一ツ橋高校いや、三ツ橋高校の教室内で股をおっ開けていた。
 仮にも教師だというのに、日頃全日制コースの生徒が勉強している机の上に、尻を乗っけて、グラビアアイドル顔負けのなまめかしいポーズをとっている。
 紫のレースパンティーが丸見え。
 しかも、自身の唇で襟を掴み、裾をまくり上げている。
 つまりパンティと同系色のブラジャーが露わになってしまうのだ。

「おえええ!」

 俺は自身の部屋のゴミ箱にゲロを吐いてしまう。

 それを聞きつけた妹のかなでが、部屋に飛び込んできた。

「おにーさま! どうなされましたの!?」
 涎を垂らしながら、肩で息をする。
「ハァハァ……セクハラテロだ……」
 そう言って、写真をかなでに手渡す。
「あら、この方で使ったんですの?」
「んなわけあるか! 捨てておいてくれ……」
 もう見たくないので、妹に処分をお願いしておいた。

「捨てるなんて勿体ないですわ……そうですわ! この写真をネットオークションに出品して、お小遣いにしましょう♪」
 そう言って、かなでは自室のパソコンを起動し、宗像先生をスキャンし出す。
 マジで出品されてて草。
 ざまぁねーな。
 俺は知らん。

 
   ※

「ま、一応、レポートを見直しておくか」
 気を取り直して、久しぶりに机に座る。
 返却されたレポートに目をやると、全問正解で余裕だった。
 幼稚すぎる問題ばかりだからな。
 こりゃ単位取得も楽勝ってもんだ。
 鼻で笑い、机の引き出しにレポートを直そうとしたその時。

 スマホからアイドル声優のYUIKAちゃんの可愛らしい歌声が流れ出す。
 俺のお気に入りソング、『幸せセンセー』だ。
 ああ、癒される。

 着信名はミハイル。

「もしもし?」
『あ、タクト☆ 捕まってよかったぁ☆』
 え? 俺、逮捕されたの?
「な……なんのことだ?」
『あのさ、宗像先生から手紙きた?』
「きたぞ。試験のことでだろ」
『う、うん……それで困ったことがあってさ…』
 なんだ? まさか試験勉強を一緒にしようってか?
 この低レベルなレポートは勉強するまでもないぞ。
 暗記してオワタ! なんだから。

「それで? なにが困ったんだ?」
『あ、あのね……返してもらったレポート。試験に出るって知らないで捨てちゃったの……』
 ファッ!?
「な、なるほど……。つまり俺のを貸してほしいわけか?」
『うん☆ いい、かな?』
 顔を見えんがきっと、ミハイルのことだ。上目遣いで頼みごとをしているのが想像できる。
 ダチだからな。仕方ない。
「構わんぞ。いつ取りにくる?」
 自然と笑みがこぼれる。
 学校以外で会えるってのが嬉しいんだろうな。
『ありがと☆ じゃあ、今からタクトん家に入るね☆』
「え?」
『オレ、今家の下にいるからさ☆』
「な、なに?」

 そう言った時には、もう既に足音が階段から聞こえてきた。
 トタトタと子供のような可愛らしい小走りで。

 バタン! と音を立てて、自室の扉が開かれる。

「タクット~☆ 久しぶり~!」
「お、おう……」
 相変わらずの馬鹿力で、ドアを開けたため、少し歪んでしまった。
 初夏も近づいたこともあり、彼の装いも一層露出が増す。
 薄い生地のタンクトップにショートパンツ。
 思わず生唾を飲みこんでしまう。

 先ほどの宗像先生とは違って、俺はリバースしない。
 その美しい姿を学習机のイスに腰をかけたまま、見とれていた。

「ねぇ、タクトのレポートってどこにあるの?」
 固まっていた俺を無視し、ミハイルはズカズカと部屋に入り込む。
 俺の机に手をつき、腰をかがめる。
 自ずとタンクトップの襟元が緩み、胸元が露わになる。
 ピンクの可愛らしいナニかが見えそうだ。
 視線をそらす俺に対し、首をかしげるミハイル。

「タクト? 聞いてる? オレ、早く帰ってべんきょーしないと……タクトと一緒に卒業したいからさ」
 そう言って、口をとんがらせる。
 もちろん上目遣いだ。
 彼のエメラルドグリーンの瞳がキラキラと輝く。
 クッ! 犯罪的な可愛さだ。
 抱きしめたいぜ、ちくしょうめが。

 俺は咳払いしてから、引き出しにおさめようとしたレポート一式を彼に手渡す。

「ほれ」
「ありがと☆ この借りは絶対に返すからな☆」
 いや、なんか復讐されそうな言い方やめてね。怖い。
「いらぬ気遣いだ。俺とミハイルの仲だろが……」
 言いながらもちょっと照れくさい。
「だよな☆ オレたち、マブダチだもんな☆」
 太陽のような眩しい笑顔がはじける。
 フォトフレームにおさめたいぜ。

「ところでタクトってさ……」
 笑ったかと思うと、急にもじもじし出すミハイル。
 なんだ? 聖水か?
 お花畑なら部屋を出て、廊下の奥にあるぞ。
「あん? なんだ?」
 顔を真っ赤にして、何か言いづらそうだ。
「あのね……タクトの誕生日っていつ?」
「なんだ。そんなことか…」

 取材のためにチューしたい! とか言うのかと期待してしまったじゃないか。
 返せよ、俺の心の準備。
 しかし誕生日なんて聞いてどうするんだ?
 俺のぼっちを笑いたいのか?

「誕生日は6月7日だよ」
「え!? もうすぐじゃんか! なんでそんな大事なことを早く教えてくれなかったの!?」
 恥ずかしがっていたくせに、急に怒り出す。
「なんでって言われてもな……別に聞かれたことないし。ミハイルになんの関係があるんだ?」
 俺がまた童貞として、一つ年を重ねるだけの哀れな記念日だぞ。
「関係あるよっ!」
 机を叩いて、怒りを露わにする。
 こわっ……。
「いや、なんかごめん」
 俺悪い事した?

「あと一週間もないじゃん!」
「確かに五月も終わりだしなぁ」
「こんなことしてられない! オレ、もう帰るよ!」
 そう言い残すと、ミハイルは当初の目的であったレポートを雑に握りしめ、嵐のように去っていた。

「なんだったんだ、一体……」

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