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第二十一章 ニャンニャンパラダイス

カノジョが地元に帰ると距離感つかめない

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「じゃ、タクト。ちょっと待っててね☆」
 ミハイルはそう言うと、俺に背を向ける。
 小さな桃のような尻をプルプルと震わせて、小走りで去っていく。
 自身の家でもある『パティスリー KOGA』に入っていったのだ。

 三ツ橋高校の体操服にブルマ姿で、地元の席内を歩くわけにも行かないので、彼の自宅に寄ったわけだ。
 今日は姉のヴィクトリアがシラフのようで、店を通常オープンしていた。
 窓から店の中を確認すると、子供連れの主婦たちが客として訪れている。
 普段はアルコール中毒で、下着姿でうろちょろする破天荒なねーちゃんだが、ニコニコ優しく微笑んでいる。
 さすがだ。
 嫌な顔せず、ショーケースからケーキをトングで取り出す。

 ミハイルと女装したアンナぐらいの二重人格だ。
 やはり血は争えないなぁ……。

 俺がそう感心していると、隣りから声をかけられる。

「お待たせ☆」

 白い歯をニカッと見せつけて、太陽のように眩しく微笑むミハイル。
 本日のヤンキーファッションだが、胸元に大きな星がプリントされたタンクトップ。
 パンクなデザインで、なぜか左右にチャックがついている。
 たぶんおしゃれなのだろうが、俺からすると脱がせる前提のエロいデザインに感じた。
 布地も少なく、ミハイルの華奢な肩が露わになっており、丈もへそ上という短さ。
 
 そしていつもの如く、下半身は白くて細い脚が拝めるショートパンツ。
 防御力がほぼゼロだ。

 俺がスライムでも今の彼に襲い掛かれば、勝てそう。
 性的なバトルで……。

 しばらく、その光景に目が釘付けになっていると、彼が怪訝そうに俺をみつめた。

「タクトってば、ボーッとしてどうしたんだよ?」
 ムッとした顔で、下から俺をのぞき込む。
 腰を曲げているため、タンクトップが緩み、胸元が見えそうになる。
 誘っているんでしょうか? この人……。

「む、いや。なんでもないんだ……」
 頬が熱くなるのを感じた。
「変なタクトぉ……。あ、ひょっとして、昨日のたいそーふくがそんなに嫌いだったのか?」
 手のひらを叩いて、一人で合点する。
 いや、ちがうから。
 どっちも好きです……なんて言えるわけないだろが。

「違うよ。ま、とりあえず、ネコカフェに行こう」
「うん! 早く行こうぜ☆」

 そうそう、今日はそれが取材なんだから。
 デートじゃないのよ、タッくんたら。
 相手はアンナちゃんじゃない。
 男のミハイル。
 だから、ノーカウント。

 席内商店街を抜けて、以前ミハイルと買い物をしたショッピングモール、ダンリブの建物に沿って旧三号線に向かう。
 ダンリブの反対側には、100円均一の『タイソー』とドラッグストアが並んでいる。
 交差点を使って渡る。

 俺らオタク。つまりは犯罪者予備軍の天敵であるお巡りさんがお出迎え。
 道路を横断すると、目の前には交番があり、交差点に一人のポリスメンが立っていた。
 険しい顔で、辺りを見張っている。

 ミハイルとは顔見知りのようで、
「おぉ、ヴィッキーんところの弟じゃねーか」
 随分となれなれしく話すじゃないか……。
 ダチとしては、ちょっと嫉妬を覚える。
「あ、お巡りさん。おつかれっす☆」
 ミハイルも手を振って、笑顔で答える。
 なんだよぉ~ ヤンキーならそこは警察にイキってみせろよ。
 ムカつくなぁ。

 隣りでイラつく俺をよそに、ミハイルは世間話を始める。
「今からネコカフェに行くんす☆」
 てか、警察には敬語使うのな。
「そーか。気をつけて行ってこいよ。ん? 珍しいな。ミハイルのダチか」
 やっとのことで、俺に気がつく。

 一応、挨拶をしておく。
「あ、同じ高校の新宮です」
「高校? あー、ひょっとして、一ツ橋高校か?」
「そうです。なんで分かったんすか」
 俺が不思議そうに問いかけると、何を思ったのか、そのポリスは大声で笑い出す。

「ハハハッ! だって、本官もあそこの卒業生だからなぁ」
「え……」
「今は警察なんてやってんけど、昔はヴィッキーぐらいヤンチャしてたからさ。一ツ橋ぐらいしか、入学できなくてよ」
 そんな偏差値で、よく警察官になれましたね。
「はぁ…」
「ま、本官もヴィッキーも、もういい歳だからさ。今じゃ仕事あがりにウイスキーをストロング缶で割るぐらいしか、できないけどよ……丸くなったもんさ」
 いや、もっと酷くなってますよ。
 酒をお酒で割るなんて、ヤンチャどころじゃない。
 さっさと、アルコール外来か、病院にブチこむレベルだ。

「おっと、長話しちゃいけねーな。一ツ橋って言うと、どうしてもヴィッキーや蘭たちと悪さしてた頃を思い出しちまう」
 一人で勝手に語って、満足してんじゃねー。
 お前は席内を守る側であって、絶対に飲酒運転とかすんなよ、クソが。
 
「お巡りさん! オレたち早くニャンニャンに会いたいの! もういい?」
 ミハイルが頬をプクッと膨らませる。
「わりぃわりぃ。もう行っていいぞ」
 おでこをかきながら、申し訳なそうにミハイルに頭をさげる。

 すれ違いざま、お巡りさんが低い声で俺にこう言った。

「あ、一ツ橋といったら、日葵のバカがいたよな?」
「え……」
 日葵って、俺の担当編集の白金 日葵のことだよな。
「あいつ、たまに酔っぱらってウチの交番に夜中遊びに来るんだよ……。んで、鉄砲をパクって近くの海岸で撃ちまくるんだ。ストレス発散とか抜かして……。いつか逮捕したいから、見かけたら教えてよ♪」
 そう言って、笑顔で俺に伝える。
 目が笑ってない。すごく怖いです。

「も、もちろんです!」
 背筋がピンと伸びる。
「うんうん、いい子を見つけたな。ミハイル」
「だろ? オレのダチだからさ☆」

 やべぇ、白金と会っているところをこのお巡りさんに見られたら、俺まで逮捕されかねない。
 さっさと、担当をチェンジしてもらおっと。
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