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第二十一章 ニャンニャンパラダイス

借りパクは犯罪ですよ

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 俺とミハイルは朝食を済ますと、自宅を出た。
 二人して、真島商店街を歩く。
 平日の朝ということもあって、商店街はまだ人の出入りが少ない。

 隣りを歩くミハイルは、未だ三ツ橋高校の体操服にブルマ姿のままだ。
 恥ずかしくないのだろうか?
 平然とした顔で、俺に言う。
「ネコカフェ、楽しみだな☆」
 いや、その格好で歩くの勇気いりません?
 僕だったら死にたくなります……。

「じゃあとりあえず、席内に行ってミハイルん家に寄ろう」
「え、なんで?」
「その格好のままじゃ、問題だろう……借り物とはいえ女子の体操服だからな」
「別によくね?」
 ダメだよ、普通に。
 この人、女装のしすぎで頭おかしくなってねーか?
「ダメだよ。ちゃんと洗濯して今度のスクーリングで返さないといけないし……それに、そのなんだ。俺も目のやり場に困る」
 白くて細い太ももに食い込むブルマが、童貞の俺にはどうしても冷静ではいられなくなってしまう。
 認めよう、ミハイルの魅力に……。
「ふーん。なんでか分かんないけど、タクトがこの服、嫌ならもう二度と着ないよ?」
 意味を理解できていないようだ。
 首をかしげて、俺の顔を下からのぞき込む。
 くっ! このあどけない態度が、憎めない。
「それは断じて違う! 嫌いじゃない!」
 むしろアンナモードでも着てください! お願いします!
「じゃあ好きなの?」
「んん……返答に困る」
「変なタクト~」
 あなたもやってること、十分変態なんだけどね。


 頬が熱くなる。恥ずかしくなって、目をそらす。
 俺の気持ちを知ってか知らずか、当の本人は頭の後ろに両手をやりながら、鼻歌交じりにてくてくと歩いてる。
 そんなときだった。
 スマホの着信が鳴る。
 見たことのない市外局番だった。
 ミハイルの姉、ヴィクトリアの自宅かと思ったが、あそこは前回、アドレス帳に登録しておいた。
 席内市の番号ではない。
 だが、福岡県の番号だ。

 とりあえず、電話に出る。
「もしもし?」
『おぉ! 新宮か! 今日もカワイイ蘭ちゃん先生だ~』
 酒やけした低い声が受話器から漏れてくる。
 一瞬、いたずら電話の変態おじさんかと思ったが、その正体は一ツ橋高校の宗像先生だった。
「どうしたんすか?」
『あのな、昨日やった運動会でさ。三ツ橋高校の体操服着ただろ?』
 先生にそう言われて、隣りを歩くブルマくんを見つめる。
「そう言えば、そうでしたね。今度のスクーリングで返却すれば、いいっすか?」
『いや、そんなことしなくていい。もらっておけ』
 ファッ!?

「ええ? だって、三ツ橋の生徒の物でしょ? そんなのパクりじゃないっすか!?」
『そんな盗んだみたいなことを言うなよ、新宮』
 受話器の向こうで、ヘラヘラ笑いながら、喋ってやがる。
「どういうことです?」
『あのな、昨日の運動会で、最後に三ツ橋の校長が乗り込んできたろ? あの後、先生がどうにかごまかしてな。変質者たちが三ツ橋の体操服着て、運動場で乱痴気騒ぎしてたってことにしといたんだ♪』
 な、なんて嘘をつきやがったんだ。
 勝手に運動会を主催しとして、俺たち一ツ橋の生徒は変質者扱いかよ。
『体操服は変態に盗まれたってことにしてるからさ。三ツ橋の保護者が激怒してて、買い直すことになったらしいぞ♪ 良かったな♪ タダで体操服ゲットだぜ!』
 やっぱり盗んだんじゃねーか!
「いや、そういうわけには……」
『名前のワッペンを変えれば、問題ないから。じゃあな! ブチッ……』
「ちょ、ちょっと……」
 一方的に電話を切られてしまった。

 ミハイルが俺に屈託のない笑顔で言った。
「タクト? ひょっとして、宗像センセー?」
「うん……」
 背筋が凍る。
 俺は、いや俺たちは犯罪者に仕立てあげられたのか……。
 主な罪状、窃盗と不法侵入、ついでにわいせつ罪もありそう。

「どうしたの? タクト」
「その、体操服もらっていいってよ」
「マジで? タクトが好きなら今度これ着てどっか遊びに行こっか☆」
「え……ああ、とりあえずワッペンだけは変えとけって、言われたよ……」
「オレ、刺繍得意だからまかせろ☆ タクトの分もしといてやるよ!」
「じゃ、頼むわ」
「おう☆」
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