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第二十章 夜の大運動会

ギャンブラー、蘭ちゃん

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 俺と坊主頭の好青年、石頭くんは朝礼台の前に並び立つ。
 一本のマイクが置かれていた。
 
「えー、では開会式を始める!」
 デカデカと大きな声で叫ぶ宗像先生。
 隣りには眼鏡をかけた裸体の中年教師が……。
 ブルマ着たアラサーとゴールデンパンツのおっさん。
 変態同士、このまま結婚したら?
 お似合いだよ。

「今回は三ツ橋高校の光野みつの先生と全日制コースの生徒たちが複数参加してくれた……それにはちょっとした訳があるのだが……」
 あの裸先生の名前って、光野って言うんだ。
 ゴールデンパンツと言い、ピッカピカな人だね。
「本大会はバトルロワイアル形式で、行われる。つまり……今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいます」
 ファッ!?
 一体、何十年前のネタだよ!
 しかも、俺の大好きなタケちゃんをブルマで汚すな!
 せめてジャージ着てやりなおせ!

 ざわつく運動場。
 ただ、驚いているのは通信制コースの生徒たちだけだ。
 全日制コースの学生たちは別に驚くこともない。
 どうやら、事前に情報を仕入れていたようだ。
 俺の隣りに立っている生徒会長、石頭くんはピシッと背筋を伸ばして、光野先生の股間を見つめていた。
 うーん、石頭くんって片思いしちゃってる?

 
 しかし、宗像先生の思いつきというか、お遊びにも程があるってもんだ。
 俺たち未成年を集めて、こんな夜から殺し合いとか……ちょっと教育委員会が黙ってませんよ。
 悪い冗談だ。
 俺は一ツ橋代表として、マイクを使い、訴える。

「質問いいでしょうか?」
「新宮! 私語してんじゃねぇ!」
 ちゃんと手をあげて質問してやっただろうが。
 いつまであの映画好きなんだよ。
「すみません……」
「てめーら、大人なめてんじゃねーぞ!」
 なめてねーよ。ちゃんと敬語使ってるだろが。

 宗像先生は意外とタケちゃんのファンだったのか。
 ま、それはいいけど、ちゃんと授業やれよ。

「質問は一個までだ! 二個言ったら欠席扱いするぞ、コノヤロー!」
 酷い……なんてブラックな運動会だ。
 
「あ、あの……バトルロワイヤル形式でしたっけ? 勝者には一体のなんのメリットがあるんですか?」
「質問は一個にしとけったろ!」
 もうどうでもいいわ…。
 宗像先生は「まあいい」と咳払いして、改めて説明を始めた。

「今、我が校のホープ。新宮 琢人が質問してくれたことだが……」
 人を勝手に希望にすんな!
「バトルロワイヤル形式で、最後まで生き残った者には、一年分の単位をやろうと思う」
 ファッ!?
 なにを言ってんだ、コイツ。
 運動会でMVPとったら、一年間、学校通わなくてもいいのかよ……。
 とんだ教師だな。

 宗像先生の発表に歓声をあげる生徒たち。主に一ツ橋のヤンキーたちだ。

「ヒャッハー! これで勝てば一年間遊べるぜ!」
「シャッアー! 単位ヤバかったらラッキー♪」
「ぼ、ぼかぁ、それよりも宗像先生の追加写真が欲しいな、ハァハァ……」
 あれ? 最後はヤンキーくんじゃないね。
 
 反して、一ツ橋の真面目組は正直、嬉しそうじゃない。
 そりゃそうだろ。
 毎日、コツコツとレポート書いて提出して、スクリーングにも真面目に通っている身分からしたら。
 こんなこと、前代未聞だし。
 バカバカしくなってくる。
 俺もそのうちの一人だ。


「あ、あと、これは通信制コースの一ツ橋高校の諸君のみだ。全日制コースのみんなには悪いが、単位はやれない。だってあのクソバカ校長が許さないからな」
 えぇっ、かわいそう。
 なんのために集められたんだよ。
「その変わりと言ってはなんだが、本大会で優勝をおさめたのものは『なんでも一つだけ叶えちゃう権』を授与する!」
 な、なにを言いだすんだ……。
 七つのボールでも探したあとみたいな、サプライズじゃないか。
 宗像 蘭、お前にそんな神的権限はないだろう。

 
 ふと後ろを振り返ると、三ツ橋高校の生徒たちが何やら不敵な笑みを浮かべていた。
 一番最初に目が行ったのは、赤坂 ひなた。

「フフッ……絶対に生き残ってセンパイと毎日、新聞配達させてもらうんだから…」
 いや、あなたこの前、一緒に配達したやん。
 それにただの仕事だから、願うことじゃない。
 
 その次は赤坂 ひなたの背後にいた福間 相馬。
「うっし! 俺は赤坂とラブホっ!」
 それはダメ。ただの犯罪。合意の元でじゃないと、法で裁かれるよ?

 最後は光野先生率いる吹奏楽部。
「全国優勝をこの大会で勝ち取るチャンスよ! 3年の先輩たちと光野先生のためにも絶対生き残るわよ!」
「「「おお!!!」」」
 ちょっと、待って。
 音楽コンクールは実力で勝てよ。
 他力本願だったら、もう出場するな。


 俺はため息をついて、頭を抱える。
「なんなんだ、このバカみたいな運動会は……」
 呆れていると、石頭くんがこういった。
「新宮くんは負けるのが怖いのですか?」
 彼の瞳は光りこそなかったが、その眼差しはとてもまっすぐだ。
「いや、別にそういうわけでは……」
「ならば、僕と真剣勝負しませんか? 一ツ橋の皆さんにも『なんでも一つだけ叶えちゃう権』はもらえるそうですよ」
 あのさ、君。仮にも生徒会長だよね?
 そんな子供じみたこと、マジで信じてるの……バカじゃん。

「は、はぁ……」
「もし新宮くんに好きな子がいたとしたら……。僕が優勝して『その子と付き合いたい』なんて宗像先生に願ったらどうします?」
 こいつ…俺を煽る気か。
「俺に好きな子なんて……」
 いいかけた瞬間、脳裏をよぎる。
 イガグリ頭の石頭くんとミハイル、いやアンナが口づけを交わす光景が。
 胸にグサリと、槍が刺さった気分。

 ふと、振り返る。
 ミハイルが立っていた。
 体操服にブルマ姿の可愛いアイツ。
 俺の視線に気がつき、笑顔で手を振る。

「タクトォ! がんばれよ~」
 あんな無垢な顔をしたヤツの唇を奪われるなんて……。
 ミハイルの隣りにいていいのは、俺だけだ!


 歯を食いしばって、覚悟を決める。
「いいだろう。石頭君、俺と真剣勝負だ」
「やはり君は一ツ橋のホープですね。いい殺し合いを期待してます」
 そう言って拳と拳で、無音のゴングを鳴らす。
 ていうか、命はかけないからね。
 殺しちゃダメ。


 俺と石頭くんの姿を見て、宗像先生が高らかに笑い声をあげる。

「だあっはははは!」
 相変わらず、品のない笑い声だ。
 アゴが抜けるぐらい大きく口を開いてる。
 のどちんこが丸見え。
 こんな体たらくだから、嫁の貰い手がないんだ。

「その意気やよし! さすが、私の弟子だ! 新宮!」
 お前のところに入門するバカはいない!

「あと、言い忘れたが、これだけの優勝賞品を準備しているんだ。負けた高校には罰があるからな」
「え……」
 思わず、背筋が凍る。
「負けた高校は全体責任として、運動会のあと、一晩かけて校舎、武道館、食堂、それから同じ系列の保育園、短大を掃除してもらう」
「ハァッ!?」
 なにそれ、絶対に負けたくない。

 それに対して、生徒会長の石頭くんが手を挙げる。
「宗像先生、よろしいでしょうか?」
「うむ、なんでもいいたまえ」
「その罰として掃除する際は、未成年の僕らだけが掃除するのでしょうか? さすがに未成年だけで残るのは良くないかと……」
 さすが、生徒会長。
 間違ってない、偉いぞ!

「ああ、それについては問題ない。負けた方の教師が一緒になって掃除するからな。保護者の人にも先ほど許可をもらっている」
 おかあさーん! 認めちゃダメだよぉ!
「そうですか。ならいいんです」
 ニコリと笑って納得する、無能な生徒会長。


 しかし、引っかかる。
 このバカ教師が負けたら徹夜で掃除する、なんて発想をするのはおかしい。
 何か裏がありそうだ。
 先生たちにとっては、デメリットしかない。

 そこで俺がもう一度手をあげる。
「すいません。少しいいですか?」
「新宮!」
 と叫んだあと、ブルマの中に手を突っ込む。
 股間から小さな何かをつかみ取ると、俺の顔に目掛けてぶん投げた。

 その行為に俺は驚き、思わず口を開いてしまった。
 謎の物体は超速球でスポンと、俺の口内へストライク。
 なんか暖かくて、フニャフニャしている。
 恐る恐る、舌先で確かめると、微かに甘い。
 グミか。

「私語は慎めったろ! で、質問はなんだ」
 こんのやろうが、きたねぇもん食わせやがって。
 グミを飲み込んでから、こう言った。
「失礼ですが、先生たちにとっては何もいいことないじゃですか?」
 俺がそう質問すると、宗像先生はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、妖しく微笑む。

「だあっはははは! それなら心配ご無用だ! 私たち一ツ橋高校の教師たちはみんな、お前らに今月の給料をぶっこんでやったからな!」
「は?」
 ちょっと、言っている意味がわかんない。
「つまりだな。この運動会は賭け試合だ。勝った高校の教師は今月の給料が二倍になっちゃうんだ!」
 クソじゃねーか。違法だ!

 俺は開いた口が塞がらなかった。 
 宗像先生は「だからお前ら絶対に勝てよ」と脅しをかける。
 
 それまで沈黙していた光野先生がやっと口を開く。

「えー、宗像先生のおっしゃった通りだ。私もこの前、高額な楽器を借金してまで購入したからな……。すまんが、三ツ橋の諸君には死ぬ思いで頑張って頂きたい」
 うん、こいつもクソ教師だったのか。
 終わってんね、この学校。
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