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第十九章 謝罪と贖罪と……食材?
菓子折りは渡しても渡さなくても文句言われる
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ミハイルの案内でパティスリー KOGAの裏に回り、庭先で階段を昇る。
扉を彼が開こうとしたその瞬間、ギギッと軋んだ音を立ててドアは自ら動いた。
「よぉ、坊主。てめぇ、この前はよくも電話ブッチしやがったなぁ、コノヤロー!」
靴もはかずに素足で表に現れた店長のヴィクトリアさん。
頬が赤いのは彼女が恥ずかしがり屋なんていう可愛らしい人柄だからではない。
その答えはヴィクトリアの両手にある。
右手にウイスキーの角瓶、左手にはチューハイのストロング缶、500ミリリットルが握られている。
飲酒によって起こる症状で、血行がよくなり体温が上昇するといった結果でしょうね。
「うわぁ……」
こんな大人になりたくないな。
だって玄関開けたら、他人がいるかもしれないじゃないですか。
なのに、この人グリーンのレースが刺繍されたブラジャーで、下はなぜかボクサーパンツ履いているんだよね。
歩く痴女だな。
俺がその姿に呆気を取られていると、それを気にもせず、ヴィクトリアはズカズカと俺に詰め寄る。
「聞いてんのか! このクソ坊主!」
ツバ飛ばしながら顔面で怒鳴られる人の気持ちになってください。
しかも酒くさい。
「いや、聞いてますけど……」
鬼の形相で俺のおでこにグリグリと自身の額をこすりつける。
忘れてた、ヤンキーだったな、この家。
もう少しでキスできそうなぐらいの至近距離なんすけど、羞恥心とかないんですかね、この人。
酔っ払いの相手なんて面倒だなと、思っているとミハイルが助けに入る。
「ねーちゃん! ちかい近い!」
そう言って俺とヴィクトリアの間に入る。
彼女をひきはがそうと家の中に押し戻す……が力自慢のミハイルでもヴィクトリアはなかなか動かない。
「ミーシャ! お前は黙ってろ! 親代わりの姉として、あたいはミーシャをしっかりいい子に育てないといけないんだよぉ!」
いい子って……子供じゃないんだから。
それにミーシャの方が大人っぽく感じます。
あなたの方が精神的に成長が足りない気がします。
「違うんだってぇ! ねーちゃん、タクトは悪くないって言ったじゃん!」
おお、ねーちゃんファーストのミハイルからしたら珍しく反抗するな。
「バカヤロー! 無断でお泊りを許した覚えはねぇー!」
「そ、それはそうだけどぉ」
なんだろう、別に俺が謝罪に来なくても家庭内で会議したら解決する話じゃないのかな?
帰りたい。
数分間、ミハイルとヴィクトリアはもみくちゃになる。
その際ヴィクトリアのブラジャーが乱れ、ピンクの色の何かがチラチラと垣間見える。
ウォエッ!
もうこれ以上、アラサーの醜態は見たくない。
ので、とりあえず俺が場をおさめるために、一歩後ろに後退し、深々と頭を下げた。
「この度は、大事な古賀さん家のミハイルくんを無断で外泊させて申し訳ございまんでした」
俺が礼儀正しく謝罪の儀を終えると、しばしの沈黙が訪れる。
「ほう……」
こうかはばつぐんだ!
よし、このままたたみかけよう。
妹のかなでにもらったお土産を差し出す。
「あの、つまらないものですが、どうかお納めください」
ヴィクトリアは黙って俺の紙袋を受け取る。
そこで俺はやっと顔を上げた。
もう安心だろう。
正式に謝罪もしたし、菓子折りも渡した。
これなら彼女の怒りもおさまるに違いない。
「若いのにこういう気の使い方もできるんだなぁ、ええ? 坊主」
怪しくニヤリと笑う。
そして紙袋の中から菓子折りを取り出した。
ヴィクトリアは箱にプリントされた卑猥な男の娘を見て、口を真一文字にする。
「……」
無言で固まってしまった。
隣りに立っていたミハイルはそれを見てこういった。
「な、なんだよ、このエッチなやつ…」
顔を真っ赤にして、口に手をやる。
ヤベッ、かなでの趣味が全面的に出たおみやげだった。
だがうまいと評判と言ってたし、大丈夫じゃね?
ヴィクトリアは紙袋に男の娘をスッと戻すと、ふぅと深いため息を吐く。
そして、なにを思ったのか、渡したばかりの菓子折りを空高くかかげた。
「え?」
その光景に驚いていると、それは一瞬で俺の頭上に突き刺さる。
「ぎゃあ!」
あまりの力で俺は地面に叩きつけられる。
ヴィクトリアは這いつくばってる俺に向かって、怒鳴り散らす。
「てめぇ! なんてもん、持ってきてんだよ、コノヤロー!」
めっちゃ怒ってて草も生えない。
俺はすかさず弁明に入る。もちろん、口元は土まみれなのだが。
「そ、それは俺の地元ではうまいと評判の洋菓子でして……」
「やかましい!」
下から見上げるとヴィクトリアのスラッと長いきれいな脚が拝めた。
だがそんなことよりも彼女の形相だ。
それは正にSMの女王様と言っていいだろう。
ていうか、隣りに立っているミハイルの方が目につく。ショーパンの裾から見えるスカイブルーのパンツが個人的に気になります。
邪な考えを巡らせていたのが、バレたのか俺の視界は強制的にシャットダウンされる。
というのも、ヴィクトリアの素足が俺の顔面めがけてブッ飛んできたからだ。
「ふげっ!」
「てんめ……前にも言ったけどな。あたいはパティシエだぞ、コノヤロー! こんなちんけな工場で作った洋菓子をうまいなんて言うと思ったか? 菓子折りを持ってきている時点で、プロのあたいにケンカ売ってんだよ」
尚も彼女の足は俺の顔面をグリグリと踏み続ける。
ここで気がついたが、割とこの人の足って臭くない。
石鹸の香りがして、ちょっと心地よいかも。
「ず、ずんまぜん……」
鼻を抑えられているので、思うように声が出ない。
「今度あたいに謝罪に来るときは、酒にしろよ、バカヤローがっ! けっ!」
もうヤンキーを通り越して、ヤクザの方ですよね。
次は指を落とす覚悟で来ます。
「は、はい…」
そこへミハイルが止めに入る。
「ねーちゃん! オレのダチなんだぞ! ぼーりょくはよくないよ!」
初対面で俺の顔殴った人に言われたくない。
「おお、まあこのぐらいで許したらぁ……坊主、次からはちゃんと連絡入れろよ」
ようやく足を離してくれた。
ヴィクトリアが背を向け、家に入る。
一安心したところで、俺は立ち上がろうとした。
すかさずミハイルが手を貸してくれる。
「大丈夫か? タクト」
「う、うむ。まあこのぐらい大丈夫だ」
全然だいじょばない。なんだったら警察呼んで逮捕してほしい。
「ねーちゃん。よっぽど心配だったみたい……タクト、許してあげて」
涙を浮かべるミハイル。
「ああ、ダチの頼みだ。許すもなにもないよ」
だが俺の人生で『いつか小説のネタにしてやるリスト』に追加したがな。
「さっすがタクト☆ やっぱダチだよな☆」
いやそんないいもんじゃない。
やっとのことで、俺は彼の自宅に入ることを許された。
玄関で靴を脱ぐと、先ほど俺がヴィクトリアに渡した紙袋がグシャグシャになって、廊下に落ちていた。
ミハイルが「さっ、あがってあがって☆」と俺を促す。
リビングに入ると、以前遊びに来た時のように大きなローテーブルが置かれていた。
ただ少し違うところがあるといえば、テーブルの上にピラミッドが築かれていたことか。
ストロング缶で出来たゴミの山。
天井にまで届きそう。
ヴィクトリアと言えば、テーブルの前でプシュッと音を立てて新しいストロング缶を開ける。
「ういしょっと……」
そして、見たことのある四角形の箱を取り出す。
包み紙を雑に破ると、中に入っていた菓子を手にする。
「あむっ、もしゃもしゃ……わりかしイケるなぁ」
いやそれ、さっき俺が渡したやつ。あなたいらないんじゃなかったの?
スポンジケーキを一口かじるとストロング缶で流し込む。
「プヘーーー! 昼から飲む酒は最高だぁ!」
ダメだ、こいつ……。
扉を彼が開こうとしたその瞬間、ギギッと軋んだ音を立ててドアは自ら動いた。
「よぉ、坊主。てめぇ、この前はよくも電話ブッチしやがったなぁ、コノヤロー!」
靴もはかずに素足で表に現れた店長のヴィクトリアさん。
頬が赤いのは彼女が恥ずかしがり屋なんていう可愛らしい人柄だからではない。
その答えはヴィクトリアの両手にある。
右手にウイスキーの角瓶、左手にはチューハイのストロング缶、500ミリリットルが握られている。
飲酒によって起こる症状で、血行がよくなり体温が上昇するといった結果でしょうね。
「うわぁ……」
こんな大人になりたくないな。
だって玄関開けたら、他人がいるかもしれないじゃないですか。
なのに、この人グリーンのレースが刺繍されたブラジャーで、下はなぜかボクサーパンツ履いているんだよね。
歩く痴女だな。
俺がその姿に呆気を取られていると、それを気にもせず、ヴィクトリアはズカズカと俺に詰め寄る。
「聞いてんのか! このクソ坊主!」
ツバ飛ばしながら顔面で怒鳴られる人の気持ちになってください。
しかも酒くさい。
「いや、聞いてますけど……」
鬼の形相で俺のおでこにグリグリと自身の額をこすりつける。
忘れてた、ヤンキーだったな、この家。
もう少しでキスできそうなぐらいの至近距離なんすけど、羞恥心とかないんですかね、この人。
酔っ払いの相手なんて面倒だなと、思っているとミハイルが助けに入る。
「ねーちゃん! ちかい近い!」
そう言って俺とヴィクトリアの間に入る。
彼女をひきはがそうと家の中に押し戻す……が力自慢のミハイルでもヴィクトリアはなかなか動かない。
「ミーシャ! お前は黙ってろ! 親代わりの姉として、あたいはミーシャをしっかりいい子に育てないといけないんだよぉ!」
いい子って……子供じゃないんだから。
それにミーシャの方が大人っぽく感じます。
あなたの方が精神的に成長が足りない気がします。
「違うんだってぇ! ねーちゃん、タクトは悪くないって言ったじゃん!」
おお、ねーちゃんファーストのミハイルからしたら珍しく反抗するな。
「バカヤロー! 無断でお泊りを許した覚えはねぇー!」
「そ、それはそうだけどぉ」
なんだろう、別に俺が謝罪に来なくても家庭内で会議したら解決する話じゃないのかな?
帰りたい。
数分間、ミハイルとヴィクトリアはもみくちゃになる。
その際ヴィクトリアのブラジャーが乱れ、ピンクの色の何かがチラチラと垣間見える。
ウォエッ!
もうこれ以上、アラサーの醜態は見たくない。
ので、とりあえず俺が場をおさめるために、一歩後ろに後退し、深々と頭を下げた。
「この度は、大事な古賀さん家のミハイルくんを無断で外泊させて申し訳ございまんでした」
俺が礼儀正しく謝罪の儀を終えると、しばしの沈黙が訪れる。
「ほう……」
こうかはばつぐんだ!
よし、このままたたみかけよう。
妹のかなでにもらったお土産を差し出す。
「あの、つまらないものですが、どうかお納めください」
ヴィクトリアは黙って俺の紙袋を受け取る。
そこで俺はやっと顔を上げた。
もう安心だろう。
正式に謝罪もしたし、菓子折りも渡した。
これなら彼女の怒りもおさまるに違いない。
「若いのにこういう気の使い方もできるんだなぁ、ええ? 坊主」
怪しくニヤリと笑う。
そして紙袋の中から菓子折りを取り出した。
ヴィクトリアは箱にプリントされた卑猥な男の娘を見て、口を真一文字にする。
「……」
無言で固まってしまった。
隣りに立っていたミハイルはそれを見てこういった。
「な、なんだよ、このエッチなやつ…」
顔を真っ赤にして、口に手をやる。
ヤベッ、かなでの趣味が全面的に出たおみやげだった。
だがうまいと評判と言ってたし、大丈夫じゃね?
ヴィクトリアは紙袋に男の娘をスッと戻すと、ふぅと深いため息を吐く。
そして、なにを思ったのか、渡したばかりの菓子折りを空高くかかげた。
「え?」
その光景に驚いていると、それは一瞬で俺の頭上に突き刺さる。
「ぎゃあ!」
あまりの力で俺は地面に叩きつけられる。
ヴィクトリアは這いつくばってる俺に向かって、怒鳴り散らす。
「てめぇ! なんてもん、持ってきてんだよ、コノヤロー!」
めっちゃ怒ってて草も生えない。
俺はすかさず弁明に入る。もちろん、口元は土まみれなのだが。
「そ、それは俺の地元ではうまいと評判の洋菓子でして……」
「やかましい!」
下から見上げるとヴィクトリアのスラッと長いきれいな脚が拝めた。
だがそんなことよりも彼女の形相だ。
それは正にSMの女王様と言っていいだろう。
ていうか、隣りに立っているミハイルの方が目につく。ショーパンの裾から見えるスカイブルーのパンツが個人的に気になります。
邪な考えを巡らせていたのが、バレたのか俺の視界は強制的にシャットダウンされる。
というのも、ヴィクトリアの素足が俺の顔面めがけてブッ飛んできたからだ。
「ふげっ!」
「てんめ……前にも言ったけどな。あたいはパティシエだぞ、コノヤロー! こんなちんけな工場で作った洋菓子をうまいなんて言うと思ったか? 菓子折りを持ってきている時点で、プロのあたいにケンカ売ってんだよ」
尚も彼女の足は俺の顔面をグリグリと踏み続ける。
ここで気がついたが、割とこの人の足って臭くない。
石鹸の香りがして、ちょっと心地よいかも。
「ず、ずんまぜん……」
鼻を抑えられているので、思うように声が出ない。
「今度あたいに謝罪に来るときは、酒にしろよ、バカヤローがっ! けっ!」
もうヤンキーを通り越して、ヤクザの方ですよね。
次は指を落とす覚悟で来ます。
「は、はい…」
そこへミハイルが止めに入る。
「ねーちゃん! オレのダチなんだぞ! ぼーりょくはよくないよ!」
初対面で俺の顔殴った人に言われたくない。
「おお、まあこのぐらいで許したらぁ……坊主、次からはちゃんと連絡入れろよ」
ようやく足を離してくれた。
ヴィクトリアが背を向け、家に入る。
一安心したところで、俺は立ち上がろうとした。
すかさずミハイルが手を貸してくれる。
「大丈夫か? タクト」
「う、うむ。まあこのぐらい大丈夫だ」
全然だいじょばない。なんだったら警察呼んで逮捕してほしい。
「ねーちゃん。よっぽど心配だったみたい……タクト、許してあげて」
涙を浮かべるミハイル。
「ああ、ダチの頼みだ。許すもなにもないよ」
だが俺の人生で『いつか小説のネタにしてやるリスト』に追加したがな。
「さっすがタクト☆ やっぱダチだよな☆」
いやそんないいもんじゃない。
やっとのことで、俺は彼の自宅に入ることを許された。
玄関で靴を脱ぐと、先ほど俺がヴィクトリアに渡した紙袋がグシャグシャになって、廊下に落ちていた。
ミハイルが「さっ、あがってあがって☆」と俺を促す。
リビングに入ると、以前遊びに来た時のように大きなローテーブルが置かれていた。
ただ少し違うところがあるといえば、テーブルの上にピラミッドが築かれていたことか。
ストロング缶で出来たゴミの山。
天井にまで届きそう。
ヴィクトリアと言えば、テーブルの前でプシュッと音を立てて新しいストロング缶を開ける。
「ういしょっと……」
そして、見たことのある四角形の箱を取り出す。
包み紙を雑に破ると、中に入っていた菓子を手にする。
「あむっ、もしゃもしゃ……わりかしイケるなぁ」
いやそれ、さっき俺が渡したやつ。あなたいらないんじゃなかったの?
スポンジケーキを一口かじるとストロング缶で流し込む。
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