気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

味噌村 幸太郎

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第十八章 危険なペア

買う時はセットに決まってるじゃないですか!

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 アンナは俺が知らぬ間に、レジカウンターの一番前に立っていた。
 そこであることに気がつく。
 
 あれ? 俺は抱き枕なんて買う必要ないから、列に並んでる意味なくね?

 後列から抜け出し「ちょっとすいません」と言いながらアンナの元へ行く。
 その際、数々の紳士が怒鳴り声をあげる。

「なんですとぉ!? ちゃんと並びなさいよぉ!」
 全身から汗を吹き出す巨漢紳士に怒られた。
 ので一応釈明しとく。
「いや、俺あの子の連れなんで。買いませんよ」
 そう言い訳すると、さっきまでの怒りはどこへやら。
 ニッコリと笑って前へと譲ってくれた。
「なんだぁ、あの天使ちゃんの彼氏さんですかぁ ボリエトワールに似ていて可愛いですよねぇ」
 キモッ!
「は、はぁ……ありがとうございます」
 俺はそのデブの笑顔に寒気を感じた。


 やっとのことで、アンナの元へたどり着く。
「タッくん、ごめんね。アンナ、どうしても抱き枕欲しくて一人で来ちゃった☆」
 どうやって? 瞬身の術でも使ったんですか?
「まあ構わんさ」
 思わず苦笑い。

「それでは販売開始しまーす!」

 ボリキュアのエプロンを着たストアのお姉さんが大きな声で発表する。

 するとまたもや歓声があがる。

「ヒャッハー! これで夜も寂しくないぜぇ!」
「グフフ……魔改造」
「ハーレム革命ですな。我らのベッドにボリキュアが添い寝してくれる日がくるなんて……リア充ですら不可能なこと」
 そりゃ無理でしょうよ、リア充ならね。

 俺の隣りの彼女、アンナもそのうちの一人だ。
「やったぁ!」
 良かったね、君のベッドも痛くなるわけだ、ミハイルくん。

 
「それでは最初の方からどうぞ」
 お姉さんがニッコリと笑ってお出迎え。
「ハイ☆」
 アンナも負けじと神々しいほどにキラキラと輝く笑顔で対応。

「商品はどれになさいますか?」
「えっと何があるんです?」
「今期のボリキュアからボリエール、ボリアンジュ、ボリエトワール。それから15周年記念としてボリブラックとボリホワイトの計五点になります」
「じゃあ全部ください☆」
 ファッ!?
 金額も聞かずに全部買うとか、一体いくらになるんだ?
 それにさっき山ほどカゴに入れたグッズもあるんだぞ。
 ここは俺が一応「待った」をいれる。

「あの、ちょっといいですか?」
 俺が二人の間に入って店員に質問する。
「はい、なんでしょう?」
「その抱き枕って一つの値段はいくらですか?」
「ああ、お値段は各8千円になります。五点にお買い求めになられると4万円ですね♪」
「よ、4万……」
 顎が抜けるぐらい口を開いてしまった。
 こんなものが4万円だと!?
 映画が何十回見れる?
 思わず後退りした。

 すると後ろの客から罵声が上がる。
「早くしろよ! 転売ヤーたちが来るだろうが!」
「そうだそうだ!」
「こちとら早く買って家でキュアキュアしたいんだよ!」
 公式グッズでそれは良くないと思われます。

「タッくん? お金なら心配いらないよ☆」
「えっ?」
「天神に来るからたくさんお金持ってきたもん☆」
「あ、そうなの……」

 それからは早かった。
 アンナは大きなカゴに山盛りになったグッズと抱き枕を5つも会計に回す。
 レジ奥から別の店員が来て、慌ててヘルプに入る。
 ピッピッとどんどん商品をレジ打ちしていくと金額がすごいことに……。

「合計で7万3千円です」
「ハイ☆」
 アンナは何事もなかったかのように、財布から諭吉さんを7人もトレーに差し出す。
 あなた、前もやってだけど、お金はデュエルカードじゃないんだよ?
 本当に好きなものには惜しげもなく使い込むんだなぁ。
 散財カノジョじゃん。

「あ! すみません、あれもお願いします」
 アンナが指差したのはカウンター近くにあった女児用のパンツセット3枚。
 もちろん、可愛らしいボリキュアのプリント入りだ。
「アンナ、それは子供用だぞ?」
「え? アンナは割りと小さいから履けるよ?」
 無垢な目で俺を見つめる。
 ちょっと待ってね。
 あなたミハイルくんだよね?
 そのパンティは、幼い女の子のパンティなんですよ。
 しかも今、仮にとはいえ俺の彼女の設定じゃないですか。

 いやぁ、彼氏の前で下着を恥じらいもなく買うのもおかしいと思うし……。
 なによりドン引きです。
 軽く変態だってことに気がつきました。

「変なタッくん……そんなに驚いちゃって」
 そりゃ驚きますよ。

「どうされます? サイズやお色は」
 俺が固まっていると店員がそれを無視して話を進める。
 店員は驚くこともない。
「えっとサイズはいくつまであります?」
「130までですね」
「じゃあそれでお願いします。カラーはピンクで☆」
「かしこまりました」
 かしこまるな! 販売しないでやってくれ!
 ウソだと言って!

「あ、お客様、当店のスタンプカードお持ちですか?」
「いえ持ってないです」
「じゃあお作りしますねぇ」
 と言って、カウンター横にあったカードを5枚も取り出し、ポンポンと連続押しまくる。
 気がつけば、4枚は全部埋まっていた。
 一回の会計で大勢のスタンプ集まったということはそれだけ散財した証拠である。
 あー、こわっ。

「はい、こちらが商品になりますねぇ。またのご来店をお待ちしておりまーす」
 そう言って痛いボリキュアが全面にプリントされた大きなビニール袋が6つもカウンターにドシン! と豪快な音を立てて現れた。
 ビニール袋がパツパツになるぐらいで、中に抱き枕のボリキュア戦士たちが丸見え。

「やったぁ☆ ゲットできたね、タッくん☆」
 軽々と巨大なビニール袋を手にし、微笑む俺の彼女。
「うーん、幸せぇ~☆」
 大事そうに袋を抱えるアンナ。
 その姿、もうただのガチオタじゃん。

「良かったな、買えて……」
 さすがの俺もここまで彼女がボリキュア好きとは思わなかったため、うろたえていた。
「うん、タッくんが天神に連れてきてくれたおかげだよ☆」
「そっか……」

 ごめん、たぶんこの買い物って天神という土地は関係ないよ……。

 
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