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第十七章 新宮ファミリー
家族団らん
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気がつくとアンナは、テーブルに乗りきれないぐらいのおかずを並べていた。
鮭、卵焼き、ウインナー、サラダ、味噌汁、ひじき、きんぴらごぼう……。
一体、この短時間でどこまで仕込んでいたんだ。
「ふぁあ……おっ! なんだこのメシは!?」
親父はタンクトップにトランクス姿という、だらしのない格好で現れた。
「キャッ!」
思わずアンナが目を手で覆う。
「おっと。彼女ちゃんがいたか、悪い悪い」
とヘラヘラ笑いながら一旦部屋に戻る。
「すまない、アンナ。親父はデリカシーなくてな」
てか、あなたも男だから寛大になりなよ。
どこまで乙女なの?
「ご、ごめん。あの人、タッくんのパパさんなの?」
なんか言い方がいやらしく聞こえるのは俺だけですか。
パパ活しちゃダメよ。
「ああ、そうだ。無職だが」
「そうなんだぁ……タッくんに似ているね☆」
え、あんまり嬉しくない。
「よく言われるよ、不本意ながら」
テーブルに肘をつき、手のひらに顎を乗せていると、誰かが頭のてっぺんをブッ叩く。
「誰が無職だ! いつも言っているだろ、俺はヒーローだと!」
犯人は自称ヒーロー。
英雄なら暴力しちゃダメでしょ。
「いってぇ……」
「ところでタク。このお嬢さんのお名前は?」
親父がそう手のひらをアンナに向ける。
するとアンナはカチコチに固まってしまった。
こんな親父に緊張しなくてもいいのに。
「ああ、古賀 アンナだ」
「ど、どうもお父様。アンナです。タッくん……いや琢人くんとは日頃から仲良くさせていただいてます」
かしこまりすぎ。
「そうかそうか、アンナちゃんか。君はタクと付き合っているんだろ? タクのことをこれからもよろしくな。こいつバカで変態だけど」
おい! 最後の一言、人格否定だぞ!
「あ、あの……そのアンナとタッくんは…そのぉ」
頬を赤くして、しどろもどろになる。
どうやら付き合っていることを否定したいみたいだが、説明に困っているようだ。
何度か俺のほうをチラチラと見ては助けを求める。
「あのな親父。俺とアンナはそういう仲じゃないんだよ」
そう言うと、親父は目を丸くした。
「は? お前さんたちどう見ても付き合ってるだろ? 雨の中でびしょ濡れになるまでお互いを気にし続けるような仲じゃないか……って言っているこっちが恥ずかしいわ」
改めて親父にそう回想されると、俺もなんだかめっちゃはずい。
「あ、あのひょっとしてお父様がアンナを助けてくれたんですか?」
アンナがそう聞くと、親父はニカッと歯を見せて笑う。
「助けたのはタクだよ。俺は少し車を運転しただけだ」
違う、そうじゃない。
正しくは窃盗したパトカーを無断で運転しただけ。
「そうだったんですね……でもありがとうございます!」
アンナはその場で深々と頭を下げた。
「良いって良いって、俺は人を助けるのが趣味みたいなもんだから」
若い女子に褒められたもんだから、鼻の下を伸ばして頭をかく。
アンナは顔を上げると俺の方をチラッと見て、優しく微笑んだ。
「それからタッくんも……」
「お、おう……」
俺はアンナに釘付けだった。
親父の存在は無視して、アンナのグリーンアイズに引き込まれる。
彼女も俺を見つめ、声には出さなかったが唇だけを動かした。
「あ・り・が・と」
頬が熱くなるのがわかる。
俺とアンナの甘い二人だけの時を遮断したのは気色の悪い無駄乳だった。
「アンナちゃーーーん!」
妹のかなでが彼女に飛び掛かる。
そして中学生には似合わない巨乳をアンナの顔にゴリゴリとなすりつける。
「うぶ……」
息できてない!
「はぁん、カワイイ、カワイイよん。アンナちゃんってば~」
そう言うとアンナの白くて柔らかそうなほっぺに自身の頬をすりすり。
「あっ!」
思わず声が出てしまった。
俺でさえしたことないのに!
「く、くるし……」
本当に苦しそうだったので、さすがに止めに入る。
「おい、かなで。アンナが苦しそうだ。そろそろやめてやれ」
俺がそう言うとかなでは「ハッ」と我に返る。
「おいたが過ぎましたわね……ごめんなさいまし」
かなではやっとのことで彼女から離れると、スカートの裾を軽くたくし上げて、頭を下げる。
「はじめまして。私、おにーさまの妹、かなでと申しますわ」
言うて二回目の自己紹介だけどね…。
「え……何を言っているの? かなでちゃ……」
とアンナも設定を忘れていたようで、言いかけた途中で口に手をあてる。
それを見ていた親父が、すかさずつっこむ。
「おん? アンナちゃんはかなでと知り合いか?」
ヤバい、もうボロが出だした。
「あ、いえ、その……」
尋常じゃないぐらいの大量の汗が、額から吹き出すアンナ。
俺が助け舟を出す。
「違うんだよ、親父。アンナのいとこに俺のダチがいてな。そいつからかなでのことを聞いてたらしい」
アンナ=ミハイルなんだよなぁ。
「なるほど……」
いとも簡単に納得してくれたバカ。
しばしの沈黙のあと、お袋がよろよろしながらリビングに現れた。
腰が曲がっていてなんか逝く前の老人みたい。
「六さんや……私を座らせておくれ……」
いや話し方まで老けちゃったよ。
「おお、琴音ちゃん。腰がブッ壊れたか」
「え、腰?」
俺はそのワードにしばらく囚われた。
かなでがそれにいち早く気がつき、俺に耳打ちする。
「おにーさま、昨晩の例のやつですわよ……」
そういうかなでの声は凍えるような冷たい声だった。
あ……察し。
母さんは親父に介護されながらテーブルのイスに座った。
ヤリすぎて腰をぶっ壊したらしい。
「いやぁ、昨日はスッキリしたなぁ」
親父はゲラゲラと品のない大声で笑い、それを見たかなでは「フン」と不機嫌そうに首を横にやる。
「そうですねぇ……六さんはまだまだ若いですからねぇ……」
琴音おばあちゃん、認知症入った?
「なんかすごくいいご家族ですね☆」
何も知らないアンナが屈託のない笑顔でそう言った。
事実を知っている俺とかなでは苦笑い。
「そうか?」
「……」
無言の圧力をかけてくる妹氏。
「だろ、俺の自慢の家族だよ! いつまでもカワイイ琴音ちゃん」
と言って、ヨボヨボ母さんにほっぺチュー。
「うわぁ大胆☆」
アンナはなぜか嬉しそうだ。
「それにオタクのタク!」
と言って失礼な紹介をするクソ親父。
「うんうん」
なぜか納得するアンナちゃん。
「最後は無駄に乳がデカいかなで!」
と言ってかなでの顔ではなく乳を指差す。
「え……」
これには絶句するアンナだったが、例外が一人。
かなでだ。
「も~う! おっ父様ったら~!」
「じゃあ自己紹介が済んだところで、アンナちゃんお手製の朝ご飯をいただくとするか!」
なぜお前が仕切っている六弦?
仕方ないので俺は親父に従って、長いすにアンナ、俺、かなでの順で座る。
反対側には弱り切った母さんと親父。
「よしみんな手を合わせて~」
一人、合掌したら死にそうなご婦人がいるんだけど。
「「「「いただきまーす!」」」」
俺はアンナが愛情たっぷり注いで作ってくれたご飯を堪能する。
「うむ、アンナの料理はいつ食べてもうまいな」
「ただの卵焼きだよ、それ☆」
言いながらも嬉しそうに笑うアンナ。
「いや、俺好みの甘い卵焼きだ……俺は卵焼きのプロだが、それを凌ぐ腕だな」
ソースは俺。
卵焼きだけを焼き続けて早十年。
この境地に至るまでにどれだけのひよこたちを犠牲にしたのやら。
悔しいがアンナは俺と同等かそれ以上だ。
かなでも「う~ん、おっ母様よりもおいしいかも~」とアル中のように喜ぶ。
ふと反対側を見ると、親父が母さんに「あーん」と鮭を口に運んでいた。
いつもなら、こんなことはないのだが……。
逆に母さんが親父に「あーん」してあげることは多い。特に夜。
だが今日の母さんは弱りきっているため、ただの介護だ。
「もしゃもしゃ……アンナちゃんはこんなおいしいご飯作れるんだねぇ。タクくんを……お嫁さんにしておくれぇ」
いや、逆だろ? 俺がアンナを嫁にしないと。
マジでボケた……?
「は、はい! お母さま、必ずや!」
なぜか真に受けるアンナ。
そして、何を思ったのか、鮭を箸で取り俺の口元へ。
「ん? どした?」
「あ、あ~ん……」
頬を赤くしながら上目遣いで、箸を俺に向ける。
しばらく俺はその行動に困惑していた。
すると隣に座っていた、かなでから肘うちを食らう。
「グヘッ!」
かなでは味噌汁を啜りながら呟いた。
「女の子に恥をかかせないで」
俺は従うしかなかった。
「あむっ」
「ど、どう?」
「うまい……」
「良かったぁ」
緊張がほぐれるアンナ。
しかし俺が懸念していることは鮭の中に骨があったことだ。
出したいが失礼かと思い飲み込んだ。
鮭、卵焼き、ウインナー、サラダ、味噌汁、ひじき、きんぴらごぼう……。
一体、この短時間でどこまで仕込んでいたんだ。
「ふぁあ……おっ! なんだこのメシは!?」
親父はタンクトップにトランクス姿という、だらしのない格好で現れた。
「キャッ!」
思わずアンナが目を手で覆う。
「おっと。彼女ちゃんがいたか、悪い悪い」
とヘラヘラ笑いながら一旦部屋に戻る。
「すまない、アンナ。親父はデリカシーなくてな」
てか、あなたも男だから寛大になりなよ。
どこまで乙女なの?
「ご、ごめん。あの人、タッくんのパパさんなの?」
なんか言い方がいやらしく聞こえるのは俺だけですか。
パパ活しちゃダメよ。
「ああ、そうだ。無職だが」
「そうなんだぁ……タッくんに似ているね☆」
え、あんまり嬉しくない。
「よく言われるよ、不本意ながら」
テーブルに肘をつき、手のひらに顎を乗せていると、誰かが頭のてっぺんをブッ叩く。
「誰が無職だ! いつも言っているだろ、俺はヒーローだと!」
犯人は自称ヒーロー。
英雄なら暴力しちゃダメでしょ。
「いってぇ……」
「ところでタク。このお嬢さんのお名前は?」
親父がそう手のひらをアンナに向ける。
するとアンナはカチコチに固まってしまった。
こんな親父に緊張しなくてもいいのに。
「ああ、古賀 アンナだ」
「ど、どうもお父様。アンナです。タッくん……いや琢人くんとは日頃から仲良くさせていただいてます」
かしこまりすぎ。
「そうかそうか、アンナちゃんか。君はタクと付き合っているんだろ? タクのことをこれからもよろしくな。こいつバカで変態だけど」
おい! 最後の一言、人格否定だぞ!
「あ、あの……そのアンナとタッくんは…そのぉ」
頬を赤くして、しどろもどろになる。
どうやら付き合っていることを否定したいみたいだが、説明に困っているようだ。
何度か俺のほうをチラチラと見ては助けを求める。
「あのな親父。俺とアンナはそういう仲じゃないんだよ」
そう言うと、親父は目を丸くした。
「は? お前さんたちどう見ても付き合ってるだろ? 雨の中でびしょ濡れになるまでお互いを気にし続けるような仲じゃないか……って言っているこっちが恥ずかしいわ」
改めて親父にそう回想されると、俺もなんだかめっちゃはずい。
「あ、あのひょっとしてお父様がアンナを助けてくれたんですか?」
アンナがそう聞くと、親父はニカッと歯を見せて笑う。
「助けたのはタクだよ。俺は少し車を運転しただけだ」
違う、そうじゃない。
正しくは窃盗したパトカーを無断で運転しただけ。
「そうだったんですね……でもありがとうございます!」
アンナはその場で深々と頭を下げた。
「良いって良いって、俺は人を助けるのが趣味みたいなもんだから」
若い女子に褒められたもんだから、鼻の下を伸ばして頭をかく。
アンナは顔を上げると俺の方をチラッと見て、優しく微笑んだ。
「それからタッくんも……」
「お、おう……」
俺はアンナに釘付けだった。
親父の存在は無視して、アンナのグリーンアイズに引き込まれる。
彼女も俺を見つめ、声には出さなかったが唇だけを動かした。
「あ・り・が・と」
頬が熱くなるのがわかる。
俺とアンナの甘い二人だけの時を遮断したのは気色の悪い無駄乳だった。
「アンナちゃーーーん!」
妹のかなでが彼女に飛び掛かる。
そして中学生には似合わない巨乳をアンナの顔にゴリゴリとなすりつける。
「うぶ……」
息できてない!
「はぁん、カワイイ、カワイイよん。アンナちゃんってば~」
そう言うとアンナの白くて柔らかそうなほっぺに自身の頬をすりすり。
「あっ!」
思わず声が出てしまった。
俺でさえしたことないのに!
「く、くるし……」
本当に苦しそうだったので、さすがに止めに入る。
「おい、かなで。アンナが苦しそうだ。そろそろやめてやれ」
俺がそう言うとかなでは「ハッ」と我に返る。
「おいたが過ぎましたわね……ごめんなさいまし」
かなではやっとのことで彼女から離れると、スカートの裾を軽くたくし上げて、頭を下げる。
「はじめまして。私、おにーさまの妹、かなでと申しますわ」
言うて二回目の自己紹介だけどね…。
「え……何を言っているの? かなでちゃ……」
とアンナも設定を忘れていたようで、言いかけた途中で口に手をあてる。
それを見ていた親父が、すかさずつっこむ。
「おん? アンナちゃんはかなでと知り合いか?」
ヤバい、もうボロが出だした。
「あ、いえ、その……」
尋常じゃないぐらいの大量の汗が、額から吹き出すアンナ。
俺が助け舟を出す。
「違うんだよ、親父。アンナのいとこに俺のダチがいてな。そいつからかなでのことを聞いてたらしい」
アンナ=ミハイルなんだよなぁ。
「なるほど……」
いとも簡単に納得してくれたバカ。
しばしの沈黙のあと、お袋がよろよろしながらリビングに現れた。
腰が曲がっていてなんか逝く前の老人みたい。
「六さんや……私を座らせておくれ……」
いや話し方まで老けちゃったよ。
「おお、琴音ちゃん。腰がブッ壊れたか」
「え、腰?」
俺はそのワードにしばらく囚われた。
かなでがそれにいち早く気がつき、俺に耳打ちする。
「おにーさま、昨晩の例のやつですわよ……」
そういうかなでの声は凍えるような冷たい声だった。
あ……察し。
母さんは親父に介護されながらテーブルのイスに座った。
ヤリすぎて腰をぶっ壊したらしい。
「いやぁ、昨日はスッキリしたなぁ」
親父はゲラゲラと品のない大声で笑い、それを見たかなでは「フン」と不機嫌そうに首を横にやる。
「そうですねぇ……六さんはまだまだ若いですからねぇ……」
琴音おばあちゃん、認知症入った?
「なんかすごくいいご家族ですね☆」
何も知らないアンナが屈託のない笑顔でそう言った。
事実を知っている俺とかなでは苦笑い。
「そうか?」
「……」
無言の圧力をかけてくる妹氏。
「だろ、俺の自慢の家族だよ! いつまでもカワイイ琴音ちゃん」
と言って、ヨボヨボ母さんにほっぺチュー。
「うわぁ大胆☆」
アンナはなぜか嬉しそうだ。
「それにオタクのタク!」
と言って失礼な紹介をするクソ親父。
「うんうん」
なぜか納得するアンナちゃん。
「最後は無駄に乳がデカいかなで!」
と言ってかなでの顔ではなく乳を指差す。
「え……」
これには絶句するアンナだったが、例外が一人。
かなでだ。
「も~う! おっ父様ったら~!」
「じゃあ自己紹介が済んだところで、アンナちゃんお手製の朝ご飯をいただくとするか!」
なぜお前が仕切っている六弦?
仕方ないので俺は親父に従って、長いすにアンナ、俺、かなでの順で座る。
反対側には弱り切った母さんと親父。
「よしみんな手を合わせて~」
一人、合掌したら死にそうなご婦人がいるんだけど。
「「「「いただきまーす!」」」」
俺はアンナが愛情たっぷり注いで作ってくれたご飯を堪能する。
「うむ、アンナの料理はいつ食べてもうまいな」
「ただの卵焼きだよ、それ☆」
言いながらも嬉しそうに笑うアンナ。
「いや、俺好みの甘い卵焼きだ……俺は卵焼きのプロだが、それを凌ぐ腕だな」
ソースは俺。
卵焼きだけを焼き続けて早十年。
この境地に至るまでにどれだけのひよこたちを犠牲にしたのやら。
悔しいがアンナは俺と同等かそれ以上だ。
かなでも「う~ん、おっ母様よりもおいしいかも~」とアル中のように喜ぶ。
ふと反対側を見ると、親父が母さんに「あーん」と鮭を口に運んでいた。
いつもなら、こんなことはないのだが……。
逆に母さんが親父に「あーん」してあげることは多い。特に夜。
だが今日の母さんは弱りきっているため、ただの介護だ。
「もしゃもしゃ……アンナちゃんはこんなおいしいご飯作れるんだねぇ。タクくんを……お嫁さんにしておくれぇ」
いや、逆だろ? 俺がアンナを嫁にしないと。
マジでボケた……?
「は、はい! お母さま、必ずや!」
なぜか真に受けるアンナ。
そして、何を思ったのか、鮭を箸で取り俺の口元へ。
「ん? どした?」
「あ、あ~ん……」
頬を赤くしながら上目遣いで、箸を俺に向ける。
しばらく俺はその行動に困惑していた。
すると隣に座っていた、かなでから肘うちを食らう。
「グヘッ!」
かなでは味噌汁を啜りながら呟いた。
「女の子に恥をかかせないで」
俺は従うしかなかった。
「あむっ」
「ど、どう?」
「うまい……」
「良かったぁ」
緊張がほぐれるアンナ。
しかし俺が懸念していることは鮭の中に骨があったことだ。
出したいが失礼かと思い飲み込んだ。
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