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第十六章 タイフーンパレード

個室が一番♪

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 俺はひなたに連れられて、しぶしぶ博多駅隣りにあるバスターミナルに向かった。
 
 1階から2階まではバスの発着場なのだが、3階からは専門店街、全国チェーンの本屋や衣料店、飲食店、100均、ゲーセンなどの施設が8階までびっしり充実している。
 JR博多シティよりは敷地が狭いけど、ここだけでも一日時間を潰せそうなビルだ。

 といっても今日は例の台風によってほとんど休業中だが……。
 バスターミナルに入るとすぐにエレベーターへ向かった。
 最上階である8階へと向かう。
 8階は複数の飲食店と献血ルーム、それにお目当てのネカフェがある。

 チンと音を立てて目的地へついたことをお知らせ。
 自動ドアが左右に開き、迷うことなくネカフェに一直線。

「さ、つきましたよ! センパイ、ネカフェ来たことあります?」
「いや、ないな」
「はじめてなんですね!? 良かったぁ♪」
 手を叩いて喜ぶひなた。
 なにがそんなに嬉しいの? わしにはさっぱりわからん。

 
 店内に入ると根暗そうな眼鏡の若い男性店員がお出迎え。
 出っ歯で眼鏡、おまけに脂ぎった長髪を額の中央でセンター分け。
 雨の日だからカッパが出没したのかと思った。

「らっしゃい。この店は初めて?」
 超やるきねーし、なんか感じ悪いな。

 俺が店員の対応にイラッとしていると、ひなたは気にする素振りも見せず、笑顔で答える。
「はい、初めてなんです♪」
 びしょ濡れのJKのスマイルだ。
 これには陰気な店員も少しヘラヘラ笑っている。
 だってブラ透けてるし。

「へ、へぇ……じゃあ会員手続きしてね。あと時間と席を指定して」
「わかりました」
 先ほどのやる気ゼロ対応はどこにいったのか?
 顔を赤くしてデレデレしながら、大きなチラシをカウンターに取り出す。
「な、何時間いたいの?」
「うーん……どうしよっかなぁ」
 なんか俺抜きで盛り上がってるから帰ってもいいかな?

「き、キミ、台風で帰れなくなるかもよ? ここならシャワーもあるし着替えもあるから泊まってけば……」
 ハァハァと気持ち悪い吐息を漏らしながら、ひなたの胸元をガン見する店員。
 これ事件の危険性ありっすかね。
「ん~、そうしよっかな」
 勝手に決めるひなた。
 俺の同意は?

「ヘヘヘ、そうしなよ。この店は部屋にカギもついているし防音だからね。くししし…」
 ええ!? なんかヤバくない? この店。
 防音って……。
「じゃあそうします。明日の朝までお願いします♪」
 勝手に決められちゃったよ。

 すかさず俺がツッコミに回る。
「な、なあ、ひなた。さすがにお泊りはよろしくないだろ」
 俺がそう言うと店員は舌打ちして睨む。
「邪魔すんなよ、モブが…」
 小声でそう呟いた。
 誰がモブじゃ!

「別に問題ないでしょ?」
 目を丸くして答えるひなた。
「大ありだ。お前の親御さんにはなんて伝える気だ? 結婚前の若い女子がお泊りなんて怒られるだろう」
 俺がそう言うとひなたはケラケラ笑い出した。
「センパイって結構、昭和!」
 悪かったな、令和ぽくなくて!
「でも大丈夫ですよ。うちはパパとママが共働きでほとんど家にいないし、連絡さえしとけば大丈夫です。女の子なんてけっこう女友達の家に頻繁に泊まるし」
「なるほど……しかしだな」
「もうセンパイってば、説教くさい!」
 なんで俺が怒られるの?

 ひなたは話の途中だというのに俺に背を向けて、また例の店員と話し出す。
「えっと部屋は……」
「フフッ、女の子ならこのピンクの部屋はどうだい? 今なら入会特典でたこ焼きをプレゼント中だから、僕が部屋まで持っていてあげるよ…」
 この店員、前科あるよね。

「ん~カワイイけどシングルシートだからナシで」
「えっ!? まさか隣りのヤツがキミの彼氏なの?」
 またまた俺を睨む。
「か、彼氏!? 違います!」
 顔を真っ赤にして全力で否定するひなた。
「だ、だよね……じゃあただの知人だ、グフフ」
 あの俺を置き去りにするの、やめてもらっていいですか?

「知人でもなくて、お仕事の相手です!」
「え……」
 思わず絶句する店員。
 なんか別の意味のお仕事として捉えてない? ピンクジョブ。
「センパイは何も知らないから、経験豊富な私が相手になって色々教えてあげないとダメなんです」
 話がどんどん歪んでいく。
「経験豊富だって? キミ、いくつ? ハァハァ…」
 息遣いが荒くなるカッパ店員。
「私ですか? 16歳ですけど? ま、私もただのJKだから人並みにしか、知らないですけどね。友達とかもわりと多いほうだし、知識としてはちゃんとインプットしてるっていうか…」
「つ、つまり、キミは不特定多数の人と交流が好きなんだね。グフフ」
 話が嚙み合ってない。

「ま、そうかもですね♪ 放っておけないタイプって感じ?」
「そっか……優しいんだね。無知なあの男の子に色々教えてあげるなんて…僕も教えてほしいな」
 頭痛い。
 両者、平行線のまま話は進み、やっとのことで部屋の選別に入る。


「じゃ、このフラットシートで♪」
「わ、わかったよ。もしなにかわからないことがあったらなんでも言って。ぼ、僕もキミに教えてほしいことあるし……フフフ」
 こんなところに一泊したくない。

「りょーかいです♪」
「じゃ、じゃあ……明日の朝6時まで部屋を使えるからね」
 といってカウンターにカギと受付したレシートを差し出す。
 ひなたはそれらを受け取ると、俺の手を取り「いきましょ」と引っ張る。

 カウンターから離れる際にカッパ店員がこう囁いた。
「3人でもアリかもね?」
 意味深な言葉を吐き、不敵な笑みを浮かべていた。
 背筋に悪寒を覚え、ブルっと震えた。
 気持ち悪い店だなぁ。

 そんな俺の不安をよそに、ひなたは終始ご機嫌だ。
 鼻歌交じりに奥へと進んで途中、ドリンクバーを見つけ「部屋に持っていきましょ」と俺に促す。
 こんなときでも俺は安定のブラックコーヒー。
 しかし今日は雨で濡れていたのでホットで。
 ひなたはメロンソーダにソフトクリームを入れて、クリームソーダにしていた。

    ※

 俺たちの部屋はフラットシートと呼ばれ、他の個室とはちょっと違ってかなり大きな部屋だった。
 カギを開けるとその広さに驚きを隠せなかった。
 6畳はある部屋の中にはローデスクの上に大きなテレビが1台。パソコンが1台とゲーム機があった。
 それからマットの上にリクライニングシートが二つ。

「これはかなり時間を潰せるな」
 俺が感心しているとひなたは何かに気づいたようで、あたふたしていた。
「ちょ、ちょっと! センパイ、なんで言ってくれなかったんですか?」
 顔を真っ赤にして何やら怒っている。
「なにがだ?」
「私の服ってスケスケだったんですか!?」
「え、そうだけど」
 わかっていたのだと思っていたんだけどな。

「バカッ!」

 次の瞬間、俺の首は左に吹っ飛んだ……かと思うぐらい強い平手ビンタ。

「私、シャワー浴びてきます!」
 そう言うと部屋から出ていった。
「忙しいやつだ……」

 俺は改めて、リクライニングシートに腰を下ろすと、どっと疲れが出た。
 家から出てまだ2時間ぐらいだが、こんなに疲労する外出は初めてだ。
 ひなたが不在なのをいいことに、スマホの電源を入れなおす。

 どうしてもアンナのことが気にかかっていたからだ。

 起動するとやはり着信履歴は213件。
 全部アンナちゃん。
 L●NEも未読のメッセージが1002通。
 腱鞘炎にならないのかな?

 とりあえず、アンナに電話をかけてみる。
 が、彼女にしては珍しく10秒以上ベル音だけが鳴り響く。
 それがエンドレス。
 つまり出てくれないのだ。

「あれ、ひょっとして無視られているのか?」
 そう思ってL●NEでも返信を送ったが、既読にならない。
 一体どういうことだ?
 俺はとりあえず、ひなたにはバレないようにスマホを起動したままにしておく。
 サイレントモードだ。

「まさか……な」
 一つの不安が俺の脳裏をよぎる。
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