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第十六章 タイフーンパレード

アウトロー系女子高生

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「ああ、なんでどっこもこっこも休みなのよ!」
 がら~んとしたJR博多シティでブチギレる赤坂 ひなた。
 大声で叫んだ声すら、やまびこのように反響して聞こえるのは幻聴か?


「仕方ないだろ。例年に見ない大型の台風らしいぞ」
 俺は冷静にスマホで災害情報を確認する。
「じゃあ新宮センパイは今日のデート…取材はしなくてもいいっていうんですか!?」
 顔を真っ赤にして怒鳴る。
 だが、それよりも気になるのがびしょびしょに濡れて、ブラジャーが透けている。
 色は白と黒のボーダー。

「もう今日にこだわらなくてもいいだろ?」
 別に明日で世界が終わるわけでもあるまいし。
「ダメです! センパイを放っておくとあの…忌々しいチート女が…」
「ん? 誰のことだ?」
 オンラインゲームでチートはよくないが。
 俺がそうたずねるとひなたは口を濁らせる。

「そ、それは……あの…センパイには関係ないです!」
 いやなんでブチギレ?
「わかった。だが、このままじゃ帰ることもできないかもしれないぞ」
 スマホでJRの運行状況を確認すると全て運休状態が続いている。
 JR博多シティのアナウンスでも「ただいま全線運転見合わせとなっております」と流れる。

 俺がそれを聞いてひなたに
「な、バスでもタクシーでもいいから早めに帰ろう」
 と言うとまたもやブギギレ。
「なにもヤラないで帰れますか!? 取材になりません!」
 いや台風の中、博多駅にこれただけでも奇跡じゃん。
 十分取材になりました。
 なんかのエッセイにでも書いときますよ。
 というか、なにをヤル気?


「しかしだな、店も開いてない。外は猛烈な強風に大雨。このJR博多シティですら閉店状態だぞ? どこを見たり、遊んだりするんだ?」
 俺が改めて周囲の店を見渡すがどこも開いてないし、ほぼシャッター街。
「うう……もう開いてさえいたら、なんでもいいですよ!」
 ひなたはそう啖呵をきるとスマホで近隣の店をネットで探しだす。

 俺はそれをしばらく隣りで見守るという……なんともシュールな光景。
 おまけに濡れた服が乾くこともなく、なんだか身体が冷えてきた。
 スマホとにらめっこしているひなたも例外ではない。
 歯をカチカチと言わせながら全身ガタガタと震えている。

 聞き分けのない女だな……とため息をついていると俺のスマホが鳴った。
 アイドル声優のYUIKAちゃんが唄う『幸せセンセー』だ。
 ああ、こんなときも彼女の可愛らしい歌声は俺を癒してくれる。
 着信名を見れば、アンナちゃん。
 

「もしもし」
 俺が電話に出るとアンナはかなり動揺している様子だった。
『あっ! やっと繋がった! 良かったぁ……』
 後半、少し鼻をすする音が聞こえる。
 泣いているのだろうか?

「アンナ。どうしたんだ?」
『心配したんだよ! ミーシャちゃんから聞いたの』
 また自分と自分で対話ですか。
 元々の人格と乖離してません?

「なにをだ?」
『ミーシャちゃんが言うにはタッくんが博多駅に行ったって言うから……』
 俺、ミハイルにそんなこと言ったか?
「ん? 確かに博多駅には来たが、俺は誰にも伝えてないが?」
 俺がそうたずねるとアンナはかなりあたふたしながら答えた。
『え、えっとね……あのアレよ! そ、そう! ミーシャちゃんがお友達のかなでちゃんていう子から聞いたらしいのよ!』
 長い言い訳だこと。
 というか、かなでのやつ、帰ったらおしりペンペンだな。
 個人情報がダダ漏れじゃないか。

「なるほどな」
 アンナは電話のむこうでわざとらしく咳払いをして、話題を無理やり変えようとする。
『そ、それより大丈夫なの? 大型の台風が福岡に直撃だってニュースで言ってたよ? 博多駅も危ないんじゃない。帰れるの』
「そうなんだが、今日は実はちと仕事で来たんだよ」
 敢えて、ひなたの存在は隠しておいた。
 あとあと面倒くさいので。

『仕事? こんな嵐の中で……? 出版社とか?』
 う、こっちもこっちで言い訳考えないとな……。
「アレだ、取材だよ、取材…」
 今度はアンナのターンになる。
 さっきとは打って変わって俺があたふたする。
『取材? タッくんがアンナ以外と取材することなんて必要性ある?』
 凍えるような冷たい声で問い詰められる。
 や、やばい! このままでは俺は殺されてしまう。

「あ、いや……アンナの取材は特別だよ。今日は別件だ…」
 自分で言っていて、かなり苦しい言い訳だった。
『ふーん。じゃあアンナも一緒についていっていいのかな?』
「そ、それはちょっと……危ないだろ」
『タッくんだって博多駅まで命がけで行ったでしょ? ならアンナもいっしょ☆』
 優しい声で萌えそうだけど、なんかメンヘラ全開で怖いです。

 俺が言葉に詰まっているその時だった。

「あーあ、やっぱりチート女だ」

 振り返るとスマホをメキメキと握り潰す、ずぶ濡れのひなたの姿が……。
 濡れた前髪がダランと下りていて、目が隠れている。
 だが確かに感じる、彼女の燃え盛る炎を宿した眼球を。
 まるでモンスターだ。

 俺が彼女の姿を見て恐怖に震えあがっていると、スマホの受話器からアンナの声が聞こえる。
『タッくん? もしもし? 大丈夫?』
 だいじょばない。
 死ぬかも!

 ゆらりゆらりとこちらへ近づいてくるひなた。
 手の力を抜いて、ぶらぶら左右に揺らせながらゆっくり近づいてくる。

 こ、これは! ノーガード戦法!?

 俺がそう思った時は既に遅かった。
 ひなたの左腕がムチのようにしなりをかけて、一瞬でジャブを繰り出す。
 気がつくと俺のスマホはひなたにブン獲られていた。

 なにを思ったのか、ひなたは俺のスマホを頬につけると勝手に話しはじめた。
 かなりドスのきいた低い声で。

「おう、アンナか? 俺はよぉ。今、仕事で忙しいんだよ……」

 まさかのモノマネである。
 ちょっと俺に寄せてはいるが、オラりすぎだろ。
 俺ってそんなヤンキーみたいなやつに見えてたの?
 悲しい。

「わかったら、もうかけてくんじゃねぇぞ! いくらアンナでも俺様もオコだぞ?」
 バカそうなキレかただ。

「あ? 博多に来るだ? 来れるわけねーだろ! バカかおめぇは! ニュース見てねーのか? 電車も動いてねーんだわ!」
 いや、もうヤクザレベルじゃん。
 俺のアンナちゃんをいじめないで。

「ヘッ、来れたら褒めてやんよ。じゃあな!」
 ちょっと! なに勝手にアンナを煽ってんのよ!
 しかも一方的に切りやがって。

 そして前髪を奇麗に整えてから、スマイリーひなたが現れる。
「ハイ、センパイお返ししますね♪ 前も言ったじゃないですか? ストーカーを相手にしたらダメだって♪」
 お前はストーカーより怖いアウトローだよ。

「ひなた……勝手に人の電話をとるな!」
 アンナのことが気になってスマホを再度確認しようとすると、ひなたがグッと強い力で俺の指先を止める。
「センパイ♪ デート中はスマホお触り禁止だぞ♪」
 そして、スマホのスイッチを長押ししてシャットダウン。
 またこの展開かよ……。

 あとが怖いんだってば。
 アンナのやつ真に受けてないといいが……。

「ところでセンパイ、さっきネットで一つだけ開いている店を見つけましたよ♪」
「え、そうなの?」
 アンナとひなたの恐怖のやり取りを見ていてすっかり忘れていたよ。

「はい♪ JR博多シティの隣りにある博多バスターミナルにネカフェがあるんです。そこなら時間も潰せるし、ご飯もマンガもシャワーだってあるんですから♪」
「は、はぁ……」

 これってひょっとして徹夜コースですか?
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