上 下
103 / 490
第十四章 アフタースクール

二次会は荒れぎみ

しおりを挟む
 無能教師、宗像 蘭によって一ツ橋の生徒たちは全員酔っぱらってしまった。
 自ら飲んだものがいるが、宗像先生の持参してきたみかんジュースにウイスキーが混入していた疑惑があり、真面目な生徒たちまで被害にあってしまった。
 これはちょっとした無差別テロではなかろうか?

 大半の真面目な生徒たちは酒を飲んだことがないので、倒れるように寝込んでしまった。
 ヤンキーグループは逆に飲み過ぎて、いびきをかいている。
 かろうじて、意識を保っているのはギャルの花鶴 ここあぐらいだ。
「ちょっとさ、あーしに勝てる男とかいないわけ?」
 その前にお前は未成年であることを自覚しろ。

 バーベキューを担当していた男性教師たちまで、居眠りしながら肉を焼いていた。
 というか、焦がしているだけなんだけど。

 俺とミハイルだけはみかんジュースを飲まなかったので、被害にあわずにすんだ。
「なあ、タクト。みんな寝ちゃったけど、どうしよっか?」
 うろたえて、おろおろと辺りを見回すミハイル。
 こいつ、けっこうお節介焼きというか心配症だよな。

「そ、そうだぞ、新宮。どうしたらいい?」
 涙目で俺の両手を握ってくる宗像先生。
 お前が主犯なんだから、警察に出頭してください。

「ふーむ、このままみんなを家に帰したら、親御さんにクレーム入れられますね。というか、三ツ橋にも怒られます」
 俺が冷静に分析していると、隣りで宗像先生が見たことないぐらいキョドッている。
 ヤベッ、ちょっとおもしろくなってきた。
「ヤダヤダ! 蘭、三ツ橋の校長には知られたくないよ! あのおっさん、めんどくさいもん!」
 酒を飲むと幼児退行するのか、このおばさん。

「ですが、もうバレてません? グラウンドの周りをよく見てください」
 そう既に部活の練習をしていた三ツ橋の生徒たちがずっとこちらを不思議そうに見ているからだ。
「ぐえっ! あいつら、なんでこんなところで部活なんかやってんだ!」
 いや、あなたがこんなところでバーベキューしたからでしょうが。
「グラウンドなんだから当然でしょ」
「三ツ橋の校長にバレたら嫌だ! ちょっとあいつらシメてくるわ」
 そう言って、宗像先生は真面目に部活をしている生徒たちに突進していった。
 モンスターティーチャーだ。


 宗像先生は大声で叫んだ。
「おい、お前ら! 集合!」
 顧問の先生でもないのに、三ツ橋生徒を気迫だけで強引に集めさせる。
 健気にも彼らは横暴な教師の命令に従い、宗像先生の元へと群がる。
「いいか! 一ツ橋の生徒たちはみんなお昼寝中だ! だからこのことは黙っていろよ!」
 酷い言い訳だ。

「「「はーい」」」
 お前らもそれで納得するの。

「一ツ橋の子供たちはな、毎日働いて休日に学校にくる勤勉な学生たちだ。日頃の疲れが出てしまったんだよ……」
 話が変な方向にむいているぞ。
 宗像先生のとってつけたような説明にもかかわらず、数人の生徒たちは何人か泣いていた。

「うう……私たち一ツ橋の人のこと誤解してました」
「毎日働いて休みに学校で勉強するなんて、マジリスペクトっす」
「俺も編入しよっかな」
 最後の人、惑わされたらアカンで!

 こうして、どうにか三ツ橋の生徒たちを洗脳することに成功した宗像 蘭であった。

「しかし、どうしたものか……このまま、家に帰すわけにはいかんぞ」
 尚も俺の股間に顔を埋める赤坂 ひなたを見下ろしながら呟いた。
 背中のブラのホック、取ってやろうかな。

 俺がそんなよこしまな考えを抱いていると、ミハイルがひなたの背中に体操服をかける。
「ひなた、起きろよ。タクトにくっつきすぎ!」
 ミハイルがひなたの肩をゆするが、びくともしない。
「にゃーん……」
 新種のウイルスにかかったようにネコ語が抜けてない。


「ところで、タクト。なんでお家に帰したらダメなんだ?」
「そりゃそうだろよ。だって未成年を飲酒させている時点で大問題だ。ヤンキーグループは日頃から飲んでいるみたいだから、あまり問題にならんかもしらんが……」
「そうなの? 力とここあは小学生のころから飲んでいたよ」
 それって虐待じゃないですか?

「ま、まあ人の家庭なので、聞かなったことにしておこう……。だが、千鳥や花鶴なんかはバイク通学だろ? 飲酒運転したら逮捕されるぞ」
「ええ!? そうなの?」
 口をあんぐりと大きく広げて驚くミハイルさん。
 この人の常識とかアップデートされないんですかね?
「当たり前だろ。そういう法律だし、事故って死ぬ可能性だってある。逆に誰かを死なせる危険な行為だ」
「知らなかった。物知りなんだな☆ タクトってやっぱすごい!」
 あなたがおかしいんです。

 そうこうしているうちに宗像先生が戻ってきた。
「名案を思いついたぞ、新宮、古賀」
 何やら不敵な笑みで俺とミハイルを交互に見つめる。
「どうするんですか、こんなにたくさんの酔っ払い学生たちを」
「フッ、この名教師、蘭ちゃんからしたらお茶の子さいさいだ!」
 今日日聞かない言い方ですね。
 自信満々の笑顔で宗像先生はこう言った。

「このまま全員、学校に泊まらせよう!」

「……」
 やはりバカはバカでした。
 期待した僕が無知でごめんさい。
「わーい! 遠足みたいだ☆」
 ジャンプして喜ぶ15歳、高校生。ちなみにヤンキーです。

「ははは、古賀は偉いな。さっそく寝ている連中を三ツ橋の食堂に連れていこう。あそこなら晩飯もあるしな」
 この人、食堂で毎回晩飯パクってるんじゃないか?
「あ、オレ、力には自信あるんで連れていきます☆」
 自ら手をあげるミハイル。
 やけに乗り気だな。
「うむ、じゃあ古賀と新宮で手分けして生徒たちを連れていってくれ。私はテントとバーベキューとかの後片付けをするからな」
 歓迎会じゃなかったの?
 放課後に重労働とか、ブラック校則じゃないですか。
 勤労学生ですよ、俺たち。

「仕方ない、やるか。ミハイル」
「うん☆ 学校に泊まれるなんてレアだよな☆」
 レアなんてもんじゃない。前代未聞の出来事だよ。
 俺はとりあえず、ひなたに服を着せてあげて、彼女をおんぶしてあげる。
 ミハイルはほのかと日田の兄弟をひょいひょいとおもちゃのように軽々と持ち上げる。
「よし、行こうぜ☆」
 たくましい。
 俺なんか細い身体の女子を一人おんぶするだけでしんどいのに。


 そこへ花鶴が声をかけてきた。
「おもしろそうだから、あーしもやっていい?」
 あれだけ酒を飲んでピンピンしてんな。
 酒豪だわ。
「んじゃ、花鶴は千鳥とかを頼むよ」
「りょーかいだぴょーん!」
 アホな返事をすると、これまた花鶴 ここあはひょいひょいと千鳥のほかにがたいのよいヤンキーたちを4人もかつぐ。
 お米じゃないんだから。
 さすが伝説のヤンキーだわ。


 グラウンドと食堂を行き来すること、30分ほどで一ツ橋の生徒たちを無事にテントから脱出させることができた。
 三ツ橋の食堂は俺たちがスクーリングで使っている教室棟から出て、駐車場の目の前にある。
 全日制コースの生徒たちが昼飯を食べているところだけあって、敷地はかなり広い。
 フローリングで冷たい床に、一ツ橋の生徒たちを寝かせた。


「はぁ、疲れた」
「そうか? オレは楽しかった!」
 あなたは規格外の体つきなんでしょうよ。
「あーし、飲みなおしたいな~」
 もういい加減にしてください。

 俺たち3人は一仕事終えると、縦長テーブルのイスに腰を下ろした。
「てかさ、布団とかどうすんのかな?」
 花鶴がスマホをいじりながら言う。
「さあ? 宗像先生のことだ。なにかしら持ってくるだろさ」
「ワクワクすんな、タクト☆」
 そのポジティブな性格、ちょっと尊敬できます。
「あ、家に連絡しなきゃな…」
 なんて言い訳すれば、いいんだろうか?
「あーしは親が無関心だからパスで」
 荒れているんですね。心中お察しします。

「オレはあとでねーちゃんに電話するよ☆ でもさ、寝ちゃっているやつらの親には誰が電話すんの?」
 ミハイルに言われて気がついた。
 どうしたらいいもんか。

 その後俺とミハイル、花鶴の3人は、眠っている生徒たちのスマホを拝借して各自の家に「オレオレ」とか「あたしあたし」とか言ってどうにかごまかした。
 まさか俺たちがこんな詐欺に手を染めることになるとは……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕は絶倫女子大生

五十音 順(いそおと じゅん)
恋愛
僕のコンプレックスは、男らしくないこと…見た目は勿論、声や名前まで男らしくありませんでした…。 大学生になり一人暮らしを始めた僕は、周りから勝手に女だと思われていました。 異性としてのバリアを失った僕に対して、女性たちは下着姿や裸を平気で見せてきました。 そんな僕は何故か女性にモテ始め、ハーレムのような生活をすることに…。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

お兄ちゃんは今日からいもうと!

沼米 さくら
ライト文芸
 大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。  親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。  トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。  身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。  果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。  強制女児女装万歳。  毎週木曜と日曜更新です。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男

湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。 何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。

トリビアのイズミ 「小学6年生の男児は、女児用のパンツをはくと100%勃起する」

九拾七
大衆娯楽
かつての人気テレビ番組をオマージュしたものです。 現代ではありえない倫理観なのでご注意を。

処理中です...