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第十三章 パーティスクール

グラビアは専業に限る

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 アイドルグループ、もつ鍋水炊きガールズの生中継は見るに耐えないものだった。
 俺は呆れかえり、ミハイルは興味さえ持たない始末だ。
 だが、テレビを見ていたほのかは未だに興奮が止まない様子。


「芸能人かぁ~ 憧れるよねぇ」
 いやお前みたいな変態が芸能人になると布教活動が活発になるから絶対にやめろ。

「そうか? プライバシーがなくなって大変だろう」
「でも、たくさんの人に注目されたいって言う願望はあるでしょ? だから琢人くんは作家なんじゃない?」
「う、まあ確かに読者からの感想は嬉しいな。しかし、低評価の輩には殺意さえ覚える」
 ウェブ作家時代のトラウマだ。
 評価ボタンを全部星5だけにしてほしい。


「そ、それは琢人くんが変わっているからじゃない?」
「んなことない! すべての作家たちは低評価する奴らを断じて許さん!」
「器、小さいねぇ……」
「何とでも言え、これだけは作家のプライドが許さん」
 と、芸能話から作家の話題に脱線したところへ、二人の少年が現れた。


 おかっぱ頭に丸眼鏡。
 双子の日田だ。
 容姿が同一だからどっちが来たかわからん。
「話は聞いていましたぞ、新宮氏」
「お前は弟の真二か?」
「いえ、兄の真一です。あすかちゃんは拙者たちも推しているところです」
 いや俺は推してないから。


「なんだ、真一も長浜に興味があるのか?」
 冷めた目で見つめる。
「もちろんですぞ! 毎回ライブに行ってますし、CDは最低50枚買いますぞ」
 集団詐欺にあってない? 早く目を覚ました方がいいよ。
「それに我ら兄弟はあすかちゃんに会いたいがために一ツ橋高校に入学したんですから」
 ファッ!?
「マジかよ……」
 あんな地下アイドルのために入学とか。
 ガチオタの神だな。


「ところで今週の『博多ウォーカー』はご覧になりましたかな?」
「いや、どうしてだ?」
 日田はフフッと笑みを浮かべると眼鏡を光らせる。
「なんとあすかちゃんたち、もつ鍋水炊きガールズのグラビアが特集されているのです」
「へぇ……」
 興味ねーな。
「ホント!?」
 思わず身を乗り出すほのか。

「ええ、こちらをご覧ください」
 日田が頼んでもないのに俺の机の上に一冊の雑誌を置く。
『博多ウォーカー』とはその名の通り、地域に密着した情報を扱っている週刊誌のことだ。
 俺は主に映画の情報ぐらいしか読まんが。


 ページをパラパラめくると、日田の言う通り、かなり後ろの方にグラビアページが5枚ぐらいあった。
 もつ鍋水炊きガールズの3人のショットが一枚。
 みんな先ほどテレビに出演した時と同様にダサい衣装でポージング。

「普通だな」
「いえいえ、このあとが肝心ですぞ、新宮氏」
「な、なにが待っているの!?」
 生唾を飲むほのか。

 俺は恐る恐る2枚目を開くとそこには閲覧注意な被写体が。
「これは……」
「フフ、このグラビアは保存用と閲覧用と布教用に100冊は買いましたぞ」
「ハァハァ……」
 息遣いが荒くなるほのか。

 そう、長浜 あすかは際どいビキニ姿で写っていた。
 両腕でふくよかな胸をさらに強調させている。
 ちょっと恥ずかしそうな顔で。


「マジか……」
 嫌なもん見ちまったぜ。
「くぅ~、何回見てもビンビンきますね」
 するか!
「うう……」
 ほのかの方を見るとなんと鼻血を漏らしていた。
「あ、あすかちゃんのパイオツ、最高っす……」
 こいつは男でも女でもいけるのかよ。
 さすがの俺もドン引きだわ。


 その後のページもあすかが独占していた。
 寝そべったり、胸をイスの上にのせたり、バランスボールの上に尻を置いたり、水をぶっかけられたり……。
 センターだから事務所に強いられたんだろうか?
 可哀そうになってきた。


「ああ! なにやっているんだよ、タクト!」
 気がつくと俺の視界はブラックアウト。
 なにも見えない。
 だが、ほのかに甘い香りを感じる。
 この柔らかい感覚、ミハイルの手だ。

「こんなエッチな本を持ってくるなよ! タクトに悪影響だろ!」
 お前はお母さんかよ。
「な、なにを言われます、古賀氏」
 かなり声が震えている。ヤンキーとして怖がっているんだろう。

「これ、エロ本だろ!? 18歳にならないと買っちゃダメなんだぞ!」
 いや普通に一般コーナーに並べられている本ですけど。
「そんな……某はあすかちゃんの素晴らしさを新宮氏に伝えたかっだけで……」
「ダメだ! 法律は守れよ、ねーちゃんが『水着の女の子が出てる本は大人になってから』て言ってたぞ!」
 それ何年前の話? ちゃんと教育方針を更新してあげてます?
 ヴィッキーちゃん。

「うう……」
 日田の顔は見えないが、どこか悔しそうだ。
「じゃあ、このエロ本はオレが有害指定のポストに入れておくよ」
 酷い、長浜のやつ、有害になっちゃったよ。
「そ、そんな殺生な!」
 うろたえる日田。
「エッチなことはダメなんだからな!」
 女装して俺とラブホに行ったやつに言われたくないよな。


「ちょっと待って、ミハイルくん」
 ほのかが止めに入る。
「あ、ほのか……鼻から血が出てる。またいつもの病気?」
 腐女子が病気になってる……。
「これは大丈夫…だけど、その本は私にちょうだい。今晩のおかずに必要だし」
 ただの変態だった。

「え、おかず? 食べるの?」
「そうよ、美味しく料理して食べるの、女の私なら安心できるでしょ?」
 お前が一番危険だよ。
「うーん、そだな。ほのかなら大丈夫だろ☆」
 納得しちゃったよ……。
 

 何やらガサゴソと音がした後、(恐らくほのかが本をもらった)俺はようやくミハイルから手を離してもらった。
「もういいぞ、タクト☆」
「え?」
「タクトも法律は守れよ☆」
 俺、もうすぐ18歳だし、あれは健全な本だし。
 きみにとやかく言われる筋合いはない。


 日田は「まあ布教できたならいいでしょう」となぜか腑に落ちた様子で去っていった。
 ほのかと言えば、本を鞄になおしたにもかかわらず、興奮が止まないようだ。
「ハァハァ……早く帰って、料理しないと」
 溢れ出る鼻血をティッシュで抑えるが、止まりそうもない。


 そこへガラッと教室のドアが開く音が聞こえた。
「ちーす」
「おはにょ~」
 重役出勤かよ、千鳥と花鶴コンビ。
 というか、もうお昼だぞ。


「あ、千鳥くんにここあちゃん!」
「よう、ほのかちゃん。あれ、なんで鼻血出してんの?」
 心配そうに近寄る千鳥。
「これ? 料理しようと思ったらケガしちゃって」
 嘘つけ。
「そっか、女の子だもんね」
 納得すんなハゲ。


「ところでさ、ミーシャ」
 ここあがミハイルへ近寄る。
「あんさ、最近どしたん?」
「え? なんのこと?」
「なんつーの、なんかコソコソしてるつーかさ。付き合い悪くない?」
 腰をかがめて俺の隣りに座っているミハイルを見つめる。
 こちらからするとミニすぎるスカートがまくり上げ、パンモロどころか尻が丸見え。
 花鶴の存在の方が18禁に感じる。


「そ、そんなことねーよ……」
 歯切れが悪い。そりゃ女装して俺とデートばっかしてたもんな。
「んならさ、たまには一緒にタバコでも吸おうよ」
 忘れてた……ここ一ツ橋高校は無責任教師、宗像先生の公認で喫煙可な所だった。
 そして入学式でタバコをいち早く吸いたいと言ったのはこのミハイルであったことを。
 最近はいつも俺と一緒にいたがるばかりでタバコを吸う姿は見たことなかったな。


「え、あの……オレは」
 回答に困っているようだ。
「前は3人で吸ってたじゃん?」
 さっきのミハイルが言っていた「法律は守れよ」が華麗なるブーメランになったな。

「タクト、オレ……」
 泣きそうな顔で俺を見つめる。
「吸ってきたらどうだ?」
 どうせ止めたって吸うんだ、こういう人種は。

「ところでオタッキーはなんで吸わないのん?」
 バカ発言するなよ、花鶴。
「はぁ? なんで俺がタバコを吸う前提なんだよ。俺はな法律を守らない人間は大嫌いだ。それにタバコなんて吸って入って何が楽しいんだ? 百害あって一利なしだぞ」
「ふーん……」
 どこか納得していないという顔だ。


「じゃ、じゃあタバコ吸う女の子嫌いなのか?」
 なぜかミハイルが俺に聞く。
「そりゃそうだな。女の子とか言う前にタバコの煙が嫌いだ。単純に臭い。タバコくさいヤツは男女問わず嫌いだ」
「……そうなんだ」
 ミハイルはポケットからタバコを取り出すと、立ち上がる。

「決めた!」
 何を思ったのか、日田の方へズカズカと向かう。

 そして持っていたタバコを彼の机の上に叩きつける。
「お前にやるよ!」
「え……タバコ?」
 絶句する日田。
「オレはタバコ吸うやつ嫌いだからな☆」
「某が嫌いということですか?」
 かわいそすぎる。
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