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第十二章 遊園地はハプニングだらけ

大きなお友達二人

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 昼食を済ますと、俺たちはかじきかえんの一番奥へと向かった。
 今日は日曜日ということもあってイベントが開催されていた。
 その名も『ボリキュア スーパースターズショー』
 ニチアサで長年大人気の少女向けアニメだ。
 と言っても、視聴者の9割は成人男性……という都市伝説もある。

「ああ、ボリキュアだぁ☆」
 看板を見てテンションあがる少女じゃなくて少年。
 15歳だから実質、大きなお友達だよな。

「ボリキュア見てんのか?」
 俺は少し冷めた目でアンナの横顔を見る。
「うん、小さなころから憧れてたんだ☆ 幼稚園の時、ボリキュアになるのが夢って卒園式で叫んだなぁ」
 いや、痛すぎる黒歴史じゃないすか。
 だって、男の子でしょ?

「へぇ……」
 俺は『マスクライダー BLACK』ぐらいしか見てないなぁ。
「そうだ、せっかくだから観ていこうよ☆」
 ファッ!?
「そ、それはちょっと……」
 だって会場見たところ、家族連ればっかじゃん。
 しんどいわ、中に入るの。

「なんで? 好きなものを好きだっていうことは悪いこと?」
 アンナは首をかしげて不思議そうな顔をする。
「悪くはないが……ボリキュアは幼児向け、それも女の子向けだろ? 抵抗を覚えるな」
 すると彼女はムッとした。
「アンナだって女の子だよ!」
 忘れてた女装男子だった。
「いやアンナはいいよ。けど俺は男だぜ?」
「それが何か問題? もういいから早く入ろうよ、始まるもん!」
 俺は強引に手を引かれて会場の中へ入った。

 会場と言っても野外ステージでそんなに大きくない。
 だが、既に会場は家族連れで埋まりつつある。
 たくさんのお父さんたちがビデオカメラをセッティングして、ボリキュアの登場を待つ。
 俺たちはようやく空いている席を見つけると、二人して仲良く座った。

 ステージ両脇に設置されたスピーカーから聞きなれたアニソンが流れだす。

「ボリッキュア! ボリッキュア! ふたりはボリキュア~♪」

 あー、懐かしい。
 初代か。

「かじかえんのみんな~ お待たせ~ ボリキュアのスーパースターズショー、はっじまるよ~!」

 アホそうな女性の声がスピーカーから流れる。

 するとスタッフのお姉さんとボリキュアの登場。
「黒の使者、ボリブラック!」
 お決まりのセリフと共に、着ぐるみを着たお姉さんの登場。
 しっかりポージングを決める。
 これで中身がオスだったらウケるよな。

「白の使者、ボリホワイト!」
 と相方の登場。
 なんだろうな、身体にフィットした着ぐるみなんだけど、サイズがあってないような。
 所々、布が余っている。

 そして、次々に出るわ出るわ。
 気がつくとボリキュアシリーズの主役級が30人ほど出てきた。
 いや、飽和状態じゃねーか。

「ボリキュア~がんばれぇ!」
 大声で恥も知らずに叫ぶアンナさん。
 やめて、隣りにいる俺がしんどい。

 すると明るい空気から一転して不穏なBGMが流れ出す。
 この展開、敵さんの登場だ。

「ぐわっははは! ボリキュアどもめ! 駆逐してやるぅ!」
 ステージに現れたのは長身の男。
 肌色が悪く、ロン毛。
 ホストみたい。

「負けないわよ! イケメンガー!」
 拳を作るボリブラック。
 ボリホワイトはブラックの背中に身を置く。
 定番のポーズだ。

「悪い子はさっさとお家へお借りなさい!」 
 ビシッとイケメンガーに指をさす。
 すると効果音が鳴る。

 それからは「エイッ」とか「ヤッ」とか「うわっ」とか声を上げて戦うボリキュアたち。
 よく見ると酷いよな。
 30人対1人だぜ?
 いじめじゃん。

 だが、イケメンガーは強い(設定)
 最初は好戦していたボリキュアたちもイケメンガーのチート級な必殺技で全員、お笑い芸人のようにズッコケて倒れてしまった。

「フハハハ、これでかじきかえんも私のものだぁ!」
 イケメンガーが両手を掲げて、勝利を確信する。

 その時だった。
 イケメンガーは何を思ったのか、ステージから降りる。
 そして、客席を物色しはじめた。

「ほう、ここには『アクダマン』になりそうな、いい子供たちがたくさんいるなぁ~」
 うわぁ変態ロリコンだ。
 お巡りさん、ここです。

 そして、イケメンガーは数人の女の子をピックアップするとステージへ上がるように命令する。
 ただし、子供たちが壇上に上がる際はしっかり手を繋ぐ神対応。
 優しくね?

「まだまだ足りないなぁ! アクダマンになりそうな子はいないかぁ~」
 どうやら、これはボリキュアショーではお決まりの流れのようで、子供たちもイケメンガーに連れ去られることを望んでいるようだ。
 だって、どうせボリキュアが助けてくれるし。

「アンナはダメかなぁ」
 ボソッと何かを呟く15歳の女装少年。
 やめて、大きなお友達はステージにあがったらダメでしょ。
 俺の不安はよそにアンナは手を合わせて祈る。

「おお、あそこにちょっと大きいけどいい子がいるなぁ~」
 嫌な予感しかしません。

 イケメンガーはのしのしと会場を歩きだす。
 どんどん、その足は俺たちへと近づいてくる。
「わ、わ……もしかして」
 興奮しだすアンナさん。
「フハハハ、お嬢さん。人質になってもらおうかぁ~」
 ええ!? 中身おっさんだろ? お前が人質にしようとしているのも男なのわかってる?

「いやぁ~!」
 と演技力高めの叫び声。
 だが、イケメンガーの命令に素直に従うアンナさんであった。

「タッくん、助けて~」
 俺の名前を出すんじゃねぇ! 恥ずかしいだろ!
 気がつくと周りのお父さんお母さんがクスクス笑っていた。
 アンナは演劇部にでも入れよ。

 イケメンガーに連れ去られるのを暖かく見守る俺。
 アンナは依然と必死に演技を続ける。
「やめてぇ、放してぇ!」
 自分から行ったくせに。
「フハハハ、お嬢さん。ボリキュア亡き今、もう私がかじきかえんを掌握したのだぁ!」
「ボリキュアは負けないもん!」
 なにこの三文芝居?
 一応、スマホで録画しとこう。

 アンナはステージに連れていかれると、4人の女の子とステージ中央に並べられた。
「いやぁ、怖い~」
 俺の方が恐怖を覚えるよ。
 アンナの隣りにいる子供たちもドン引きじゃん。
 トラウマになりそうでかわいそう。

 役者は揃ったことで、司会のお姉さんがマイクを持つ。
「さあ! 会場のみんな、イケメンガーに女の子たちが捕まっちゃったよ! どうする!?」
 一人、男性が混じってますよ。

「会場のみんな! 倒れたボリキュアにエールを送って!」
 すると会場の子供たちが叫びだす。

「ボリキュア、がんばれぇ!」
「ブラック、たってぇ!」
「はぁはぁ……ブラックたんの倒れているところも可愛いよ」
 ん? 最後のは大友くんでは?

 そして会場は熱気を放つ。
 気がつけば、子供たちだけではなく、親たちも一緒に叫ぶ。
「「「ボリキュア、がんばれぇ!」」」
 なるほど、子供のためだもんな。
 パパさんとママさん、休日出勤、お疲れっす。

 俺も一応便乗しといた。
「アンナを返せぇ! 助けてくれぇ、ボリキュア~!」
 壇上にあがっていたアンナもそれに合わせる。
「タッくんとのデートを返して~ ボリキュア~!」
 失笑が起こる。

 恥じゃん。

 俺たちのエールに呼応するかのように、ボリキュア戦士たちはフラフラと重い腰を上げる。
 立ち上がって、戦闘態勢を整え叫ぶ。
「許さないわよ! イケメンガー! 私たちのお友達を傷つけるなんて!」
 なんにもしてないけどね。

 その後はボリキュアの必殺技を各シーズンキャラごとに連発。
 イケメンガーは「ぐわっ」「ぐへっ」「うう」とうめきながら倒れる。
 そして倒れたくせに、ムクッと立ち上がるとステージ裏へと逃げていった。
 シュールだ。

「私たちは絶対に負けないんだからね!」
 全員でボリキュアの決めポーズ。
 その後、アンナはボリキュアたちと記念写真を撮っていた。

 もういや、帰りたい。
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