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第七章 パニックパニック!

お弁当、あたためますか?

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 特に何事もなく、(福間 相馬は天に召されたが)午前の授業は終えた。

 さあ楽しい楽しいお弁当タイムのはじまりだぁ!

 前回と同じく、多くのリア充グループは教室から退出する。
 きっと赤井駅周辺の飲食店で、外食するのだろう。

 花鶴や千鳥もスタコラサッサーと出ていく。
 が、金色のミハイルはまだ夢の中。
 こいつは一日寝ていて、出席カードでさえ、教師が代筆していた。
 L●NEのしすぎだ。

 俺は彼らを無視して、リュックサックから弁当箱を取り出す。
 
 リア充たちが出ていくのを待っていたかのように、非リア充グループの男子たちが席から立ち上がる。きっとヤンキーが怖いから待っていたんだろう。

 対照的に女子たちは、俺と同様に弁当を取り出し、食べ始めた。


「真二よ、今日はなにを食べる?」
 双子の片割れが問う。
「兄者よ、ラーメンが無難であろう。学割も使えますし」
 なっ! そうか。生徒手帳を見せれば、そんなメリットがあったか!

「おい、日田兄弟」
 ふと声をかけてみた。
「どうした? 新宮殿?」
「お前ら。弁当持ってこないのか?」
「「?」」
 同じ容姿のおかっぱキノコが、互いの顔を見つめあう。
 しばらくの沈黙のあと、兄の真一が答えた。
「拙者たちは料理ができませぬ。両親も共働きで、お昼は外食で済ますのが、暗黙のルールです」
「右に同じく。新宮殿は環境に恵まれておられるご様子」
 いや、この弁当は俺がつくっているんだが?
 作ったのは卵焼きとウインナーだけだ。あとは冷食をぶち込んだテキトー弁当だぞ?

「「では、失礼しまする」」
 息がピッタリで草が生えそう。

「おう、またな」
 弁当箱を開き、箸を手に取った瞬間だった。

「今日も卵焼き?」
 隣りの席の北神 ほのかが微笑む。
 彼女も既に弁当を開いている。
「ああ、卵焼きだけはプロレベルと言っただろ?」
「ふふ、そうだったね」
 卵焼きで何が悪い! コスパよくて超うめーんだぞ!

「ほへ? たまごやき……」

 夢の中から目を覚ますお姫様、じゃなかった古賀 ミハイル。
 指で瞼をこすりながら、あくびをする。
 お口ちっさい。可愛い。
 
「あっ! もうこんな時間か?」
「ミハイル、お前。なにを習っていたんだ」
「だ、だって……眠かったんだもん」
 頬を膨らますミハイル。

「まあいいが……今日は財布忘れてないよな?」
「わ、忘れてねーよ」
 と、言いつつミハイルのぺったんこなお腹から、ギューギューと音が漏れている。

「なんだ? また卵焼き食うのか?」
「い、いらねーよ! 外で食べてくる!」
 顔を真っ赤にしたと思ったら、背を向けてしまう。だが、チラチラと俺の卵焼きを名残惜しそうに見つめる。
 もどかしいのう!

「そうか……ならば、俺は一人で食うぞ?」
 一応、確認しとく。
「た、食べればいいじゃん!」
 の割に、一歩も前に進んでないぞ。

 ガラッとドアが開く音が、教室内に響いた。
 俺もクラスメイトも、一点に視線が集中する。
 見慣れない姿だからだった。

「あっ、センパ~イ」
 そう制服組のリアルJKこと赤坂 ひなただ。
 つーか、さっき会ったばかりだろ。
 
「あ! あいつぅ!」
 ミハイルはその場で拳をつくっていた。
 なんだろ? 赤坂のパンティーがシマシマだったのが、ムカついたのかな?

「新宮センパイ! 一緒にお昼食べましょ」
 弁当箱を片手に、俺の前の机へと座る。
 そして、俺の机と合体させて、対面式テーブルの完成。
「俺と赤坂が? まあ……構わんが」
 これが彼女のいう『責任』の取り方なのだろうか?
「じゃあ、いっただっきまーす!」
 満面の笑みで俺を見つめる赤坂 ひなた。
 わからん、最近のJKたるもの。これがパンティーを見た復讐とでもいうのか。
 俺にはわからん。
「ふむ、ならば。いただきます」
 俺も便乗する。

「うわっ、新宮センパイの卵焼き。超キレイ!」
 目を輝かせる赤坂 ひなた。
「だろ? 俺の卵焼きはプロレベルだ」
「私の唐揚げと交換しません?」
 なん…だと! 俺が卵焼きと同レベルに好むおかずだ。
「その提案、乗った!」
 俺と赤坂は、互いの弁当箱からおかずを交換した。

「おいっ! タクト!」
 あれ、外食にいかないの? ミハイルさん。
「どうしたんだ? ミハイル」
「誰です? この子?」
 それ一番言っちゃダメなやつ!
「オレはタクトのダチのミハイルだっ!」
 めっさキレてはるやん。

「ミハイル、なにを怒っているんだ? やはり俺の卵焼きが恋しいか?」
「ち、ちげーよ! なんで三ツ橋のやつが、きょーしつに来てんだよ!」
 そこぉ? キレるポイント。
「ハァ? 元々、この校舎は三ツ橋のものですよ? それに私たち同じ学園の生徒じゃない?」
 清ました顔で、俺の卵焼きを食する孤独のJK。
 満足そうに「うーん、おいし~」と頬に手をやる。

 その姿を見たミハイルは、いつも大事にしているお友達の床ちゃんをダンダンッと踏み続ける。
 良くないよ? 友達は大事にしないと。

「それなら、タクトのおべんとうは、一ツ橋のオレも食べていいじゃん!」
 え? なにそのルール?
 俺の弁当は、一ツ橋のものでも、三ツ橋のものでもねーよ。
 
「タクト! オレにも弁当、この前みたいに食べさせて!」
 その顔、正にイケメン。そして可愛い。
「まあ構わんが……」
「は? ミハイルくんは、自分の弁当を食べたらどうなの?」
 眉間にしわを寄せる赤坂。
「うるせぇ! おまえ、名前は!?」
「赤坂 ひなただけど」
「ひなたか……じゃあ、ひなた。おまえはタクトとダチじゃねぇ!」
 でしょうね。

「だから、なんなの? 私とセンパイは、生徒手帳を見せあった仲だけど?」
「フン! オレはタクトん家に泊まったことあるもんね!」
「はぁ? 新宮センパイ。ホントですか!?」
「ホントだよな! タクト!」
 その時なにか、俺のボタンにスイッチが入った。

「お前らなぁ……なんでもいいからメシを食え」

「「はい」」


「ほれ、ミハイル。箸がないんだろ。食わせてやる」
 また、あーんして食べさせてやった。
 相変わらず、食べ方がエロい。
 んぐっ、んぐっ……ごっくん! と何かを連想しそうな租借音だ。
「うまい! うまいぞ、タクト☆」

「あっ! ずるい! ミハイルくんだけ」
「仕方ないだろ? こいつは箸を持ってないんだから」
「ひなたは自分のあるじゃん。オレは忘れたからさ☆」
 それ誇るところかね?

 キーッと顔を真っ赤にさせる赤坂。
 対して満足そうなミハイル。
 次をくれくれと、可愛いお口を開く。
 思わず、俺は生唾をガブ飲みしてしまった。 

「尊い……」
 この言葉、どっかで聞いたことある。
 俺とミハイル、それに赤坂の3人は、恐る恐るその声の持ち主を探す。

「尊すぎる……男の子同士でお口であーんして、それに怒る女子。『今晩のおかず』になりそう」
 眼鏡が輝く。その名は北神 ほのか。

「な、なにをいっているの……あなた?」
 いかん! 赤坂はそういう免疫を持ってないのか。
「ほのかのやつ、また調子悪いの?」
 ミハイルも同様だ。
 ここは俺がしっかり守ってやらんと。

「お前ら全力で昼飯を食え!」

「「?」」
 
 その時ばかりは、ミハイルと赤坂は首を傾げて、仲良く見つめあっていた。
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