43 / 490
第六章 デート! DATE!
契約 ハンコはなしで
しおりを挟む俺とアンナは、夕暮れまでカナルシティのいろんな店を楽しんだ。
普段行かないようなアクセサリーショップや雑貨屋、あと夢の国ストア……。
個人的には、この店が一番つらかった……。
アンナが「あれ見て! ネッキーだよ☆」と大興奮。
俺は終始、温度差を感じながら、彼女の買い物に付き合っていた。
時が流れるのは早く、スマホを見れば『17:22』
一応、女の子の設定なので、そろそろ帰さねばな。
そういえば、年齢はいくつなんだ?
「ところでアンナ、お前は今年いくつなんだ?」
ネッキーの特大ぬいぐるみを抱えているアンナ。
「アンナ? 今年で16歳だよ? まだ15歳☆」
そこは設定変換せんのかい!
「なるほどな……ならば、そろそろ帰らないか? 親御さんも心配されているだろうし」
「アンナ、親いないよ? ミーシャちゃんと同じで死んじゃった……」
そこも設定は一緒かよ! 2回も気をつかわせるんじゃないよ、ったく。
「それは済まないことを聞いてしまったな……」
これも二度目だけどな。
「ううん、私にはミーシャちゃんがいるから」
それって自分がお友達ってことだよ? 悲しくない?
「だが、もう夕方だ。博多駅まで送るよ」
「イヤァッ!」
彼女の叫び声が行き交う人々の足を止める。
「アンナ? またいつか会おう。それじゃダメか?」
「イヤイヤ、絶っ対にイヤ!」
ダダこねているよ、中身15歳のあんちゃんだろ?
めんどくせっ。
「じゃあ、最後にアンナの願いを一つだけ聞く。それでどうだ?」
「ホント!? なら……最後にあの川を見たい!」
アンナが指差したのはカナルシティの目の前にある大きな川。
『博多川』である。
「博多川か……別に構わんが?」
「やった☆」
そんなにでかい川が珍しいか?
カナルシティの裏口を出るとすぐに横断歩道があり、2分ほどで川辺につく。
長い川に沿って、ベンチが複数、横並びしている。
俺とアンナと、ネッキーは『二人と一匹』で座った。
「ねぇ、タクトくんってカノジョとかいないの?」
知っているくせに!
「俺は生まれてこの方、女と付き合ったことなんぞない」
事実上の童貞発言である。
「そっかぁ……あのね、ミーシャちゃんから聞いたんだけど、タクトくんって小説家なの?」
ソースはお前な!
「ま、まあ、そうだ。売れないライトノベル作家だ」
「ふぅん。今はどんな作品を書いているの?」
う! それ聞いちゃう?
「今は……はじめてのジャンルに手を出している」
「なぁに?」
とぼけた顔で食い気味に、身体を寄せるアンナ。
や、やめて! 博多川の対岸ってラブホ街なのよ!
このまま、お持ち帰りしたくなるからさ!
「ラ、ラブコメだ! それも王道のな」
「そうなんだぁ……ミーシャちゃんとタクトくんって仲いいの?」
自分で自分のこと聞いてどうすんの?
「まあいいな」
「そっか☆ よかったぁ☆」
嬉しそうに笑いやがって! そのための女装じゃないだろな!
「ねぇ、タクトくんってさ。どうして、ミーシャちゃんと同じ高校に入学したの?」
「そ、それは……」
俺のクソ編集、白金 日葵に言われたからだ。
『業務連絡です。取材してきてください!』
「取材だ……。ラブコメを書くためには、小説を書くには、『リアルな記憶が残らない』と俺は書けない作家なんだ」
「……」
なぜか肩を落とすアンナ。
そこ、俺がやるところだからね?
俺だって、なにが悲しくて年下のやつらと勉強してんだって話だよ。
しかも王道どころから、邪道なデートしちゃってるからね。
「ねぇ、タッくん……」
「へ?」
今、こいつ、あだ名っぽいこと言ったよな?
「アンナ……じゃ、ダメ?」
胸元で祈るように手を合わせるアンナ。
これは反則的だ。
女の成せる所業である。
「なにがだ?」
「アンナで取材しちゃダメ?」
「なっ!?」
血迷ったか。古賀 ミハイル。
クソッ、俺が小説家だということを見こしてのプランなのだろうな。
「アンナも、まだ誰とも付き合ったことないの……」
童貞と訳してもいいですか?
「タッくんなら……タクトくんさえ良ければ、アンナを使って!」
使ってって……あーた。違う意味に聞こえるよ?
しかし、その表情、真剣。ものすごくイケメン。イケメンすぐる。
「つまり、アンナの言いたいことを要約すれば、俺とお前が恋愛関係に至るということか?」
俺がそう言うと、彼女の顔はボンッと音を立てるかのごとく、真っ赤にさせる。
「付き合うんじゃなくて……その……あくまでも取材、だよ?」
おい、なにをモゾモゾとしている。
自分の言っていることが、わかっているのか?
「取材費はどうすればいい? 金額は?」
「そんなのいらない!」
恥ずかしがったと思えば、激怒。女子かよ。
「ならば、アンナに対する報酬は?」
「いらない……」
また床じゃなかった、コンクリートが友達になっているぞ。
「ダメだ。取材対象にはしっかりと報酬を与えるべきだ」
「そんなん、いらんもん!」
はじめて聞いたわ、お前の博多弁。
「いいか、アンナ? 俺は物事を白黒ハッキリさせないと気が済まないんだ。わかるか?」
「じゃ、じゃあ……もし取材が終わって、アンナのことを気に入ったら『ホントのカノジョ』にして」
「……」
なにこれ? 俺ってばハメられた?
マウントとられまくりじゃん。
「分かった」
「約束だよ☆」
俺とアンナは、小指同士で契約を交わした。
夕陽が彼女の瞳を鮮やかにさせる。
その瞳は気のせいか、潤って見えた。
これで、よかったのだろうか?
俺は確かにミハイルをフッてしまった。
だが、なぜアンナとはこんなにも簡単に、契約を結んでしまったのか?
疑似恋愛とはいえ、男だとわかっているのに……。
「あ、タッくんってL●NEやってる?」
切り替えはやっ!
「いや、やらん。既読スルーとかいう、いじめが横行しているツールの一つだろ?」
イジメ、ダメ、ゼッタイ!
「アンナは既読スルーとか、絶対にしないよ!」
「ふむ……しかし連絡先がサーバーと同期されれば、知り合いなどにバレると聞くが?」
そんなことになれば、変態母さんとバカ妹の繋がりが、俺にまで繋がっちまうぜ。
「設定で、アンナとだけ、L●NEできるようにしてあげる!」
なにそれ? ちょっと怖い。
「まあ、構わんが……」
「これも取材のうちだよ☆」
笑顔が可愛いけど、めっさ怖い!
取材って、危険がいっぱい!
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
女ハッカーのコードネームは @takashi
一宮 沙耶
大衆娯楽
男の子に、子宮と女性の生殖器を移植するとどうなるのか?
その後、かっこよく生きる女性ハッカーの物語です。
守護霊がよく喋るので、聞いてみてください。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる