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第六章 デート! DATE!
初デートでおごりはやめとおこう
しおりを挟むプリクラを撮り終えたアンナは、満足そうにしていた。
スマホの時計を見れば、『12:34』
腹が減った……。
よし店を探そう!
と、いつもなら『一人のグルメ』を楽しむところだが、本日はアンナちゃんもいるからな。
ソロプレイはできない。
「アンナ、腹すかないか?」
「え? タクトくんにまかせる……」
なぜ顔を赤らめる?
普通に「腹が減った……」とつぶやき、ポカーンとすればいいのに。
「肉は嫌いか?」
「ううん、アンナは好き嫌いないよ☆」
へぇ、いい子でしゅねぇ~
ボクはチーズがきらいでしゅけど……。
「ならば、ハンバーガーにしよう」
「アンナ、大好き☆」
そら、ようござんしたね。
カナルシティの一階に向かう。
中央部には噴水があり、一時間に一度ぐらいで噴水ショーがおこるらしい。
正確なことは知らんけど!
噴水広場の目の前にその店はある。
可愛らしい女の子(JSぐらい?)が看板のハンバーガーショップ。
『キャンディーズバーガー』
お財布にも優しく、味も日頃通っている大手チェーン店などに比べれば、うまい。
「ここでいいか?」
アンナに訊ねると「うん」とニコッと笑顔で頷く。
まったく、ミハイルのときも、これくらい素直であれ!
「いらっしゃいませ~」
これまた取り繕ったような笑顔の若い女性店員が、お出迎えである。
「店内でお召し上がりですか?」
「ああ、俺はBBQバーガーセットで、飲み物はアイスコーヒー」
「え、タクトくん、もう決めていたの?」
そげん、驚かんでもよか。
なぜかと問われれば、俺がいつも映画帰りに寄る店の一つだからだ。
俺はここでは、これしか頼まん。
選択肢が広がれば、広がるほど人は時間を無駄にしてしまうものだからな。
「え、え……アンナはどうしよっかな」
あたふたするアンナ。
困った姿も見ていて、可愛らしいな。
「お決まりになっていないのでしたら、ほかの方にお譲りくださいますか?」
笑顔だが、ことを円滑に進めたいと、睨みをきかせる店員。
背後を見れば、確かに他にも若者の長蛇の列が……。
ここは紳士の俺が、どうにかせねば!
「アンナ、俺と同じのにしたらどうだ? BBQならば失敗はありえない」
「そ、そうだね☆ タクトくんの同じのください!」
若干、笑顔がひきつる店員。
確かにその頼み方はひどいぞ。
「すまんが、BBQセットを二つ。飲み物はどうする?」
「アンナはカフェオレで☆」
「だそうだ」
「かしこまりました」
笑顔だが、なんか威圧的だぞ?
まさかと思うが、俺とアンナがイチャこいているカップルにみえるんか?
~数分後~
一つのトレーに、二人分のハンバーガーとポテト、そして飲み物がのっていた。
厨房の奥からむさい男性店員が「ういっす」と体育会系な挨拶で、雑に差し出す。
なぜ男はいつも厨房なのだろうか?
男女差別じゃないですか!?
ま、そんなことはさておき、トレーは俺が持ち、対面式のテーブルに運ぶ。
二人分しかなく、いわゆるお見合いするような形でアンナと見つめあう。
アンナは時折、はにかんで、俺の顔色をうかがっている。
「さて、食うか」
「うん☆ いただきまーす☆」
俺はハンバーガーの包装紙をとると、てっぺんのバンズを持ち上げた。
パティのうえにフライドポテトをならべて、蓋をするようにバンズをのせる。
完成、『俺流なんちゃってニューヨークバーガー!』
これは某ハリウッドスターが映画の劇中で、ホットドッグとフライドポテトを、ケチャップとマスタードだらけにしていたシーンがあり、それからインスパイアされた俺流メニューである。
「タクトくんってそんな食べ方するの?」
首をかしげるアンナ。
「ああ、うまいぞ」
俺はバーガーを、手で軽くつぶしてから、ほおばる。
これも食べやすくたべるコツのひとつであり、どっかの某日本俳優が映画の劇中で語っていたものだ。
うろ覚えだがな。
「アンナにもしてみて」
目を輝かせるアンナ。
まるで、餌をほしがる犬のようだな。
ちょっと可愛いからほっぺを触らせなさい。
仕方ないからアンナにも『俺流なんちゃってニューヨークバーガー!』を作ってやる。
というか、はさむだけだから俺がやる必要性があるか?
「ほれ、食べるときに少しバーガーをつぶすのがおすすめだ」
「なんで?」
「食べやすいし、そのなんだ……アンナのような、小さな口でも入りやすくだな」
なんか言い方がエロいと、感じたのは俺だけか?
「そっか☆ じゃあやってみる」
俺の言われるがままに、食べるアンナ。
瞼をとじて小さな唇で、ハンバーガーをかじる。
男の俺とは違い、かじった部分が狭い。
それぐらいアンナの顎が細いということなのだろう。
「んぐっ……んぐっ……」とミハイルのときみたいな、エロい音をたてる。
「おいしーーー!」
「だろ?」
ドヤ顔で決める俺氏。
「タクトくんってなんでも知っているんだね☆ アンナの知らないことばっかり」
「そ、そうか?」
いわゆる、男子をすぐに「すごぉい」とほめちぎる清楚系ビッチにみられる言動である。
だが、いわれて嫌な気分ではない。
むしろ、他のメンズからの視線が突き刺さる。
「見ろよ? イチャつきやがって」
「ムカつくぜ!」
「金、暴力、せっかちなお母さん!」
なんか最後のやつは「イキスギィ~」だったな。
思えば、このハンバーガーショップにも、一人でしか食べに来た事ないな。
俺はアンナを見つめながら、不思議な錯覚に陥っていた。
目の前のこいつが、本当に彼ではなく、彼女に見える。
ミハイルの遊びに付き合っているとはいえ、俺はなぜ別人として、アンナとして接しているのだろうか?
どうかこの時が、永遠であってほしい。
そして、このままミハイルがアンナに、男が女に生まれ変わってほしいと願っていた。
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