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第六章 デート! DATE! 

プリクラは男子禁制

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 アンナが痴漢? された罪滅ぼしとして、俺はプリクラを一緒に撮ることにした。
 思えば、プリクラなんざ、人生で一度も撮ったことなかったな。

 スクリーンからまた長い長いエスカレーターに乗る。
「ところでアンナ、あのおっさん、アンナをずっと見ていたのか?」
 彼女はうつむきながら答える。
「うん……チケット売り場の時からずっと見てたみたい……」
「すまない、俺がもっと早くに気がつけば」
 拳を強く握るが、アンナの柔らかい手によってほぐされる。
「タクトくんは悪くないよ……私も早くにタクトくんに伝えておけば、私の身体も触られなかったのに」
 どうやら、あの変態親父に触れた場所は、左の太ももらしい。
 アンナが悔やんだ顔でももに触れている。

「上映中、ずっと触られていたのか?」
 俺、すごく怒ってるわ。
「ううん、途中から……何回も手をどかしたのに、何度もしつこかった」
 クソッ! 俺が触りたかった!

「アンナ、もう二度とお前をそんな目にあわせないと誓うぞ」
「ありがとう!」
 アンナの顔に笑みが戻る。

 エスカレーターから左手に入れば、すぐにゲームセンターとプリクラ専用のブースが見える。
 カナルシティは、学生やカップル、外国の方々も御用達の場所なので、プリクラがよく儲かるらしい。
 しかも、コスプレが無料で貸し出し可能だ。

「しかし、俺はこういうのは全然わからん」
「タクトくんって、プリクラ撮ったことないの?」
 上目遣いでのぞくアンナ。
 やめてぇ、そんな顔で見られると、撮れなくなっちゃよぉ~
 股間が『がんばれ元気』になっちゃうよぉ~

「ないけど?」
 アンナが、エメラルドグリーンの目をまるくする。
 その瞳は妖精のようだ。
「ホントに!?」
「そうだが」
「やったぁ! アンナが、タクトと生まれて、はじめてのプリクラを撮るんだね☆」
 だね☆ じゃねぇ!
 なんか、俺がかわいそうなぼっち人間ってのが、まるわかりじゃねーか!

「ま、まあ、そうなるよな」
 苦笑いが辛い。
「ふふ☆ うれしいなぁ」
 今日は笑いながら、床を見つめるんですね。
 なんか人の不幸を、めっさ喜んでいるように感じるんですが?

「プリクラの機械は、全身が取れたほうがいいよね?」
「全身? なぜだ?」
 俺の問いに頬を膨らますアンナ。
「だって、二人のはじめてのプリクラだよ? アンナだって、タクトくんの全部撮りたいもん!」
 それプリクラ必要か? スマホで俺を撮っちまえばいいんじゃね?
「了解した。ならば、俺はこの界隈は詳しくない……ので、アンナに任せていいか?」
「うん☆」
 アンナは優しく微笑むと、20台近くはあるプリクラ機を、念入りに一台一台チェックしていった。

 これは盛りすぎ、あれは全身が映らない、それはフレームが少ない……だのと文句ばかり垂れて、一向に決まることがない。

 エンドレス!
 そういえば、妹のかなでも、男の娘か女体化の同人誌を買う時はいつも迷っていたな……。
 俺からすれば、どちらも同じなのだが、女という生き物は、選択肢を用意されると迷う生き物なのだろう。
 っておい! アンナはミハイル。ミハイルはアンナ!
 男じゃい!

「あ、あれが一番いいかも☆」
 アンナが選んだのは、いわゆる『盛り』要素が少ないナチュラルな写真が撮れて、全身も撮影できる一機だ。
 尚且つ、スタンプやフレームも豊富。
 なぜ、こやつはこんなものに詳しいのだ?

 だが、プリクラ機の前にはカップルで長蛇の列。
「こんなに人気なのか? プリクラってのは!」
「そうだよ~ カップルさんだけじゃなくて、女子高生とか男の子同士でも撮るからね☆」
「男同士でも!?」
「うん☆ 部活帰りの子たちがよく撮っているよ」
 それって……なんの部活? 相撲部? 空手部? 柔道部? 
 裸体で『あぁぁぁ!』とか、事後のプリクラじゃない?

「そうか……そんなに楽しいものなのか、プリクラってのは」
「一人で撮るのは楽しくないけど、お友達とか家族と撮ると楽しいよ☆」
 おい! 俺はお友達もいなかったし、家族なんてプリクラなんざ興味ねーから!

 ふと、プリクラのブースを見渡すと『こちらは男性のみの撮影は禁止させて頂いております』とある。
 ん? 俺とアンナは男同士じゃね?

「なあ、アンナ。男同士でも撮るっていったよな?」
「ん? いったよ」
「なのに、あの『制限』はなんだ?」
 注意書きを指さすと、アンナが汗を吹き出す。
 
「あ、えっとねぇ……あれはね、痴漢とか盗撮を防止するためだよ☆」
 歯切れが悪い。
「そうか。ならば、男同士で撮るのは限られる……ということか?」
「ん~ アンナは詳しくないな~」
 話をそらすな! 絶対に確信犯だろ!

「つ、次、アンナたちの番だよ!」
 腕をつかまれ、強引にプリクラのなかに入った。
 中は思ったよりも、広々としている。
 後部には長いすがあり、座ったシーンも撮れる仕様らしい。

「じゃあ、最初はバストアップ撮ろ☆」
 バストってひびきがエロい、と感じたのは俺だけでしょうか?
「ああ」
 アンナはカメラに映し出された自分の顔を、鏡がわりに前髪を整える。
 なんかまんま女の子の仕草だよな。ミハイルのときは気にしてないのに。
 
『じゃあ、一枚目! いっくよぉ~』

 某豪華声優が可愛らしいボイスで採用されていて、声豚な俺からしたらツボだった。

「タクトくん、もっと寄ってよ」
 アンナが俺の左腕に抱きつく。
 肘が彼女の胸にあたる。
 な、なんだ! 絶壁なのに微かだがふくらみを感じる。
 これが俗にいう『ひじパイ』なるものか!?
 
「そ、そんなに引っ張るなよ……」
「もう照れないで! はい笑って」
 アンナはニッコリ、俺は引きつった笑顔。

「タクトくんの下手くそ!」
「仕方ないだろ、生まれてはじめてなんだから」
「そうだった……ごめん」
 謝らないでぇ! 俺がどんどん可哀そうなやつになってるから!

「じゃ、じゃあ次は全身ね☆」
「仕切り直しだな」
 俺とアンナは少しうしろに下がると、笑顔をつくる。
 アンナは俺の肩に顔をのせた。
 なにこの子? ビッチなの? 

「はいチーズ!」
「ち、チーズ……」
 今回もやはり俺の顔は引きつってしまった。
 アンナは案の定プンスカ怒っていたが、原因は彼女の積極的行動だと思うが。

「じゃあラストはこのイスに座って撮ろう☆」
「座ればいいんだな」
 なんか介護されているみたい。俺もいうほどバカじゃないのよ?

 二人して長いすに尻と尻を、くっつけて座る。

「タクトくん……映画館のとき、おじさんに触られて辛かったよ」
「わ、悪い」
「アンナよごれちゃった?」
「お前は汚れてなんかない。もし汚れたのならば、洗えばいい。例えばこうやって……」
 どさくさに紛れて、俺は彼女の太ももに優しく手をのせた。
 とても柔らかい……そういえば、こいつの太もも触るのって、2回目じゃん。
 ミハイルの時に自宅の風呂場で。

「嬉しい……タクトくんの手で、キレイになっていくよ☆」
 うっとりと俺を見つめるアンナ。
 俺もついつい彼女に見とれてしまった。
 互いに見つめあった状態で、『はいチーズ!』とフラッシュがまぶしく光る。
 それがなかったら、俺たちはそのままキスしていたかもしれない……。

 慌てて、互いに顔をそらす。

「じゃ、じゃあ、次はプリクラをデコろうよ☆」
「そ、そうだな」
 まるでラブホから出てくる事後のカップルのように、俺たちはそそくさとプリクラ機から出て行った。

 あとは、ほぼアンナが撮影した写真を決めて、スタンプやら日付をつけていく。
 俺は「なるほどな」と感心しながら、その姿を見つめていた。
 アンナに「タクトくんもする?」と聞かれたので、「タケちゃんスタンプはあるか」と問うと苦笑いされた。

 あっという間に、撮影と印刷が完了。
 仕上がったプリクラを、二つにわけると片方を俺がもらった。
 アンナはそれを見て嬉しそうに微笑む。

 これってどこに貼ればいいの? テーブル?
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