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第六章 デート! DATE! 

初デートいえば……

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「あの……タクトさんはミーシャちゃんと、どういう関係なんです?」
「え? 俺とミハイル?」
 って、お前が本人なのに、どんな設定なの?
 今日はリア充どもの仮装パーティーなのかもしらんな。

 ま、告白をフッた罪悪感もあったことだ。
 一日ぐらいミハイルの戯れに、付き合うのも悪くない。

「俺とあいつは友達……かな?」
 なぜか頬が熱くなる。

「そうですか☆ ミーシャちゃんにお友達ができて、安心しました☆」
「え?」
「あの子、いつも私とお姉さんとしか、遊びませんから☆」
 それ自分でいう? 悲しくない?

「そ、そうか……ところで、今日はこれからどうする?」
「タクトさんの行きたいところが、いいです☆」
 ニッコリと笑う天使……(♂)

 なんかドキが、ムネムネするから、やめてくださいますか?
 素のミハイルさんじゃ、ダメだったんですか……。

「じゃ、じゃあ『カナルシティ』はどうだ? あそこなら一日遊べる」

 カナルシティとは、博多駅から徒歩10分ほどの複合商業施設である。
 ファッションからグルメ、映画など全て揃っている建物だ。
 リア充はこぞって、ここを休日の場所として選ぶことも少なくない。
 それに現在は、外国人の方々もよく遊びに来る。


「わぁ! 私、『カナルシティ』いったことないんです☆ いきたい!」
「そ、そうか。ならば、俺についてこい」
「うん☆」
 博多駅からまっすぐ『はかた駅前通り』を直進する。

 今日はなぜか、ミハイルこと古賀アンナちゃんは、行きかう男どもを釘付けにさせる。
 俺以外の、人間も彼を『女』として認識しているようだ。
 いや、誤認というべきか……。


「みろよ、あの子! 可愛くね!?」
「うわぁ、俺タイプだわ……」
「つーかさ、連れの男がないわ……」
 最後の一言いるぅ!?


「あの、タクトさんって『世界のタケちゃん』が好きなんですか?」
 首を傾げるアンナ。
「え? ……ああ。俺がこの世で一番尊敬している人間だ」
 って、お前知っているくせに!

 はかた駅前通りをまっすぐ歩くと、緑で覆われた建物が見える。
 これがカナルシティの入口だ。
 数年前に『カナルシティ イーストビル』という別館が作られ、より目立つ建物になった。

「うわぁ、キレイな建物ですね☆」
「そうか? それより、アンナ……ちゃん?」
「あ、私は『アンナ』と呼んでください☆」
「む……ま、待て。ならば、敬語はやめてくれ。俺もアンナと呼ぶから『タクトさん』ってのもなんか正直、嫌だ」
 言っていて、自分で恥ずかしくなっちまったよ。
 なにこれ、男同士でなに自己紹介しあってんの?

「じゃあ、タクトくん☆ これでいいかな?」
 その笑顔……やめて……。
 食べちゃいたいぐらい、可愛すぎる。

「お、おう。じゃあアンナ。カナルシティのどこにいく?」
「タクトくんが決めて☆」
「え?」
「だって私、田舎育ちで全然わかんないもの」
 そういうアンナはどこか寂しげだ。
 ていうか、マジでミハイルさんも、カナルシティ来たこと、ないんけ?

「了解した、ならば、映画を見よう」
 これって初デートのテンプレだよな?
「うん☆」

 イーストビルのエスカレーターに乗り、2階に上る。
 そのまま歩いていると、本館に繋がる渡り廊下が見えた。
 
 本館に入ると今話題の『アヴァンゲリオン』のフィギュアがお出迎えだ。
 汎用イケメン型決戦機AVA初号機様である。
 近年、リメイクが行われ、またブームが再燃しているようだ。

「これって、プラモデル?」
 え? 知らないの? あのAVAだよ!
「アンナはアニメに詳しくないのか?」
「アニメ? アニメはえっと、スタジオ『デブリ』とか、夢の国の『ネッキー』とかなら、知ってるよ☆」
 そこの設定は、そのままなんかい!
「そ、そうか。これはAVAと言ってだな。すごい兵器なんだぞ」
「ふーん。ロボットなの?」
「……」
 なにかと、リア充や非オタクたちは『機械』や『ロボット』という単語で終わらせてしまう。
 説明がダルいので、俺は「映画館にいこう」とアンナを誘う。

 
 映画館につくと若者がいっぱいチケット売り場で並んでいた。
 それもそうだ、今日は土曜日。
 学校が休みだったり、授業あがりの制服を着用したままの高校生たちもいる。
 あとは年中暇そうな大学生だな。

 これだから、俺は土日の映画館は好かん。
 俺は映画は静かに鑑賞するのを楽しむ。
 よって……“こげん”にわかな映画好きなどという、下等生物と同じ空間で、同じレベルで、俺の大好きな映画を観たくないのだよ!
 
「タクトくん? 映画、なにを見るの?」
「あ、すまん。目の前にリア充どもがいて虫唾が走った」
「リアじゅう? なあにそれ?」
 そこはバカだな!
「アンナは知らなくていいことだ。映画はもう決めているぞ」
「なに見るの?」
 フッ、よくぞ聞いてくれた。
 本日はめでたくも、俺の生涯における師匠である『世界のタケちゃん』の新作、『ヤクザレイジ』の封切り日なのだ!

「アンナ、ここは上級者の俺に任せろ」
「うん☆」
 チケット売り場に並ぶと、後ろから何やらヒソヒソ声が聞こえる。

「ねぇ、あの二人付き合っていると思う?」
「いや、ないでしょ? 女の子が弱みでも握られてんじゃね?」
「ハーフかな? わたし……あの子だったらいけるかも」
 怖えな! 最後のやつ、ただの変態女だろ!

「いらっしゃいませ! 作品はお決まりですか?」
 受付嬢が営業スマイルを見せる。

「うむ、『世界のタケちゃん』の『ヤクザレイジ』を高校生2枚!」
「あ、作品名だけで結構ですよ?」
 笑顔で毒つくな! ムカつく店員だ!

「タクトくん……私、高校生じゃないよ?」
「え?」
 そうか……ミハイルとばかり思っていたから、その『設定』を忘れていた。
 しかし、ならば身分はどうする気だ、アンナ?

「私、プータローだから……」
 アンナも床がお友達になっているぞ。
「あ、そうなのか……。じゃあ高校生一枚と大人一枚」
 なんか地雷を踏んだ気がしたので、俺が二人分支払った。

「かしこまりました。では、チケットをお持ちになられて、エスカレーターをお登りください」
 受付嬢からチケットを受け取る。

「気にするな、アンナ。無職は悪いことではないぞ? 俺の親父も無職だから安心しろ」
 なんか自分で自分が悲しくなってきたよ……父さん。
「う、うん……でも映画代は払わせて!」
 今日一番強気な顔だ。
 ちょっとミハイルよりな顔つき。

「了解した。では1800円だ」
「はい、2000円ね」
 受け取ったお札から、200円のお返しでーす。
 こいつって、結構こういうところ、しっかりしているのね。


 長い長いエスカレーターを昇る。
 何度来ても、カナルシティの映画館のエスカレーターは楽しい。
 左手を観れば、窓ガラスからカナルシティが一望でき、右手を観れば、ハリウッドスターのアートが壁一面に並んでいる。
 これだけで俺はテンション爆上がりなのである。

 エレベーターから降りると、さっそくチケットもぎりの女性スタッフが笑顔でお出迎え。

「チケットをお願いします」
 二人分のチケットを手渡すと、半券を返される。
 ちなみに、俺はこの半券をコレクションしてしまうクセがあるのだ。

 メインフロアに入ると、香ばしいポップコーンが空腹をあおる。
「うわぁ~ いい匂い☆」
「ふむ、映画にポップコーンは必需品だからな。買っていこう」

 俺はアイスコーヒーを選び、ポップコーンはキャラメル味と塩味のハーフ&ハーフを頼んだ。
「アンナはどうする?」
「私は……んと、カフェモカで☆」
 可愛らしいご趣味で。

 トレーを受け取ると、『ヤクザレイジ』のスクリーンを探す。
「ここだ。入ろう」
「うん☆ どんな映画か知らないけど、タクトくんの好みなら楽しみ!」
 今、サラッとタケちゃんの映画、ディスってませんか?
 ねぇ、アンナさん!

 スクリーンに入ると、休日もあってか、満席に近かった。
 客層といえば、ご老人や本業らしき御仁も確認できた……。
 さすがはタケちゃんだ! 渋いぜ!

 俺とアンナは、真ん中あたりの席に腰を下ろした。

「ところで、タクトくん。この映画ってどんな内容なの?」
 そこから!?
「ま、まあ……見ていればわかるさ。タケちゃんの映画はイイぞ~」
「そっかぁ、ポップコーン食べてもいい?」
「おう」
 
 ブーッ! という、開幕の音と共に、俺とアンナは仲良く一つのポップコーンを食べはじめた。

 そういえば、こういうカップルらしいこと初めてだな……。
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