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第四章 オタク訪問

かなでの秘密

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 なんだかんだあって、俺のクラスメイト……。
 古賀 ミハイルは、初見のお友達の家に図々しくも晩御飯まで食べることとなった。
 まあこの件については我が母である新宮しんぐう 琴音ことねさんと妹のかなでの陰謀といえよう。


 4角形のテーブルには、母さんお手製の野菜ギョウザ、からあげ、トマトがふんだんに使われたスライスサラダ。
 俺とミハイルは仲良く隣りに座る。
 反対側に、母さんとかなでがニコニコと笑いながら、俺たちを見つめている。
 何やら嬉しそうだ。
 確かに、俺がこの家に知人や友人を連れてきたことは、あまり経験のないことであった。

「じゃあ、ミーシャちゃんとおにーさまの出会いに、かんぱーい♪」
 かなでがオレンジジュースを手にグラスをかかげる。
 と、同時にキモイおっぱいがプルプル震えて、かっぺムカつく。
「フッフ~ フッフ~ ミーシャちゃんも一緒に!」
 母さん、あんたまでちゃん付けかよ……。
 ちな、母さんはハイボール。

「あ、あの、かんぱい!」
 釣られるようにミハイルもグラスでご挨拶。
 ミハイルが選んだ飲み物は、アイスココア。

「タクト? どうした?」
 10センチほどの至近距離で俺を見つめるな!
 お前のエメラルドグリーンさんが、キラキラと輝いて、チューしたくなるんだよ(怒)
「んん……なにが?」
 平静を装う。
 俺が選んだのは『いつもの』アイスコーヒーだ。
 真島商店街の馴染みの喫茶店から購入している逸品だ。

「タクトもかんぱいしろよ☆」
 え? ここミハイルさんのおうちでしたっけ?
「ああ……かんぱーい(やるきゼロ)」

「「「かんぱーい」」」

「美味しいですわ~♪」
 といつつ、ゲップを豪快にするかなで。
「くわぁ~! このためのBLよねぇ」
 いや、母さんはいつもボーイズでラブラブしているじゃないですか。
「フゥ、おいし……」
 ミハイルさんたら、男のくせしてグラスを大事そうに両手で持っちゃったりして……。
 これって、ほぼほぼ女の子のしぐさなんすけど?

「しかし、古賀……お前、親御さんに連絡しなくていいのか?」
「オレ……父ちゃんと母ちゃんは死んでっからさ……」
 あ、これは地雷を踏んでしまったな。
 謝罪せねば。

「すまない、古賀……他意はない。謝罪する」
 律儀に頭を下げると、ミハイルが両手を振って慌てだす。
「な、なんでタクトがあやまんだよ! も、もう昔の話だからさ……」
 俺はこの時、一瞬にして思い出した。
 一ツ橋高校の宗像先生にクレームに行った際のこと。

『お前みたいな親御さんが二人そろって健在なのが当たり前……ってのが恵まれているんだ』

 こういうことか……ヤンキーにもヤンキーなりの事情があったのか。


「うう……ミーシャちゃん、かわいそうです!」
 泣きじゃくるかなで。
「私のこと『ママ』って呼んでいいのよ?」
 泣いてなくない? あんたのママってさ、BLのだろ?

「あ、あの、3人とも、ほんとーに気をつかわないで……オレはまだねーちゃんがいっからさ☆」
 健気にも笑顔でその場をおさめようとするミハイルに、俺は胸が痛む。
「ミハイル。お姉さんがお前を育てているのか?」
「ああ、ねーちゃんはすっげーんだぞ。オレより12歳年上でちょーかっこいいんだ」
 ちょーアホそうな姉上と認識できました。
「なるほど……つまり親代わりということか」
 ミハイルはこう見えて、苦労人というわけだ。

「かなで。そのお姉さまとお会いしたいですわ♪」
 まったく何を言いだすのやら。
「そうねぇ、タクくん。あなた今度ミーシャちゃん家にお母さんのお菓子を持っていてちょうだい」
 目を細くして笑う母さん。
 こういうときの琴音さんときたら『いかなったらBL書かせるぞ、オラァ』の意思表示である。
 そんな創作活動まっぴらごめんだ。

「了解したよ……」
「なっ! タクト……オレん家に、遊びに来たいの……?」
 おい、今度はテーブルというか『琴音さんのからあげ』がお友達になっているぞ。
「まあ興味はあるな」
「そ、そうか! やくそくな!」
 小学生かよ。

「ところでタクトのとーちゃんってまだ帰ってこないのか?」

「「「……」」」

「ん? どうしたんだ? みんな」
 首をかしげるミハイル。

 忘れていたあの男のことを……。
 新宮 六弦しんぐう ろくげん。これが俺の最悪のはじまりである。
 
「あいつか……死んだよ」
「そ、そうなの!? ……わりぃ、タクトん家もそっか……」
 泣いてはる。泣いてはるよ、ミハイルさんったら。
 あんな男のために。

「ちょっと、タクくん? 六さんはまだ生きてますよ?」
 微笑みが怖い。これは『オラァ! BLじゃボケェ!』と言いたいのである。
「そうです! おっ父様はかなでのヒーローですよ? 絶対におっ父様は死にません! おにーさまが一番知っているくせに……」
 いつになく寂しげな顔をするかなで。
「すまん、悪のりがすぎた。ミハイル、六弦とかいう父は生きているぞ」
 どこかでな。
「そ、そっかぁ……よかったぁ」
 胸を抑えて安堵している。
 え? ミハイルのとーちゃんだったの?

「つーかさ、ヒーローってどういうこと?」
 くっ! かなでの馬鹿者が!
 あんなやつを英雄と呼称するのは間違っているのに。

「それはですね……お父様、新宮 六弦は私を助けてくれたからですわ!」
 説明になってないぞ、かなで。
「どーいうこと?」
 ミハイルは脳内が8ビットぐらいしか処理能力がない。
 かわいそうだ。

「つまりはだな、ミハイル……実は、かなでという妹はな。六弦がよそから拾ってきた『もらい子』だ」
 俺のその一言に今までにみたいことのない表情。
 目を見開いて、大口を開けている。

「じゃ、じゃあ……かなでちゃんは他人の子なのか!?」
 なぜか俺の両肩をつかみ、激しく揺さぶる。
 そんなに揺さぶらないでぇ、俺はまだ首が座ってないの~
「そうだ、かなでは震災で孤児になり、そこを六弦とかいうバカが助けにはいったんだ」
「じゃ、じゃあ、タクトとかなでちゃんは血が通ってないのか!?」
 襟元をつかむミハイル。
 なにこれ、ほぼほぼ恫喝じゃないですか。

「そういうことですわ♪ だから私とおにーさまはイケナイ関係もアリということですね♪」
 サラッとキモイことをぬかしやがって。
「タクト……おまえ。かなでちゃんと何べん、風呂はいった!?」
 顔真っ赤にしてるぅ~ しかめっ面だし。こ、怖すぎ。
「し、知らん」
「ウソだっ!」
「いやですわ……この前も入ったじゃないですか~ おにーさま♪」
「……」
 沈黙するミハイル。

「ち、違うぞ? ミハイル。あの日もあいつが勝手に入ってきたんだ……お、俺にやましい気持ちは一切ないぞ」
「許さない!」
 え? 絶対に?

「まあまあ、ミーシャちゃん。なんなら今日は泊まっていけばどうかしら? お風呂も沸かすから、おっとこのこ同士仲良く入りなさい」
「か、母さん!?」
「許す☆」
 めっさ笑顔ですやん、白い歯が芸能人みたい。
「かなでも入っていいですか!?」

「「絶対にダメ!」」

 この時ばかりは、俺とミハイルの息がピッタリでした。
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