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第四章 オタク訪問
スーパーゴッドマザー 琴音
しおりを挟む「タクトの母ちゃんって、おもしろいな☆」
「そ、そうか?」
記念写真を撮り終えた俺とミハイルは、店内のソファに通された。
今日は客が来ていないようだ。
母さんのBL美容院は人を選ぶ……ため、完全予約制で接客している。
しかも、一人ひとり丁寧に応対するために、『セットチェア』も鏡も一人分しかない。
それだけ凝っているのだ。
『お客様が落ち着いてBLトークできる美容室』をテーマに開店したのが、20年ぐらい前。
時代を先取りしすぎて、開店当初は近所からのクレームが絶えなかった。
だが今ではご近所さんも母さんの詐欺師ばりなBLトークで腐りはててしまった。
人はこう呼ぶ、新宮 琴音は『真島のゴッドマザー』と。
「さあ、ミハイルくん♪ 召し上がれ」
母さんがソファーの前のローテーブルにアイスコーヒーと手作りのクッキーを並べてくれた。
ちな、グラスは『真剣』同士で斬りあうBL侍のイラストだ。
恐ろしいグラスよな。
「あざーす☆ いただきまーす☆」
「あらあら、ミハイルくんはお行儀がいいわね?」
え? 俺を入学式に殴った男の子がいい子とは思えませんが?
「うまい! すっごいな、タクトの母ちゃん☆」
「そうか? 古賀、口元にクッキーのくずついているぞ?」
「ん? どれ?」
すかさず、真島のゴッドマザーが動く。
「タクくん? 取ってあげなさい」(迫真)
おい、母上。背後から「ゴゴゴッ」と気味悪い音が聞こえるのだが。
「え? タクトが……?」
なぜ顔を赤らめる、ミハイル。
「はぁ、了解したよ。母さん」
ミハイルの小さな口元に手を運ぶ、アゴあたりにくっついてたので、小指が思わず、唇に触れる。
「あんっ……」
そんなエッチな声を出すんじゃない!
「ほれ、取れたぞ」
母さんはすかさずスマホを取り出し、業務連絡をする。
「タクくん、さあミハイルくんからとったクッキーを食べるのです!」(迫真)
こえーんだよ! クソがっ!
「了解だよ!」
小石サイズのクッキーを食べると『いつも』の母さんの手作りクッキーと再確認できた。
だが、それだけではない『古賀 ミハイル』の香りをほのかに感じるのは先入観のせいか?
「タ、タクト……」
思わず目を背けるミハイル。
そりゃそうだわな……。
なにが楽しくておっとこのこ同士で間接キスを促されるなんてドン引きだろうな。
たぶんミハイルも『もう二度……』我が家には近づけまい。
なんなら、すぐに帰る……というか逃げるに違いない。
「ひゃひゃひゃ! 尊い! 尊すぎるで! ダンナ!」
ヨダレ垂らしている琴音初号機。
息子とミハイルをかけ算のネタに使うな!
「古賀? 大丈夫か? 気分を悪くしてないか?」
「ううん……オレは楽しいし、クッキーもうまいし……」
俺はドン引きだし……。
「そうだわ! ミハイルくん! せっかくだから、タクくんの部屋にあがっていって♪」
「ええ!? オレがっすか!」
そんなに嫌なん? 俺の部屋は別にイカ臭くないけど……。
「いいでしょ? タクくん?」
「別に構わんが、男同士だしな」
エロ本なんて余裕だし。
「タクト! おとこ同士じゃねーよ……ダチだろ!」
固く握られる両手。
手柔らかいし、女みたいに細いし、ドキがムネムネしちゃいそう。
「……古賀」
「なんてことなの!? タクくんがおっ友達から告白されるなんて……母さん、泣いちゃう!」
本当に泣いてはるし……。
「お待たせ致しましたわ!」
例の『どうしてほしいの?』というイケボと共に、ツインテのJCが店内に入る。
「かなでちゃん! 予想外だわ!」
「どうしましたの? おっ母様!」
「タクくんが今、おっ友達のミハイルくんに告白されたのよ?」
「な、なんですって!?」
床に落ちるスーパー『ニコニコデイ』の袋が2つ。
「おっ母さま! 一大事ですわ! おっ父様にもご一報してきますわ!」
「ええ、今日はタクくんの記念日ね……おっ友達と言う名の……」
家出しよっかな~
「タクト……オレはずーっと、おまえのダチでいてやっからな☆」
「お、おう……」
なにこれ~ 俺ってこんなに可哀そうな人間だったの?
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