ヒマを持てあます令嬢の人生ゲーム

蕪 リタ

文字の大きさ
上 下
2 / 10

2 婚約者

しおりを挟む
 生まれてから雨とともに育ったほど、親しみのある降りやまぬ雨を眺めながらお茶を手にする。ここが自分の部屋なら、ベッドでゴロゴロしながら本を読むのに。応接間って、お客様をもてなす場所なのに何もないのよね。
 

「……ねえ、ミア」
「お嬢様。言いたいことは分かりますが、我慢なさいませ」
「えー。ヒマなのにぃ」
「ほら、淑女の仮面はどちらに置いてきたのですか? まもなくいらっしゃるお時間になりますよ」

 
 侍女のミアが言うように、今日これからお客様がいらっしゃるのです。あまり気は進みませんが、先日父が結んできた――いえ、王命により結ばされた婚約のお相手です。
 あまり気が進まないのも、無理もないと思います。王妃になる憧れもなければ、王子様に恋しているわけでもない私マルティナ・タリスマンにとっては、この婚約自体リウビア国を裏から牛耳る以外に何のうま味もないので。
 まあ、すでに・・・裏を束ねているタリスマン公爵家にとってそれ・・すらもいらないのですがね。

  なぜ王子なんかと婚約する羽目になったかというと、王子が勉強しないおバカ――いえ、お子ちゃまとでも申しましょうか。姫君ばかりお生まれになっていて、やっと授かった王子は国王夫妻がお年を召してからの待望の跡継ぎ。リウビア国は男児が跡継ぎの優先順位上位になるので、王家はそれはそれはがんばったそうで。おかげで姫君は七人、いや八人めもお生まれになりました。そこへ、やっと待望の男児。それがいけなかったのでしょう。のびのび育てたいと両陛下のわがま……熱望されたため、すくすくとお育ちになられています。いろんな意味で。

  また、上の姉姫様がたが何事かに秀でたよくできた方ばかりなので、それもいけなかったと言えましょうか。
 周りの口さがない大人たちの言葉は、幼かった王子に相当ダメージを与えたようで。その王子に甘々な両陛下は、彼が何もしなくとも出来る嫁をもらえば息子をこのままのびのびと育てられると思ったそうです。そこで、家柄、教養ともに申し分のないとお墨付きをいただいている私に婚約のお話が来たそうです。
 もう一度言いますが、王命で。そんなことで『王命』なんて使うなよ、が聞かされた時の私の素直な感想です。
 すでに国を裏から束ねている父も、表でのお仕事は面倒だと手を付けなかったのですが……。ヘラルドお兄様も公爵家の仕事を任せられるほど立派に育ってきていますし、王家もこの有様で国も傾きはじめてしまうなら、と重い腰を上げたというところでしょうか。二つ返事で婚約を受けました。我が家的には『王命』を蹴飛ばせるはずですのにね。
 
 そうやって結ばされた婚約のお相手、おバカ――もといフェリクス・リウビア・リベルター王子殿下がいらっしゃるのです。婚約者同士の交流という名目で。
 あら? このドタバタ聞こえてくる感じは、いらしたのでしょうか。


「おまえがマルティナか! オレさまの妃にしてやってもいいぞ‼」


 護衛の制止も聞かずにバンッ、と乱暴に扉を開け放ってそう宣言されました。偉そうにしてますが、立場以外は言葉や態度から何までおバカさしか垣間見えませんが。今のところ。
 どうしましょう? こんなおバカさんと婚約なんて、何か面白いことでも起こるのでしょうか? 私、退屈なのが嫌いなのですが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私のお母様に惚れた?私のお母様はお義母様で、お父様なのよ

京月
恋愛
ジークはレレイナのお母様に恋をしてしまった。 しかし、お母様には秘密があった。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...