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コイする乙女
①
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「“コイ”ねぇ……」
そう呟くマリナの目に映るのは、ちびっこたちが広げる魔物図鑑。
丁度開いている頁に、ドス黒い色に鮮やかすぎる紫色のラインが入った“魔鯉”が載っていた。
ちびっこたちはマリナの呟きが聞こえなかったのか、魔物を指差したりして“ああでもない”“こうでもない”とそれぞれ口にしている。
二週ほど続いた新人の外研修担当が終わったマリナのこの日の仕事は、ハンターたちが使うギルド二階の資料室の整理。
雑多に置かれた図鑑等の破損確認と順番が変わっている場所を元に戻す仕事の傍ら、ちびっこ――ハンター見習いのお勉強を手伝ったりする。
字が読めない子に字を教えたり、魔物の特徴やダンジョンの注意点を教えるのだ。
彼らがボッタクられないよう、お金の計算や買い取り相場を教えることもある。
「マリ姉これは?」
「この“キラービー”は“ハンターアント”と生息地が異なります。ダンジョン内だと同じ階層にいることは、今のところ確認されていません。同じ階層に出た場合――」
マリナは時折来るちびっこたちの質問に答えながら、地図に書き込ませたり異う図鑑に載っていると別冊を持ってこさせたりして、本の破損を確認している。
◆
謹慎があけたカロルは、鬼の副長の下で再教育中。
学院上がりにはどうって事ないが、ハンター上がりには少々厳しい内容が続いているらしい。
マリナは近くを通る度に睨まれるが、カロルからの接触がないため概ね無視している。
先程も睨み付けられながら擦れ違ったマリナ的には、関わると厄介でしかないのだ。
そんなマリナでも無視しにくいのが、“後輩”として関わってくるエメリーヌ。
新人担当が現在内受付に代わったにも関わらず、最初からマリナを“敵”認定していたエメリーヌは、わざわざマリナのところへ出向き“後輩”として業務内容を質問してくる。
資料はどこだとか、とあるパーティーの指導担当は誰だとか、絶対知っているだろうと思われることを。
“後輩”としてきているため、マリナも無下には出来ず。
厄介事に関わりたくないし、面倒でしかないので絡んでこないでほしいと願うマリナだった。
内受付の指導担当の子が、一度エメリーヌに聞いたこともあった。
何故マリナに絡むのかと。
『そんなの、決まってるじゃないですか』
そう言って、エメリーヌはいつも同じ人の名前を口にしている。
マリナも絡まれる時は大概アレが関係しているので、薄々気づいてはいたのだが。
◆
思考が他所に行っていたが、ちびっこたちの質問がダンジョン内の話になっていたのに気づき、重要なことを告げるマリナ。
それは、見習いの内に耳にタコが出来るほど聞かされるし、指導側も口酸っぱく言う。
何せ、彼らの人生が懸かっているのだ。
ふざけた態度のヤツほど、実例をまぜて理解させなければ、死に急ぐことになるから。
マリナだって、まだ十やそこらしかない歳の子たちに死んでほしくはない。
「ダンジョンで困ったことがあれば、迷わず救難信号を使いなさい。見習い期間は、自分の実力を知る期間です。無理して死ぬ期間ではありません。見習いの間は、救助にお金もかかりません。しっかりと自分の出来ること、出来ないことを把握しておきましょうね」
「「「「はーい」」」」
「“使わない”が“カッコイイ”とか、絶対ありませんからね!」
「「……はーい」」
不服そうに応えていた男の子二人。
彼らがカッコイイ大人のハンターに憧れているのを、マリナはちびっこ女子たちから聞いていた。
マリナが以前救助した竜人の兄弟にも、キラキラした目で話しかけているのを目撃されている。
「自分の実力をよく把握し、無理せず依頼を受けるのが上位ランカーです。現に、以前救助された“竜旅人”は、救助後直ぐにB級へと上がりました。もうすぐAランクの試験を受けると聞きましたよ」
「マジかよ」
「すっげー」
「自分の実力を知るためにも、迷わず救難信号を使いましょうね?」
「「はいッ!」」
一番聞かなそうな男の子の二人に、彼らの憧れのハンターの話をまぜてすると、案の定聞き分けが良くなった。
首からもげてしまうかとこちらが心配になるくらい、何度も頷いている。
そんな彼らを横目に、軽く息をついて腕時計を確認するマリナ。
時間はいつものご飯休憩の時間。
「さあ、いいお返事をもらったところで。そろそろ食事の時間です。帰宅組は気を付けて帰るように、残る組は食堂で食事をもらいなさい。本日は以上です、解散」
ギルドの食堂では、ちびっこたちに無料で食事を提供している。
まだまだ自分の力で稼ぐのが難しい見習いの特権の一つである。
ちびっこたちは片付け終えると、ワーワーきゃーきゃーしながら部屋を出た。
マリナは午後もここで仕事をするため、簡単にだけ片付けてちびっこたちの後に続く。
勿論、ご飯のために。
◇
アレが視界に入ると、エメリーヌ劇場が開催される。
その時は、ほぼマリナが共演者である。
資料について質問している時に見つけると、持っていなかったはずのコップを引っくり返して、マリナの資料まで水浸しにし。
目に涙を浮かべて「すみませんでした」と勢い良く頭を下げる。
マリナは何も怒っていない――というよりナニこの状況と思っているだけなのに、エメリーヌはさも怒られています感をアレに見せつけるのだ。
また、マリナが歩いている時に見つけると、有無を言わさず突進。
そして、マリナの目の前で転ける。
さもマリナが転かしましたというような悲鳴付きで。
それを繰り返す内に、どうやらアレは見事エメリーヌの術中にはまったらしい。
ギルド員は、皆エメリーヌの“マリナ敵認定”を知っているので、ハンターの間では割りと有名な話になっていたのだが。
まあアレはハンターというよりも、王子感丸出しである。
他の兄王子たちよりもハンターに一番向いていないので、知らなくても当然だと思う一方、出来ればこのままエメリーヌが引き取ってくれたら面倒が減ると考えて放置していたマリナであった。
そう。
エメリーヌがマリナを“敵”だと言っていたのは、彼女の想い人がマリナ目当てにハンターギルドへ通っていたからだ。
マリナにその気がなくても、エメリーヌには関係がなかった。
ホント“恋”する女に関わると、ロクデモナイな……
食後のコーヒーを口に運びながら、つくづく“恋する女”は面倒だなと、思うマリナであった。
そう呟くマリナの目に映るのは、ちびっこたちが広げる魔物図鑑。
丁度開いている頁に、ドス黒い色に鮮やかすぎる紫色のラインが入った“魔鯉”が載っていた。
ちびっこたちはマリナの呟きが聞こえなかったのか、魔物を指差したりして“ああでもない”“こうでもない”とそれぞれ口にしている。
二週ほど続いた新人の外研修担当が終わったマリナのこの日の仕事は、ハンターたちが使うギルド二階の資料室の整理。
雑多に置かれた図鑑等の破損確認と順番が変わっている場所を元に戻す仕事の傍ら、ちびっこ――ハンター見習いのお勉強を手伝ったりする。
字が読めない子に字を教えたり、魔物の特徴やダンジョンの注意点を教えるのだ。
彼らがボッタクられないよう、お金の計算や買い取り相場を教えることもある。
「マリ姉これは?」
「この“キラービー”は“ハンターアント”と生息地が異なります。ダンジョン内だと同じ階層にいることは、今のところ確認されていません。同じ階層に出た場合――」
マリナは時折来るちびっこたちの質問に答えながら、地図に書き込ませたり異う図鑑に載っていると別冊を持ってこさせたりして、本の破損を確認している。
◆
謹慎があけたカロルは、鬼の副長の下で再教育中。
学院上がりにはどうって事ないが、ハンター上がりには少々厳しい内容が続いているらしい。
マリナは近くを通る度に睨まれるが、カロルからの接触がないため概ね無視している。
先程も睨み付けられながら擦れ違ったマリナ的には、関わると厄介でしかないのだ。
そんなマリナでも無視しにくいのが、“後輩”として関わってくるエメリーヌ。
新人担当が現在内受付に代わったにも関わらず、最初からマリナを“敵”認定していたエメリーヌは、わざわざマリナのところへ出向き“後輩”として業務内容を質問してくる。
資料はどこだとか、とあるパーティーの指導担当は誰だとか、絶対知っているだろうと思われることを。
“後輩”としてきているため、マリナも無下には出来ず。
厄介事に関わりたくないし、面倒でしかないので絡んでこないでほしいと願うマリナだった。
内受付の指導担当の子が、一度エメリーヌに聞いたこともあった。
何故マリナに絡むのかと。
『そんなの、決まってるじゃないですか』
そう言って、エメリーヌはいつも同じ人の名前を口にしている。
マリナも絡まれる時は大概アレが関係しているので、薄々気づいてはいたのだが。
◆
思考が他所に行っていたが、ちびっこたちの質問がダンジョン内の話になっていたのに気づき、重要なことを告げるマリナ。
それは、見習いの内に耳にタコが出来るほど聞かされるし、指導側も口酸っぱく言う。
何せ、彼らの人生が懸かっているのだ。
ふざけた態度のヤツほど、実例をまぜて理解させなければ、死に急ぐことになるから。
マリナだって、まだ十やそこらしかない歳の子たちに死んでほしくはない。
「ダンジョンで困ったことがあれば、迷わず救難信号を使いなさい。見習い期間は、自分の実力を知る期間です。無理して死ぬ期間ではありません。見習いの間は、救助にお金もかかりません。しっかりと自分の出来ること、出来ないことを把握しておきましょうね」
「「「「はーい」」」」
「“使わない”が“カッコイイ”とか、絶対ありませんからね!」
「「……はーい」」
不服そうに応えていた男の子二人。
彼らがカッコイイ大人のハンターに憧れているのを、マリナはちびっこ女子たちから聞いていた。
マリナが以前救助した竜人の兄弟にも、キラキラした目で話しかけているのを目撃されている。
「自分の実力をよく把握し、無理せず依頼を受けるのが上位ランカーです。現に、以前救助された“竜旅人”は、救助後直ぐにB級へと上がりました。もうすぐAランクの試験を受けると聞きましたよ」
「マジかよ」
「すっげー」
「自分の実力を知るためにも、迷わず救難信号を使いましょうね?」
「「はいッ!」」
一番聞かなそうな男の子の二人に、彼らの憧れのハンターの話をまぜてすると、案の定聞き分けが良くなった。
首からもげてしまうかとこちらが心配になるくらい、何度も頷いている。
そんな彼らを横目に、軽く息をついて腕時計を確認するマリナ。
時間はいつものご飯休憩の時間。
「さあ、いいお返事をもらったところで。そろそろ食事の時間です。帰宅組は気を付けて帰るように、残る組は食堂で食事をもらいなさい。本日は以上です、解散」
ギルドの食堂では、ちびっこたちに無料で食事を提供している。
まだまだ自分の力で稼ぐのが難しい見習いの特権の一つである。
ちびっこたちは片付け終えると、ワーワーきゃーきゃーしながら部屋を出た。
マリナは午後もここで仕事をするため、簡単にだけ片付けてちびっこたちの後に続く。
勿論、ご飯のために。
◇
アレが視界に入ると、エメリーヌ劇場が開催される。
その時は、ほぼマリナが共演者である。
資料について質問している時に見つけると、持っていなかったはずのコップを引っくり返して、マリナの資料まで水浸しにし。
目に涙を浮かべて「すみませんでした」と勢い良く頭を下げる。
マリナは何も怒っていない――というよりナニこの状況と思っているだけなのに、エメリーヌはさも怒られています感をアレに見せつけるのだ。
また、マリナが歩いている時に見つけると、有無を言わさず突進。
そして、マリナの目の前で転ける。
さもマリナが転かしましたというような悲鳴付きで。
それを繰り返す内に、どうやらアレは見事エメリーヌの術中にはまったらしい。
ギルド員は、皆エメリーヌの“マリナ敵認定”を知っているので、ハンターの間では割りと有名な話になっていたのだが。
まあアレはハンターというよりも、王子感丸出しである。
他の兄王子たちよりもハンターに一番向いていないので、知らなくても当然だと思う一方、出来ればこのままエメリーヌが引き取ってくれたら面倒が減ると考えて放置していたマリナであった。
そう。
エメリーヌがマリナを“敵”だと言っていたのは、彼女の想い人がマリナ目当てにハンターギルドへ通っていたからだ。
マリナにその気がなくても、エメリーヌには関係がなかった。
ホント“恋”する女に関わると、ロクデモナイな……
食後のコーヒーを口に運びながら、つくづく“恋する女”は面倒だなと、思うマリナであった。
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