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ぬぐえない劣等感。虐待で守ろうとした自尊心。(バーサル編)
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高熱を出した私を、少女が助けてくれたらしい。
私が吐いた胃液でドレスを汚しても平然としていたという。
『この程度の洗えばおちるようなものを気にすることより、することがあるでしょう!』
そう言って、人を呼んで対応してくれたのだと、公爵家の使いの人に教えられた。
その時にクライシュ家での扱いのひどさも知られることになった。
彼女の要望で、すぐに部屋を変えることになった。
黴臭くない柔らかな布団で寝たのは、この家にきてはじめてのことだった。
薬が効いたのか、熱も一日で下がった。
起きた時には、公爵家に来るか聞かれた。
この家から出られる!!
その申し出に、一も二もなく同意した。
そして、叔父一家に挨拶に行くことになった。
「お前なぞ、兄夫婦と一緒に死ねばよかったんだ・・・」
憎悪を隠すこともせず、そんな言葉を叔父から投げつけられた。
彼は優秀な私の父親に劣等感をずっと抱いていた。
その父親にそっくりな私。
虐待の始まりはその辺にあった。
父親そっくりの私が、周りから蔑まれている様子を見ると、溜飲が下がるようだったと言う。
目ざわりなら、さっさっと殺せばいいのにと思っていたが、甚振られる方が彼の自尊心を満足させたのだろう。
「もう二度とこの家に帰ってくるな」
彼は吐き捨てるように言った。
「そういうわけにはいきませぬな」
後ろについてきた公爵家の人間が口をはさんだ。
「なんだと」
「今回、公爵様がこの家に参られた目的のひとつは、後継問題の契約遂行確認のためでした」
叔父がびくっと体を震わす。
「この家の正当な後継者はグレイソン様でいらっしゃいました。つまり、バーサル様の御父上です」
「それがどうした!兄が後継者だったとしても、死んだ後は弟の俺が相続するのが当たり前じゃないか!」
「もちろんそうなのですが、グレイソン様が前クライシュ伯爵様宛に、遺書と契約に関して書類を残しておりました。」
「書類だと」
「はい」
・息子であるバーサルに、伯爵家の後継者としての教育を受けさせる。
・成人になった時、後継者として問題ないようであれば息子に伯爵としての地位を譲渡する。
・それまでの間は、弟ジェームズによる伯爵代行を認める。
・ただし、息子と弟の間に合意があれば、爵位の譲渡を認める。
・契約の遂行に関しては公爵家が責任をもって見届ける。
亡き前クライシュ伯爵との間に取り決められた書類は教会に保管されており、ニールデン公爵様のサインと国王の印が押されていた。
「あやつに関する書類など・・・見たことないぞ」
叔父が頭をひねる中、異様なほど顔色が悪く震えている人物がいた。
私が吐いた胃液でドレスを汚しても平然としていたという。
『この程度の洗えばおちるようなものを気にすることより、することがあるでしょう!』
そう言って、人を呼んで対応してくれたのだと、公爵家の使いの人に教えられた。
その時にクライシュ家での扱いのひどさも知られることになった。
彼女の要望で、すぐに部屋を変えることになった。
黴臭くない柔らかな布団で寝たのは、この家にきてはじめてのことだった。
薬が効いたのか、熱も一日で下がった。
起きた時には、公爵家に来るか聞かれた。
この家から出られる!!
その申し出に、一も二もなく同意した。
そして、叔父一家に挨拶に行くことになった。
「お前なぞ、兄夫婦と一緒に死ねばよかったんだ・・・」
憎悪を隠すこともせず、そんな言葉を叔父から投げつけられた。
彼は優秀な私の父親に劣等感をずっと抱いていた。
その父親にそっくりな私。
虐待の始まりはその辺にあった。
父親そっくりの私が、周りから蔑まれている様子を見ると、溜飲が下がるようだったと言う。
目ざわりなら、さっさっと殺せばいいのにと思っていたが、甚振られる方が彼の自尊心を満足させたのだろう。
「もう二度とこの家に帰ってくるな」
彼は吐き捨てるように言った。
「そういうわけにはいきませぬな」
後ろについてきた公爵家の人間が口をはさんだ。
「なんだと」
「今回、公爵様がこの家に参られた目的のひとつは、後継問題の契約遂行確認のためでした」
叔父がびくっと体を震わす。
「この家の正当な後継者はグレイソン様でいらっしゃいました。つまり、バーサル様の御父上です」
「それがどうした!兄が後継者だったとしても、死んだ後は弟の俺が相続するのが当たり前じゃないか!」
「もちろんそうなのですが、グレイソン様が前クライシュ伯爵様宛に、遺書と契約に関して書類を残しておりました。」
「書類だと」
「はい」
・息子であるバーサルに、伯爵家の後継者としての教育を受けさせる。
・成人になった時、後継者として問題ないようであれば息子に伯爵としての地位を譲渡する。
・それまでの間は、弟ジェームズによる伯爵代行を認める。
・ただし、息子と弟の間に合意があれば、爵位の譲渡を認める。
・契約の遂行に関しては公爵家が責任をもって見届ける。
亡き前クライシュ伯爵との間に取り決められた書類は教会に保管されており、ニールデン公爵様のサインと国王の印が押されていた。
「あやつに関する書類など・・・見たことないぞ」
叔父が頭をひねる中、異様なほど顔色が悪く震えている人物がいた。
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