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26 もう一人の黒幕

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数週間後

私はすべての準備を終え、港町の茶店にいた。
ここで、船のチケットを受け取ることになっていた。

海鳥の鳴き声が聞こえる。

「お待たせしました」

男性に声をかけられる。

「おかけになりませんか?・・・バーサル=クライシュ様」

そこにいたのは、サフィーの側近であるバーサル令息だった。





「殿下から、こちらを預かってきています。ご確認ください」

渡されたのは、これから乗る船舶チケット。
新たな身分証。
紹介状
数個の宝石。
それから・・・これは?

「こちらは、向こうの国で使える換金具です。こちらに指を押し付けて魔力を流してください」

魔力を流すと、色が変わる。

「その中のお金はすべて使ってけっこうだそうです。魔力登録が行われたので令嬢以外に引き出すことはできませんが、お気をつけください」

うわぁ、殿下ったら太っ腹。
ありがたくいただこう。

「ダフリーヌ伯爵を頼ってください。殿下が話を通してくださっているそうです」

「感謝します」

バーサルがじっと私を見る。

「驚いていらっしゃらないようですが」

「そうね・・・むしろ、腑に落ちたという感じですよ」

一瞬、サフィーの使いかと思ったがそうじゃなかった。

なら、答えはひとつ。

「今まで、あなたが情報コントロールをしていたのですね」

「バーサルでかまいませんよ。二度と会わないと思いますが」


ずっと、引っかかっていたのだ。

一連の出来事のタイミングが、あまりに良すぎたこと。


殿下が不明確な情報で、事をおこしたこと。
サフィーが、王妃様をつれてきたこと。
セシル様がこちらに寝返ったのも・・・もしかしたら。

「否定も肯定もしないんですね」

それに対して、バーサルは肩をすくめただけだった。

「あなたがサフィー様から離れて、この国を出ることは賢明だと思います」

「殿下同様、私が目障りだからですか?」

彼は首を振った。

「サフィー様は、あの国のもう一人の女王です。あの人のためになるならば、私は何とも思いません」

バーサルの瞳からは、なんの表情も読み取れない。

「私はあの人の【モノ】であることこそが喜びです。そういう意味では殿下も似たようなものです。
・・・でも、あなたは違うでしょう?」

そっか。
サフィーの周りにいる人間は【サフィーのモノ】になりたかったのか。
”身内”とは【サフィーのモノ】なんだ。

「ええ。私は誰かのモノになりたいとは思わない。私は私のモノだわ」

「あなたのその信念に近い強さは、うらやましくもあり、疎ましくもあるのですよ」

バーサルが笑う。

「今回、あなたがここにいるのはどうして?サフィーへの裏切りにならない?」

バーサルが私をみつめ、さらにおかしそうに笑った。

「私があの人を裏切る?この命が尽きてもそれはありえません。」

こわ!
引く!

「私は、もう戻ります。これからの人生に幸多からんことを」

そう言って、一礼して去っていった。

残された私は、天を仰ぐ。


「疲れた・・・」


私は鳥の声を聞きながら、やっとすべて終わったのだと安堵のため息をもらした。









数週間後。

ある馬車が事故にあった。
崖からの転落。

王都から地方へ向かう途中だったらしい。

身に着けていた遺品から、亡くなったのはリリシーヌ=ニールデン子爵令嬢と判明した。





~~~~~~~~

次回、エピローグで最後になります。

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