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12 殿下、疑心のタネをまく。

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「彼女はね・・・裏表が激しい人間なんだ。もちろん、貴族社会では必要なことなんだが。
それにしても、純真な君に関して、あまりにひどいことを僕に言うから心配になってね」

ひどいことってなんだろう?

「”人とのつきあいが下手”で”社会不適合者な性格”だから面倒見ているのだとか、自分にすり寄ってくる”迷惑な女”だけど、かわいそうだから付き合っているのだとかね」

殿下が眉を顰める。

「でも、この前のランチの様子を見てて、君の方が彼女に騙されているのではないかと思ってね。
フィーの婚約者である以上、表立って君の味方はできないけど・・・力になりたいと思ったんだ」

無言で、私は膝の上においたハンカチを握りしめる。

「家同士のつながりがあるから、小さい時から付き合いがあってね。
ずっと彼女を見ていたから、よく知っている。
彼女は人を振り回すのが、大好きなんだ。
自分が傷ついたことがないから、人がどんなことで傷つくかなんてわからない。
そんな彼女に振り回されて駄目になっていく人たちを、何人も見てきたんだ」

私はパンケーキをもきゅもきゅと食べる。

なんか、味がしない。
お高いパンケーキなのに・・・大好きなのに。

この話、けっこうショックを受けているなぁ。

「・・・殿下は彼女のことを愛してらっしゃるのですよね?」

その質問にわずかに戸惑いを見せた。

「もちろん。家柄も教養も美しさも、彼女以上の女性はどこにもいない。
性格に多少問題があるように見えても、王族に嫁ぐ人間として彼女ほどふさわしい人はいない。
人を振り回し、なんとも思わない嗜虐性も含めて、僕は愛さずにはいられない」

だんだん熱を帯びる瞳。

はっきり言って・・・ちょっと引く。

「だから、彼女によってこれ以上傷つく人が出ないように気を配るのは、婚約者である僕の役目だと思っているんだ」

そう言って、穏やかに笑う。


「ところで、君の腕にあるのは魔道具だよね?」

話が変わった。

「あ、これですか?」
「使い方、わかるの?」
「まだ詳しくは分からないんですけど・・・連絡する相手を表示するくらいは覚えました」
「なるほど」

殿下が、私の腕を取る。

「え?」
「ここをたたいて、魔力を流してみて」
「え?ええ?」
「さあ、やってみて」

断わることもできずに、言われた通りに流してみる。
そして殿下の手が伸びてきて・・・。

カチ。

え?

「もし、彼女のことで困ったことがあったら、遠慮なく連絡してくれればいいよ。」


連絡相手の表示に殿下の名前が追加されていた・・・。




いやあぁぁぁぁ。

イラナイデス・・・。



心の中で叫んだ。


これ、デリートしたら不敬罪になるのかな?
なるんだろな・・・。
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