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6 味のしない高級ランチ。

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仕方なく、食堂へと向かう。

このまま、逃げちゃダメ?

なんか、お腹痛いような気もする・・・そう、具合が悪いのよ。
よし、帰ろう!

食堂入り口手前で、Uターンを決意。

「リリシアーヌ様、サフィアス様がお待ちです」

声をかけられた方へ顔を向けると、穏やかな笑顔を浮かべた青年がいた。

バーサル=クライシュ令息。
サフィーのお世話係。

黒髪で、控え目、礼儀正しく、執事としては最高。
彼女の幼馴染で腹心・・・そして後始末係。

決して、無礼な態度を取られることはないけど、何を考えているかわからない感じ。
なにより、この人には嫌われている気がする。

「・・・わかりました・・。」

逃走失敗。
逃げ場なし。

目立つハイスペックの上級生の後ろを歩く今の気分・・・コロシアムに連行され、猛獣と闘わせられる奴隷の気分。

周りの驚きと好奇心の視線が痛い。
一般席が遠のいていく。

・・・この先は王侯貴族専用特別席じゃないかな?

あ・・本当にお腹痛くなってきた。

「リシー、こっちよ。バーサル、もういいわ」

彼は一礼をすると、席から離れていった。

「この席でいいかしら?早く座って」
「・・・はい」

促されるままに、サフィーの隣の席に座った。

「やあ、はじめまして」

改めて立ち上がり、頭を下げる。

「リリシーヌ=カレシアと申します。殿下にご挨拶申し上げます。」

金髪碧眼。
まぶしいくらいに整った顔立ち。
穏やかで洗練された所作。

ナキッシュ=セルシア。
セルシア国の第二王子。

「堅苦しい挨拶はやめよう。今日は僕が婚約者殿に無理を言って同席させてもらうのだから」

雲の上の権力者とお昼ですか。
上級貴族のマナーなんて、知らないぞ。

「気楽にしてくれるとありがたい。学園にいる以上、僕も一生徒にすぎないのだから」

こちらの胸の内を慮ってのお言葉でしょうが・・・無理。
私はひきつった笑みを浮かべる。

「最近、フィーからあなたの名前が良く出るのでね。一度、直接会ってみたいと思ったんだ」
「リシー、早く座って。ランチにしましょうよ」

サフィーが上機嫌に促す。
王子が少し離れたところにいる学生に、目で指示を出す。

「さあ、いただこう」

どう考えても、一生徒同士の交流とはかけ離れた食事会が始まった。

これ、特別メニューなのかな?
食堂で見たことがない料理ばかり。

味なんて、気を張って全然わからない。
もったいない。

マナーのお手本のような優雅さで、のびのびと美味しそうに食べている二人がうらめやましい・・・。

会話はサフィー主導で進み、それに相槌を打ちながら、私は喉の奥へと食べ物を流し込んでいく。
そんな彼女を、ナキッシュ王子は愛しそうに微笑みながら見守っている。

一人の学生が足早に近づき、何かを耳打ちしてきた。

「食事の途中で済まないが、急用がはいった。後は二人で楽しむがいい。リリシーヌ嬢、また改めて場を設けよう」

足早に食堂を出ていった。


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