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3 波乱の幕開け。

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サフィアス=ニールデン公爵令嬢・・・サフィーとの出会いは、学園でのささいな出来事がきっかけだった。

ある日の刺繍授業。

その日は担当の先生が少し遅れるということで、各自で課題を進めておくことになっていた。

席に着き、準備をしようと道具箱の蓋を手に取った。
ひょこっと顔を覗かせる小さな黒い生き物。

「キャっ!」

すぐ横にいた令嬢が小さな叫び声をあげる。

小さなトカゲ。

しっかりと蓋がしまっていた道具箱の中に、間違って入ってくるような代物じゃない。

少し離れたところにいる数人のご令嬢たちが、ニヤニヤとしながらこちらを見えていた。

私が席を離れている隙を狙って、道具箱に放り込んだのだろう。

(イジメというのはどの世界でも変わらないわね)

嫌がらせのために誰かに捕まえさせたのか、購入したのか。

こんなことに使うお金も精力ももったいない。
そのパワー、勉強や自分磨きに使えばいいのに。

今しかできないことを今やっておかないと後で後悔するのよ。

私みたいに、生まれ変わって後悔するとか
ないと思うけど。

理不尽。

トカゲ、弱っているのかな。
逃げる様子はない。

両手で、そっと覆うように捕まえる。

「リ、リリシーヌ様、平気なのですか?」

近くにいた令嬢が、顔色を変えながら聞いてくる。

心配してくれてありがとう。
普通のご令嬢は見るのも触るのも嫌だよね。

蛇とか、カエルとかも普通に触れるから大丈夫。

内緒だけど。

相手を安心させるように、できるだけ優雅に微笑む。

「ええ。申し訳ありませんが・・・先生がいらしたら気分が悪くなったので、少し席を外したと伝えていただけませんか?」

「え・・ええ」

令嬢はこくこくと頷く。

急いで外に返してあげないと、こんなことに巻き込まれて命を落とされても後味が悪い。

小さくため息をつくと教室を抜け出す。

目の端に、先ほどのご令嬢たちがこちらを睨んでいたような気がする。
思い通りの結果じゃないことが面白くなかったのだろう。
知ったことじゃない。

校舎を抜け、裏の庭園に向かう。
端の方にしゃがみ込み、トカゲを放す。

「お前も災難だったね。こんなことに巻き込まれて」

「何に巻き込まれたのかしら?」

すぐ、後ろから声がした。
驚いて、振り返ると令嬢が微笑んでいた。

「変わった方ね。普通、トカゲなんて見るのも・・・ましてや触ることなど、忌避なさるものなのに」
「毒も牙もない生き物を怖がっても、意味がないと思いますから。」

虫や爬虫類もよく見るとかわいいのに。
腹に一物ある人間より全然怖くないと思うのだけど。

彼女も深く頷く。

「ええ、確かに害のない生き物を意味なく恐れるなどバカげてます。
ただ、そのようなことをおっしゃる貴族の令嬢は珍しいわね」

彼女はくすりと笑った。

「あなた、変わってますわね」

「私に同意するあなたも、変わり者でしょうか?」

嫌味で返してしまった。

私の言葉に気を悪くした素振りも見せず、さらにクスクスと笑う彼女。

「面白い方ね。ねぇ、あなた私のお茶会にいらっしゃいな」
「お茶会・・?」

「私はサフィアス=ニールデン。親しい人はサフィーと呼ぶわ。
あなたともっとゆっくりお話しがしてみたいわ」

この時が最初の分岐点だったのかもしれない。
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