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第8話 二人で変身。
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「つまりは、この教室に敵を『全部』おびき寄せるって事だな」
カオルはそう締めくくった。彼女の提案はこうだ。まずこの教室の、二箇所ある出入り口の引き戸を全開にし、一箇所をボクとカオルペア。もう一箇所を弥太郎君とヨッシーのペアが守る、と言うものだった。
弥太郎君とヨッシーは金属バット。カオルは弓矢。ボクは武器がない。本来はボクが金属バットを使う予定だったからだ。急遽弥太郎君が戦闘に加わる事になり、良い意味で予定が狂った。
と言うわけで、ヨッシーが家庭科室に走り、消化器を持ってきてくれた。よし、これで準備はオッケーだ。
「よし、そろそろ六時だ。みんな、鳴らせ!」
カオルの号令で、みんながスマホで音楽を鳴らす。様々な音楽が大音量で流れる。もう完全に騒音であった。
ボクは教室後方の出入り口付近で消化器のホースを構え、ゴクリと唾を飲んだ。少し離れた場所、窓の近くにカオルが立ち、侵入者を狙撃しようと待ち構える。
「来た!」
ボクは敵の襲撃を確認し、叫んだ。まずやって来たのは、カマキリ奇蟲人だった。ボクの待機している方ではなく、教室前方の出入り口。ヨッシーと弥太郎君が守っている方だ。巨大なカマをふりかざし、長い髪を振り乱しつつ意味不明な言葉を連呼する。
「彼氏、美味しい彼氏、おかわり!」
教室は騒然となる。
「きゃあああーっ!」
「なんだこいつ!ヤベェ!」
「うわぁーっ!」
窓側に避難していたクラスメイトたちが、恐怖におののく。
ヨッシーと弥太郎君が、金属バットを振るうのが見えた。だけど、その光景に注意を払い続ける事は出来ない。何故なら、ボクの眼前にはもう一匹の奇蟲人「蜘蛛奇蟲人」が飛び込んで来ていたからだ。
ボクは恐怖をこらえながら、蜘蛛奇蟲人に消火器の泡を浴びせた。
「正解は! 越後製菓!」
蜘蛛奇蟲人は視界を奪われながらもカオルに向かって直進していく。ボクは焦った。だけど、カオルは冷静そのものだった。まるで何事も無いように矢を放つ。それは泡まみれの蜘蛛の顔に、正確に命中した。
「やった! さすがカオル!」
ボクはカオルを振り向いてはしゃいだ。
「馬鹿! ツバサ前見ろ!」
カオルが珍しく焦りの表情を見せ、弓を引き絞る。
「えっ?」
ボクが振り返ると、最後の一匹であるゴキブリ奇蟲人が、ボクの眼前まで迫っていた。もう三階から降りてきていたんだ。
「うわぁぁー!」
ボクは死を覚悟した。
「やらせねぇ!」
弥太郎君の声。ゴキブリ奇蟲人の口は、ボクをかばうように飛び出してきた弥太郎君の腕に噛み付いた。鮮血が飛ぶ。
「弥太郎君!」
ボクは悲鳴をあげた。弥太郎君が、食べられちゃう!
バキバキ、ボキボキ、メシャリ。弥太郎君の腕が食べられていく。弥太郎君は苦痛に呻きながらも、金属バットで奇蟲人の頭を殴りつける。
「うおおおっ!」
そこへヨッシーが駆けつけ、奇蟲人の頭をバットで叩き落とした。奇蟲人の体はまだカサカサ動いていたが、じきに止まるだろう。
「大丈夫、弥太郎君!」
ヨッシーが心配そうに弥太郎君の肩を抱く。
「腕が......!」
ヨッシーが顔面蒼白になる。後ろ姿でもわかる。弥太郎君の左腕は、肘から下がなくなっていた。奇蟲人に、食べられてしまったのだ。
「これくらい、どうって事ねぇさ。ツバサが無事ならそれでいいんだ」
ボクはその言葉を聞いて、またボロボロと涙がこぼれた。
「ありがとう、弥太郎君。ごめん、ボクのせいで」
「気にすんな。ほら、宝珠出たぞ。三匹分で三つもある。俺とお前で変身して、一個余った分はおまえが持て。コンティニュー用だ」
弥太郎君はそう言って笑った。ボクはゴシゴシと手で涙を拭い、「うん」と言って笑った。
二人で宝珠を獲得した。宝珠には、手に入れた時に生命力を回復させる効果がある。
弥太郎君の失われた腕も生えてきた。宝珠すごい。ハンパない。
ボクは魔法系格闘美女「ホーリー・ライトニング」に変身し、弥太郎君はスチームパンク侍「夜叉丸」に変身した。
ボクのホーリー・ライトニングの説明はいらないと思うけど、弥太郎君の変身した夜叉丸の外見はかなり個性的だ。
服装は男性の和装なのだが、その上から蒸気機関式の機械で出来た鎧や手甲を身につけている。顔はガスマスクに覆われていて、表情は見えない。
「おおおい! ツバサ、お前、やっぱ女なんじゃねぇか!」
「違うよ! これはゲームのキャラクターで」
「だって、顔ほとんど同じじゃねーか。大人になったツバサって感じだぜ」
「え?」
言われてボクは脳内アプリで自分のアバターを確認した。あ、本当だ。ボクの面影がある。気づかなかった。
「ホントだ」
「だろ? そして俺は気付いた。多分お前はその姿で俺と結婚して、子供を作るんだ」
「ちょっ、やめてよもー! その話はもういいでしょ!」
子供を作るとか......。想像しちゃうじゃないか。ボクは心臓がドクドクいった。
「ごめん。でも、俺にとっては大事な事なんだ」
ちょっぴり寂しそうな声を出す弥太郎君。ちなみにクラスメイトたちはボクらの姿を見てキャーキャーと色めきたっていた。
「おおお! ツバサおっぱい超でっけぇ!」
「弥太郎、なんか変身ヒーローみたいでかっけぇ!」
「素敵なおねぇ様だわ......」
「あのマスクの下はどうなってるのかしら
などなど。
ボクと弥太郎君はみんなの黄色い声を浴びながら、奇蟲人三匹にとどめを刺した。死体が蒸発していく。
後はボスの出現を待つだけだ。ふと、弥太郎の視線を感じてボクは彼を見た。
「何? どうかした?」
「ん? いや......やっぱ可愛いなと思って」
「何言ってんのもう! は、恥ずかしいなぁ」
ボクは自分の顔が赤くなって行くのがわかった。ボクが可愛い? 確かにかなり可愛い。うん。それは認める。女子には良く言われるし。だけど男子には滅多に言われないから耐性が無い。それにボクを好きだとまで言ってくれた弥太郎君。本当に......?ボク、男なのにいいのかなぁ。
弥太郎君を見つめ返しながら、そんな事を考える。その時、頭の中に警報が流れた。
「警告、警告。このエリアのボスが出現。ただちに排除してください」
画面いっぱいに現れるメッセージ。
「ツバサ、ボスってのはどこにいるんだ?」
「屋上だよ! 行こう! 弥太郎君!」
「おう!」
ボクは弥太郎君に「待って」と声をかけ、カオルとヨッシーを振り返る。カオルは口を尖らせ、ヨッシーは微笑んでいた。
「ツバサこんにゃろー。オレらをのけものにして、二人の世界にひたってんじゃねーぞ」
「いいじゃないかカオルちゃん。だって二人は結婚するんだから」
「もー、やめてよヨッシーまで! カオル、ヨッシー。二人も一緒に屋上に来て。どうせダメって言っても付いてくるんでしょ?」
「あったりめぇだろ! ここで逃げてちゃ女がすたるってもんよ」
「いやいや、カオルちゃんは女の子なんだから、いいんだよ逃げても」
「はぁ? うっせぇ。守られんのは性に合わねんだよ」
なんか前回も見たようなやりとりだ。ボクは思わず笑った。二人は本当に仲がいい。ボクの大切な幼なじみたち。今度は絶対、死なせはしない。
カオルはそう締めくくった。彼女の提案はこうだ。まずこの教室の、二箇所ある出入り口の引き戸を全開にし、一箇所をボクとカオルペア。もう一箇所を弥太郎君とヨッシーのペアが守る、と言うものだった。
弥太郎君とヨッシーは金属バット。カオルは弓矢。ボクは武器がない。本来はボクが金属バットを使う予定だったからだ。急遽弥太郎君が戦闘に加わる事になり、良い意味で予定が狂った。
と言うわけで、ヨッシーが家庭科室に走り、消化器を持ってきてくれた。よし、これで準備はオッケーだ。
「よし、そろそろ六時だ。みんな、鳴らせ!」
カオルの号令で、みんながスマホで音楽を鳴らす。様々な音楽が大音量で流れる。もう完全に騒音であった。
ボクは教室後方の出入り口付近で消化器のホースを構え、ゴクリと唾を飲んだ。少し離れた場所、窓の近くにカオルが立ち、侵入者を狙撃しようと待ち構える。
「来た!」
ボクは敵の襲撃を確認し、叫んだ。まずやって来たのは、カマキリ奇蟲人だった。ボクの待機している方ではなく、教室前方の出入り口。ヨッシーと弥太郎君が守っている方だ。巨大なカマをふりかざし、長い髪を振り乱しつつ意味不明な言葉を連呼する。
「彼氏、美味しい彼氏、おかわり!」
教室は騒然となる。
「きゃあああーっ!」
「なんだこいつ!ヤベェ!」
「うわぁーっ!」
窓側に避難していたクラスメイトたちが、恐怖におののく。
ヨッシーと弥太郎君が、金属バットを振るうのが見えた。だけど、その光景に注意を払い続ける事は出来ない。何故なら、ボクの眼前にはもう一匹の奇蟲人「蜘蛛奇蟲人」が飛び込んで来ていたからだ。
ボクは恐怖をこらえながら、蜘蛛奇蟲人に消火器の泡を浴びせた。
「正解は! 越後製菓!」
蜘蛛奇蟲人は視界を奪われながらもカオルに向かって直進していく。ボクは焦った。だけど、カオルは冷静そのものだった。まるで何事も無いように矢を放つ。それは泡まみれの蜘蛛の顔に、正確に命中した。
「やった! さすがカオル!」
ボクはカオルを振り向いてはしゃいだ。
「馬鹿! ツバサ前見ろ!」
カオルが珍しく焦りの表情を見せ、弓を引き絞る。
「えっ?」
ボクが振り返ると、最後の一匹であるゴキブリ奇蟲人が、ボクの眼前まで迫っていた。もう三階から降りてきていたんだ。
「うわぁぁー!」
ボクは死を覚悟した。
「やらせねぇ!」
弥太郎君の声。ゴキブリ奇蟲人の口は、ボクをかばうように飛び出してきた弥太郎君の腕に噛み付いた。鮮血が飛ぶ。
「弥太郎君!」
ボクは悲鳴をあげた。弥太郎君が、食べられちゃう!
バキバキ、ボキボキ、メシャリ。弥太郎君の腕が食べられていく。弥太郎君は苦痛に呻きながらも、金属バットで奇蟲人の頭を殴りつける。
「うおおおっ!」
そこへヨッシーが駆けつけ、奇蟲人の頭をバットで叩き落とした。奇蟲人の体はまだカサカサ動いていたが、じきに止まるだろう。
「大丈夫、弥太郎君!」
ヨッシーが心配そうに弥太郎君の肩を抱く。
「腕が......!」
ヨッシーが顔面蒼白になる。後ろ姿でもわかる。弥太郎君の左腕は、肘から下がなくなっていた。奇蟲人に、食べられてしまったのだ。
「これくらい、どうって事ねぇさ。ツバサが無事ならそれでいいんだ」
ボクはその言葉を聞いて、またボロボロと涙がこぼれた。
「ありがとう、弥太郎君。ごめん、ボクのせいで」
「気にすんな。ほら、宝珠出たぞ。三匹分で三つもある。俺とお前で変身して、一個余った分はおまえが持て。コンティニュー用だ」
弥太郎君はそう言って笑った。ボクはゴシゴシと手で涙を拭い、「うん」と言って笑った。
二人で宝珠を獲得した。宝珠には、手に入れた時に生命力を回復させる効果がある。
弥太郎君の失われた腕も生えてきた。宝珠すごい。ハンパない。
ボクは魔法系格闘美女「ホーリー・ライトニング」に変身し、弥太郎君はスチームパンク侍「夜叉丸」に変身した。
ボクのホーリー・ライトニングの説明はいらないと思うけど、弥太郎君の変身した夜叉丸の外見はかなり個性的だ。
服装は男性の和装なのだが、その上から蒸気機関式の機械で出来た鎧や手甲を身につけている。顔はガスマスクに覆われていて、表情は見えない。
「おおおい! ツバサ、お前、やっぱ女なんじゃねぇか!」
「違うよ! これはゲームのキャラクターで」
「だって、顔ほとんど同じじゃねーか。大人になったツバサって感じだぜ」
「え?」
言われてボクは脳内アプリで自分のアバターを確認した。あ、本当だ。ボクの面影がある。気づかなかった。
「ホントだ」
「だろ? そして俺は気付いた。多分お前はその姿で俺と結婚して、子供を作るんだ」
「ちょっ、やめてよもー! その話はもういいでしょ!」
子供を作るとか......。想像しちゃうじゃないか。ボクは心臓がドクドクいった。
「ごめん。でも、俺にとっては大事な事なんだ」
ちょっぴり寂しそうな声を出す弥太郎君。ちなみにクラスメイトたちはボクらの姿を見てキャーキャーと色めきたっていた。
「おおお! ツバサおっぱい超でっけぇ!」
「弥太郎、なんか変身ヒーローみたいでかっけぇ!」
「素敵なおねぇ様だわ......」
「あのマスクの下はどうなってるのかしら
などなど。
ボクと弥太郎君はみんなの黄色い声を浴びながら、奇蟲人三匹にとどめを刺した。死体が蒸発していく。
後はボスの出現を待つだけだ。ふと、弥太郎の視線を感じてボクは彼を見た。
「何? どうかした?」
「ん? いや......やっぱ可愛いなと思って」
「何言ってんのもう! は、恥ずかしいなぁ」
ボクは自分の顔が赤くなって行くのがわかった。ボクが可愛い? 確かにかなり可愛い。うん。それは認める。女子には良く言われるし。だけど男子には滅多に言われないから耐性が無い。それにボクを好きだとまで言ってくれた弥太郎君。本当に......?ボク、男なのにいいのかなぁ。
弥太郎君を見つめ返しながら、そんな事を考える。その時、頭の中に警報が流れた。
「警告、警告。このエリアのボスが出現。ただちに排除してください」
画面いっぱいに現れるメッセージ。
「ツバサ、ボスってのはどこにいるんだ?」
「屋上だよ! 行こう! 弥太郎君!」
「おう!」
ボクは弥太郎君に「待って」と声をかけ、カオルとヨッシーを振り返る。カオルは口を尖らせ、ヨッシーは微笑んでいた。
「ツバサこんにゃろー。オレらをのけものにして、二人の世界にひたってんじゃねーぞ」
「いいじゃないかカオルちゃん。だって二人は結婚するんだから」
「もー、やめてよヨッシーまで! カオル、ヨッシー。二人も一緒に屋上に来て。どうせダメって言っても付いてくるんでしょ?」
「あったりめぇだろ! ここで逃げてちゃ女がすたるってもんよ」
「いやいや、カオルちゃんは女の子なんだから、いいんだよ逃げても」
「はぁ? うっせぇ。守られんのは性に合わねんだよ」
なんか前回も見たようなやりとりだ。ボクは思わず笑った。二人は本当に仲がいい。ボクの大切な幼なじみたち。今度は絶対、死なせはしない。
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