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第6話 弥太郎君の真実。

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 気がつくと、ボクはロッカーの中にいた。穴を除くと、弥太郎君が不良仲間と談笑しているのが見える。

 戻った。まだ「宴」が始まる前だ。だけど、コンティニュー前と違うところがある。それはスマホのアプリ「蟲の宴」が、既に脳内にあるという事。

 マップを確認する。うん、奇蟲人は出現していない。みんなまだ無事だ。

「宴」が開始したのは、確か六時頃だ。今は五時。あと一時間ある。よし、早速行動開始だ。今度こそ、ボスに勝って、みんで脱出するんだ。

 そう、みんなで、だ。

 カオルとヨッシーはもちろん、それ以外の生徒、先生も全員助ける。そうすればボスは弱体化するはずだ。何故なら、奴は被害者の魂を力に変えるからだ。

 どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。

 ボクは美術部にいるカオルとヨッシーに、グループラインでメッセージを送った。

 ツバサ●もう部室にいるよね。ボク、まだ教室なんだ。

 カオル●なんだよ、早く来いよ。ヨッシーももう来てるぜ。

 この後、前回は部活に遅れる事だけを伝えた。ロッカーに閉じ込められている事は伝えなかったのだ。伝えていたら、カオルとヨッシーはきっと助けに来てくれた筈だ。

 あえてそうしなかったのは、単に揉め事が起こるのが嫌だったからだ。だけど今は状況が違う。もうそんな悠長な事は言ってられない。これから「宴」が始まるという事を、ボクは知っている。

 ボクは不良なクラスメイトによって、ロッカーに閉じ込められている事を伝え、カオルは弓道部室で弓矢を、ヨッシーには野球部室から金属バットを二本、それぞれ持ってきてもらう事にした。

 そして詳しい話はせず、ただ「化け物がやってくる」とだけ伝えた。カオルは面白がり、ヨッシーは怯えた。

 おそらく本当に化け物がくるとは思ってないだろう。だが、なんらかの脅威がやってくるという心構えは出来た筈だ。

 十五分程で、二人はやってきた。

「おい、そこのロッカーにオレの幼なじみがいるはずだ。開けろ!」

 カオルは教室に入ってくるなり、そう叫んだ。後ろにはきっとヨッシーもいるはずだ。

 カオルとヨッシーは、一年の間じゃ「ちょっとした有名人」だった。

 カオルは学年トップの成績だし、ヨッシーは様々な運動部からスカウトされているのだ。むしろ知らない人の方が珍しいくらいだ。

「てめーら、三組に何の用だ、ああん!? ロッカーにツバサなんかいねぇよ!」

 弥太郎君が大声で凄む。

「ははっ、ヨッシーこいつアホだな。自分で教えてくれちゃったぜ?」

「んだとコラ! 俺が何教えたっつーんだ!」

 カオルはフンと鼻で笑う。

「オレはな、幼なじみがロッカーにいるはずだと言ったんだ。一言もツバサがいるなんて言ってねぇぞ。なのにオメーはツバサの名前を出した。ロッカーの中にいるんだろ?さっさと開けろよ」

 カオルがつかつかと弥太郎君に詰め寄る。あえて弥太郎君に開けさせる事で、彼のプライドを砕きたいのだろう。

「ははは! バーカめ! ツバサが教えてくれたんだよ! おまえとそこの、ヨッシーとかいう脳筋野郎が自分の幼なじみだってな!」

 そういえば、言ったことあるかも。弥太郎君は暇さえあればボクに絡んできて、根掘り葉掘り聞いてくるんだ。ボクは不良という存在自体が怖くて、とにかく怯えていたし、質問には正直に答えていた。逆らえば殴られると思っていたからだ。

「あっそ。 もうめんどくせぇからいいや。あのな、ツバサからラインが来たんだよ。おまえにロッカー閉じ込められてるってな! 箱根弥太郎!わかったらさっさとロッカー開けやがれ!」

 カオルの剣幕に、教室に残って談笑していた生徒たちが静まり返る。

「おい弥太郎、何言われっぱなしになってんだよ。こんな女、一発殴ってやりゃ、大人しくなんだろ」

「そうだぜ。お前らしくねぇぞ」

 弥太郎君の不良仲間の二人が、彼を焚きつける。「殴る」と聞いて「金属バット二本持ち」のヨッシーの眉がピクリと動く。

 おーい、お二人さん。カオルに手ェ出したら、ヨッシーに殺されますよー。バットで殴殺されちゃうよ。

 なんか、出るに出れない状況になっちゃったな。

「俺は女を殴る趣味はねぇよ。いいか、カオルちゃん。俺は絶対にツバサをこのロッカーから出す事は出来ねぇ。六時を過ぎるまで、絶対にだ!」

 え!? 六時を過ぎるまで?  どゆこと? なんで六時まで? もしかして、弥太郎君、君は......。

「なんだと? おーいツバサ、いるんだろ? 出てこいよ」

 カオルが呼びかける。どうしよう。ボクは気付いてしまった。弥太郎君が、なぜボクをここへ閉じ込めたのか。ボクが前回、教室でたった一人生き残れたのは、偶然なんかじゃなかったんだ。

「出てくるなツバサ! 俺は、お前に死んで欲しくない! 俺や他の奴はどうなってもいい! お前にだけは、生きてて欲しいんだ!」

 弥太郎君は、必死にそう叫んだ。誰もが目を丸くした。一体何を言いだすんだこいつは。そう言いたげな目だった。

 前回の「宴」。奇蟲人たちが現れ、ボクがロッカーの中で怯えながら外の様子を見ていた時。

 弥太郎君は、奇蟲人に向かって行った。ロッカーから、遠ざけようとしていた。

 彼は、ボクを守ってくれたんだ。何らかの方法で、事前に「宴」が始まる事を知っていた。ボクが家に帰らずに、美術部の部室に行く事を知っていた。化け物の事を言っても信じる訳がない。だから、閉じ込めた。

 奇蟲人に食べられてしまった弥太郎君のメガネを見つけた時。ボクはザマァみろ、と思ってしまった。

 ボクをロッカーに閉じ込めた、罰なんだと。

 彼は本当は、命の恩人だというのに。

 最低だ。ボクは最低の人間だ。だけど......。チャンスは巡ってきた。全てをやり直す、チャンスが。

 ボクはゆっくりとロッカーを開けた。弥太郎君が焦りの表情を見せる。

「ほら見ろ、いるじゃ......」

「バカ! なんで出てきた! 戻れ! 」

 カオルは面白がって弥太郎君をからかおうとしたが、弥太郎君は必死だった。真剣そのものだった。

「弥太郎君、ボクも、これから何が起こるか知ってるよ。前回は、知らなかった。君がボクを助けてくれたって、全然気づかなかったんだ。ごめんなさい、ごめんなさい」

 弥太郎君の顔を見ていたら、涙が溢れて止まらなくなってしまった。

 弥太郎君は戸惑っていたけど、ボクの言葉に何かを察したようだった。ボクが言葉を続けるのを、黙って見守ってくれた。

 少し泣いて、ボクは心を落ち着けた。いつまでも泣いていられない。

「弥太郎君。カオル、ヨッシー。それから教室にいるみんな。これからボクが話す事は、全て真実だ。笑わないで聞いて欲しい」

 ボクは自分の身に起こった全てを、みんなに話し始めた。全員で生き残る為に。
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