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第3話 ヨッシー走る。

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 マップを確認すると、三階にいる生存者はあと一名。その人が食べ尽くされてしまったら、三階の奇蟲人はボクらを狙ってくるだろう。その前に職員室に辿り付き、宝玉を手に入れなくてはならない。

 ボクらは一切の会話もなく、ひたすら警戒しながら階段を降りた。美術室付近にも階段はある。ここを降りれば職員室はすぐだ。玄関の目の前でもある。

 はぁ、はぁ。めちゃくちゃ怖い。こんなにゆっくり階段を降りるのは初めての経験だ。ゲームではいつもやってるけど。

 三階から聞こえる、ガサガサと言う音。皆さんは、ガサガサ音を立てる虫って、何を思い浮かべるだろうか。

 やっぱね。うん、ボクもそれ。ゴキブリ!

 まぁ実際にはゴキブリは目にも止まらぬ早業で駆け抜ける為、ガサガサ聞こえる訳ではないのだけれど。

 まぁ、あれだけ大きな奇蟲人たちの事だ。本当にガサガサ音が出てしまってもおかしくはないだろう。

 そんな事を考えながら、一階へと無事に到着したボクたち。カマキリ奇蟲人は、まだ職員室にいる。先生たちは大人で体も大きいから、食べ終わるのに時間がかかっているのかもしれない。生存者はあと二名。助けられるだろうか......。

 もしかしたら誤解を受けているかも知れないけど、ボクだって、そんなに冷酷な訳じゃあないです。人並みの情はあるよ。出来れば幼なじみ以外も助けたい。だけど、多分みんなそうだと思うけど、非常事態では近親者の安全を確保するのに精一杯なはずだ。

「ぎゃああっ! 離せ! はなせぇっ!」

「伊藤先生! 畜生! 離せテメー!」

 伊藤先生と、山口先生の声だ。二人の台詞から判断すると、伊藤先生が捕食されそうなところを、山口先生が助けようとしている、的な状況だろう。

 ボクはスマホを取り出し、二人とラインでの会話を再開した。

 ツバサ●作戦はこうだ。奇蟲人が先生を食べるのに夢中になっている隙に、ヨッシーが奴を始末する。完璧!

 ヨッシー●いやいや、無理だよ。さっきは必死だったし、机があったから良かったけど。職員室にある机は大きすぎて武器には出来ないし、アイツらの頭は人間のように頭蓋骨もある感じだった。素手でそれを潰すのはさすがに無理だと思う。気持ち悪いし。

 カオル●なら、奥に家庭科室があるだろ。そこに消火器があるはずだ。火を使う場所だからな。それなら武器になるんじゃないか。殴るのに使えるし、目潰しにもなるかも。

 ツバサ●さすがカオル! 全然思いつかなかった。そうしようヨッシー。

 ヨッシー●そうだね。じゃあちょっと行ってくる。走っても大丈夫かな。

 ツバサ●今は先生に夢中だし、最悪ボクがおとりになる。だから走って行ってきて。時間もなさそうだ。

 ヨッシー●わかった。無理はしないでね。

 ヨッシーはスマホをポケットにしまい、小さくガッツポーズをとってから走って行った。

 カマキリ奇蟲人は、予想通り動かない。捕食中なのだろう。職員室からは悲鳴が聞こえる。助けてあげたいけど、まだ無理だ。大人しくヨッシーを待とう。

 だがその時。二階からガサガサという耳障りな音と共に、声が聞こえた。

「ペンパイナッポーアッポーペーン」

 意味はわからないけど、地の底から響くような不気味な声だった。まずい、奴だ。三階の奇蟲人が降りて来たんだ。

 ボクとカオルは顔を見合わせ、それから階段を見つめた。ボクらは現在動きを止めているから、獲物として認識はされないはずだ。

 狙われるのはヨッシーだ。彼が襲われるのはまずい。現時点での最高戦力が失われたら、ボクらに希望はない。

 ボクがどうしようか考えあぐねていると、カオルがスマホを操作し、それから玄関に向かって投げつけた。一瞬壊れやしないかと心配したが、大丈夫だった。カオルは金持ちだから、多分衝撃に強いスマホを購入していたんだろう。

 玄関に落ちたスマホからは、大音量で音楽が流れた。次の瞬間。二階から黒い影が、玄関に向けて「どひゅんっ」と飛んだ。

 うわー!やっぱりゴキブリだ!キモイ!

 ゴキブリ奇蟲人は、スマホと戯れ始めた。カオル、さすがだ! ボク、役に立ってない!

 いや、奴らが音に敏感だという情報は、ボク発信だ。頭を潰さなきゃならないっていう情報も、ボクからだ。充分役に立ってる。間違いない。自信を持て、ツバサ!

 あっ、ヨッシーが走って帰ってきた。手には消化器を持っている。武器ゲット!

 ゴキブリ奇蟲人は気づかない。ヨッシーの足音は、音楽に掻き消されているようだ。

 うん。あいつはとりあえずほっといても大丈夫かもしれない。

 ヨッシーが戻ってくると、ボクらは顔を見合わせて頷いた。作戦開始だ。多分二人の頭でも、同じ計画が構築されてると思う。以心伝心って奴だ。

 早速実行に移そう。ヨッシーが職員室の引き戸を開ける。伊藤先生が捕食されている光景が目に入った。バリバリと頭をかじられ、あっという間に首まで無くなった。ヨッシーは口元に手をやった。吐き気を堪えているのだろう。

 山口先生は腰を抜かして、近くにへたり込んでいる。二十才くらいの若い先生だ。確か一組の担任の先生で、生徒から絶大な人気がある。特に女子。カオルは一組だから、面識があるはずだ。ちなみにヨッシーは二組です。

 カマキリ奇蟲人は、捕食に集中している。今がチャンスだ。あっ、ヨッシー吐いた。

「ったく、だらしねぇな。キンタマついてんだろ? 男ならシャキッとしろ」

 カオルはそう言って、ヨッシーのほっぺにキスをした。えっ!? 二人ってそう言う関係なの!? 

 べ、別にいいけどさ! ちょっとびっくりしただけ、うん!

 ヨッシーは耳まで真っ赤になり「うおおお!」と雄叫びをあげた。声でかい! さすがに気付かれるから自重して!気持ちはわかるけれども!

 カマキリ奇蟲人は、特にこちらを気にしている様子はない。すんごい集中力!

 伊藤先生はお腹あたりまで食べられ、腸がはみ出していた。うわ、グロい。

 あ、すいません、つい本音が。もう可哀想とか悲しいとか死を悼むとかより、グロい衝撃が強くて。

 みんなこの場に立ってみれば、分かると思うよ、うん。

 と、そんな事を考えているうちに、ヨッシーは消火器を振りかぶり、ガツーンと一発、奇蟲人の頭にぶちかました。

 おおお!す、すごい!奇蟲人の頭、吹っ飛んだ!なんて馬鹿力なんだヨッシー!

 奇蟲人の頭は、山口先生のすぐそばに落ち、白目を向いている。

「もち、もち......もっちもち」

 うわ、まだ喋ってるよ。山口先生は「ひぃぃっ」と小さく悲鳴をあげている。

 ん?なんかまぶしい。光のさす方を見る。

 カマキリ奇蟲人の、頭が付いていた部分。そこに宝玉があった。やった!出たぞ!きっとボクがアプリを持っているからだ!仮説は正しかったんだ!

「これが宝玉だよ!」

 ボクは嬉しくて叫んだ。だけどみんなキョトンとしている。

 カオルはヨッシーの頭を、つま先立ちでヨシヨシと撫でているところだった。

「ん? なんの事だ、ツバサ。オレには何にも見えねーぜ。何か見えるか、ヨッシー」

「いや、見えないよ。カオルちゃん。もしかして、ツバサ君にしか、見えないんじゃないかな」

 なるほど。そうかも知れない。

「そっか。きっとボクがアプリを持っているからだ。なんにせよ、これで変身出来るよ」

 ボクは宝玉を手に取った。力が、みなぎっていく。

 変身は、次回!お楽しみに!
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