ご存知!エルフ三人娘

デバスズメ

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盗まれたワインを取り戻せ

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「随分山奥まで来たけど、本当にこの道で合ってるんだろうな?」
馬車1台がどうにか通れなくもないほどの山道を、えっちらおっちら登り進む3人組。先頭を歩くのは、胸にサラシを巻いて竹の軽鎧に身を包む、ギザギザ歯で長身のバンブーエルフ、メンマだ。

「だいじょぶだいじょぶ!この道しかないもん」
メンマの後ろに続くのは、ボサボサの金髪に簡素な貫頭衣でニコニコ笑うクソバカエルフのハカセ。クソバカエルフなんて名前の種族だが、実際はかなり賢い。ただ、陽気で無邪気で何段かカッ飛んだ思考ゆえ、その叡智を理解することは少々難しい。

「日が暮えゆ前にたどり着きたいゆ」
最後尾を歩くのは、ミスリル銀の保管箱を背負うズングリとしたポテサラエルフのポテチ。顎の力が弱く舌っ足らずで、ポテトサラダを主食とするエルフだ。

彼女たち3人は、細かい種族は違えど、ヒューマンならざる旅エルフである。引きこもりがちなエルフは時おり旅に出て、他のエルフとパーティを組み、外の世界の知識や文化に触れ、同時に自分たちが無害な隣人であるということを伝えているのだ。

「ポテチの言う通り、こんな山奥で野宿は勘弁してほしいぜ……ん?おお!村が見えたぞ!」
坂を登りきったメンマが目にしたのは、眼下に広がる広大な農地だ。中心には家々が集まる集落も見える。
「あれあれ!」
「今夜はゆっくり眠えそゆね」
後から続くハカセとポテチの顔にも笑顔が広がる。

まだまだ日は高い。ゆっくり歩いても日が暮れるまでには十分間に合うだろう。
「よっしゃ!行くぞ!」
「「おー!」」
3人は元気を取り戻してずんずんと山道を下っていった。

……3人が農地の村に着いたのは、ちょうど夕暮れ時だった。そんな3人に話しかけてくる青年が1人。
「おや?ワイン運びのお三方ですかな?予定では明日と聞いてましたが、少々早いお着きですな!」
青年は少し酔っているようだ。

「ワイン運び?」
メンマは首をかしげる。
「またまた、今年も上出来ですよ。どうですか?試飲でもなされていっては。さあさあ、どうぞこちらへ!」
青年は相変わらず勘違いしながら、3人を強引に酒場へ案内する。

「どうするよ?」
「んゆー……」
「ついてこついてこ!」
メンマとポテチは少し悩んだが、ハカセは即決だった。
「ま、ハカセがついていくっていうんなら」
「間違いないゆね」
クソバカエルフたるハカセの叡智はずば抜けており、ハカセの判断が間違ったことはあまりない。

「親方!一足早く運び手さんがご到着ですよ!」
3人を引き連れた青年が元気よく酒場に入ってく。
「おおう!来よったか!」
親方と言われた男は、たくましい肉体の豪快なヒゲ男である。
「どうぞどうぞ……んんん?おい!この方達は違うぞ。ただの旅エルフじゃねえか!」

「あれえ!?たしか今年の運び手は旅エルフの3人組だって……」
「ばかやろう。旅エルフ3人組でも男の3人組なんだよ。っとまあ、細かいことはまだ言ってなかったしな。勘違いするのも仕方ねえわい!ブワハハハ!」
親方は豪快に酒を煽る。どうやら、なかなかゴキゲンなようだ。

「そうそう、アタイたちはただの旅エルフ。偶然この近くを通りかかったんで寄ってみただけなんだ」
メンマは親方を見る。
「なるほど、偶然、か」
親方もメンマを見る。
「偶然なら仕方ねえよなあ!ブワハハハ!」
親方は豪快に笑う。
「ああ、しかたないだろ?キシシ!」
メンマもギザギザ歯をむき出しにして笑う。

親方はコップを3つ用意し、ワインをなみなみと注ぐ。
「今年の新酒がもうすぐ解禁するんだが、この時期に偶然やって来たお客様だ。一足先に”試飲”でもどうかね?」
「ヘヘ、待ってました!ハカセ、ポテチ、頂こうぜ!」
「んゆ!」
「うわーい!」
3人は遠慮なくコップを受け取る。

新酒というのはどこの世界でも希少価値があり、この地方でもそれは例外ではない。この農地で作られた新酒も、いくらかが都に運ばれて解禁日を待つことになる。しかし、それは表のルール。物好きたちの間では、原産地で”試飲”と称してこっそり先に飲むのは、よく知られた裏文化である。

流浪の民のクソバカエルフは、各地で様々な分化に触れてきた、生きた叡智だ。ハカセからこの話を聞いたメンマとポテチは興味を持ち、時期を見計らってわざわざ山奥の農地へとやってきたというわけだ。

……それから日が暮れるまで、3人は村人たちと”試飲”を堪能した。飲みながら聞いたところによると、明日は新酒が都に向かって運ばれるため、前夜祭のようなものだということだ。
「旅エルフさん!うちの名物はワインだけじゃないんだよ。来る途中にでっかい葉で埋め尽くされた畑を見たかい?」

「ああ、見たぜ。ありゃあブドウじゃねえよな」
「そう、あれはもう一つの名物、オオバタロイモさ」
「イモ!?」
イモという言葉にポテチが大きく反応して食いつく。
「そ、それは、ホテサラにすゆん???」
今日一番のキラキラした目で身を乗り出す。

「いや、ポテサラにはしないんだが……」
「しなんゆか……」
ポテチが目に見えてしょんぼりする。
「ハハハ、まあまあ。だが、味は確かだよ。その証拠にほら、あなた達がさっきから食べているそれ。オオバタロイモなんだからね」
「んゆ!?」

ポテチは目を丸くして、目の前に盛られているモチモチとした小さな粒粒を見つめる。
「こ、これがイモ……ポテチの知らないイモだゆ……」
「オオバタロイモはイモのままじゃ食べにくくってね。茹でて潰して濾し取って、あとはまあいろいろやるとモチモチした美味しい料理のできあがりっていうわけさ」

「んゆー……」
ポテチは粒粒をじっくり見る。その目つきは一気に鋭くなり、未知の料理を分析しようとする料理人の顔になった。
「オオバタロイモのこと、詳しく聞きたいんゆけど」
「お!いいよ。どうせなら作ってるところも見せようか?」
「お、お願いすゆ!」
ポテチはポテポテとキッチンに向かっていった。

「まったく、ポテチの料理好きときたら……」
「いつものことだよねー」
「そうだな!ハハハ!」
「あははー!」
残されたメンマとハカセはひとしきり笑うと、また”試飲”を再開した。

……そうこうしているうちにだいぶ夜も更けてきた。メンマとハカセは酒場の2階の部屋でくつろいでいた。
「よーし!酒もたっぷり堪能したし、あとは寝るだけってね。そういやポテチはどうした?」
ちょうどその時、部屋にポテチが帰ってきた。自分よりも大きな樽を抱えて持ってきた。

「今日のベッドは豪華だねー」
「ちょうどさっき空いた樽が借りられたゆ」
ハカセの言葉にポテチは頷く。ポテチが持ってきた樽の中には畑から借りてきた土が入っている。
「今夜はぐっすり眠れゆ……」
そういうとポテチは樽の中に入り、ズブズブと土に埋まっていった。

ポテサラエルフは大地の魔力と共に生きるエルフであり、寝るときは休耕中の畑に埋まることが多い。しかし、ブドウ畑にはずっとブドウの樹が生えており、オオバタロイモ畑は収穫直前という状況なので、樽のベッドを用意してもらったというわけだ。

「そんじゃ、アタイたちも寝るか」
「おやすみー」
メンマとハカセはそれぞれベッドに寝転ぶとランプを消した。

……それから少したった深夜。
「んゆ……」
ポテチが寝ぼけて目を覚ました。
「なんゆここ、外で寝ゆ……」
ポテチは、樽に残された酒の香りと寝ぼけの混合ぼんやり状態にあり、状況があやふやになっていた。

樽から這い出たポテチはそのまま樽をひょいと持ち、部屋を出て階段を下り、酒場の外に出た。
「おあー、みんなここにいたゆね……」
ポテチの目に入ったのは、3つの樽が置かれた酒置き場だ。
「ポテチもここで寝ゆよ……」

酒樽を仲間たちのベッドと勘違いしたのか、そのまま酒樽のそばに自分の樽を並べると、樽の中に潜って月明かりが入ってこないように蓋を締めた。
「スヤスヤ……」
すっかり熟睡してしまったポテチ。まさか翌日、あんなことになろうとは考えもしなかっただろう……。

……そして翌朝。
「た、大変だー!酒が盗まれたー!」
昨日の青年の大声が村中に響き渡る。メンマとハカセもその声で目が覚める。
「なんだなんだ、随分と騒がしいじゃねえか……あれ?ポテチどこいった?」
昨夜は樽があったはずの場所に樽がない。

「寝ぼけてお外にいっちゃったんだよ」
「ま、それなら問題ないな」
2人はとりあえずポテチと合流するために酒場の外に出る。
「おお、旅エルフのお方!これを見てください!」
昨日の青年が指差す先には、いくつかの樽が置いてあった跡があったが、残されているのはわずか1樽だ。

「どうか、盗まれたワインを取り戻していただけないでしょうか!?あれは都に届けるワインなのです!」
「待った待った!ちょっと状況がよくわからねえんだけど、詳しく説明してくれないか?酒ならまだ酒蔵にあっぱいあるんだろ?」
慌てる青年をなだめるようにメンマが制する。

「俺が説明しよう」
名乗り出たのは豪快な髭面の親方だ。
「確かに酒はまだ蔵に山ほどある。だが、盗まれたことってのが問題なんだ」
「密売されちゃう!」
ハカセが過程をすっ飛ばして結論を叩き込む。
「……まあ、そういうこった。それに、あの樽を調べればうちの村が罪に問われる」

「なるほどなあ……確かにそれなら取り戻さなきゃいけないってわけだ。そうと決まったら」
メンマは残された1つの樽に近づき蓋を開ける。
「ほら、ポテチ!そろそろ起きろ!……ってあれ?」
メンマが開けた樽にはワインがたっぷりと入っていた。
「ってことはもしかして……」
「ポテチ!盗まれた!」

「なんだってー!?」
驚くメンマに青年が説明する。
「今朝ここにあった樽は4つで、都には毎年3つの樽を届ける手はずになっていますから、もしかして、間違えてポテチさんが入っている樽を持っていったのかも……」
「こりゃあ、ちいとまずいことになったな」

エルフはヒューマンと比較すると全体的に生命力や戦闘力などは高い。しかし、ポテチはいつもの調理器具や道具などをすべてこの宿に置きっぱなしにしているのだ。いかにポテサラエルフとはいえ、装備品がなければ満足に魔法を使うことも難しい。

「ハカセ!ワインとポテチを探しに行くぞ!」
「ほーい!」
「親方!荷車を1台貸してもらえねか?」
「分かった!」
メンマは荷車にポテチの装備品一式を積み込む。ミスリル銀の保管箱は非常に重い。3人の中でポテチは一番の力持ちなのだ。そんな荷持を背負っていくのはメンマでも厳しい。

「どっこい……しょ!」
どうにかポテチの荷物一式を荷車に詰め込むと、メンマは緑色の札を2枚取り出した。
「ハカセ、魔力を頼む」
「ほいさ」
ハカセは緑の札にたっぷりと魔力を注ぎ込む。これはバンブーエルフの使うバンブー魔法の一つ、ゴシキノタンザクだ。

ゴシキノタンザクと呼ばれる5色の札は、それぞれ魔力を込めることで様々な効果を発揮する。しかし、メンマはこの魔法が大の苦手であり、ろくすっぽ魔力を注ぎ込むことができない。そこで、クソバカエルフのハカセから、クソバカエルフ特有の膨大な魔力を流し込んでもらうというわけだ。

メンマは一息ついてから呪文を唱える。
「ササノハサラサラゴシキノタンザク」
2枚の緑色の札は、それぞれ笹舟の形になり、同じ方法を指した。それぞれがポテチとワインの在り処を指し示す探知機となったのだ。同じ方法を指しているということは、ポテチがワインと一緒に盗まれたということである。

「待ってろよポテチ」
メンマとハカセは笹舟の指す方向に向かって荷車を引きながら走り出した!

……一方その頃、山奥の洞窟では!
「ここまで来れば一安心だ」
「へへ、こりゃあいい儲けになるぜ」
「どこに売りさばこうかねぇ」
3人の盗人たちがこれからの事を考えていた。
「しかし、どこにでも出回る酒がこの時期だけ何倍の値段になるってんだから、物好きはわからん」

「どこにでも物好きってのはいるもんさ」
盗人は盗品の実感を味わうように酒樽をノックする。
「この酒が俺たちの懐を暖めてくれるってわけよ……ん?なんだこの樽は?」
1人が違和感に気づく。
「どうした?」
「いや、この樽だけ音が妙だ」
3つのうち1つだけ、反響音がおかしいのだ。

「おい、開けてみろ」
「「おう」」
3人がそれぞれ1つずつ樽を開ける。
「なんだこりゃ!?土じゃねえか!!」
2つの樽にはなみなみとワインが入っていたが、残る1つの樽にはぎっしりと土が詰まっていたのだ。
「ええい!こんなもん金になりゃしねえ!」
「邪魔だ邪魔だ!捨てちまえ!」

3人は土がぎっしり詰まった樽を持ち出すと、そのまま川に向かって転がした。樽は勢いよくゴロゴロと転がり、そのまま川に着水!プカプカと浮きながら川を流れていった。
「くそ。取り分が減っちまったな」
「まあいいさ。荷物も軽くなったってことで。明日にでも山を降りてさっさと裏に流しちまおう」

盗人たちに捨てられた樽は、どんぶらこっこと川を流れる。
「た、大変な目にあったゆ……」
樽から顔を出したポテチは、広い川のど真ん中を流れる自分の状況を理解した。
「どうすゆ……」
周りを見るも、掴まれそうな木や岩はない。川の流れはそれなりに早く、樽を操縦することも難しい。

「んゆゆゆ……んゆ?」
困り果てたポテチに、さらなるピンチが襲いかかる。
「こ、この音は……」
川下からドドドドと勢いのある水音が聞こえてきたのだ!
「た、滝だゆ!!」
水音からして滝の高さはかなりのものであり、樽のまま落ちれば無事では済まないだろう。

「どうすゆどうすゆどうすゆどうすゆ!!」
慌てふためくポテチだが、どうしようもない。いや、一つだけ頼みの綱があった。
「こえは!」
ポケットに入っていたのはオオバタロイモの種芋だ。もはや、急速ポテト成長魔法に賭けるしかなかった!

「頼むゆ!ムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャ」
ポテチはヒューマンには聞き取れないムニャムニャ声を出しながらオオバタロイモの種芋に魔力を注ぎ込む。樽の中の土だけでは養分が不足しているので、足りない分は自分のカロリーを魔力に変換して補う!

オオバタロイモに魔力が注ぎ込まれ、芽が出て茎が伸びてきた。だが、滝は目の前に!間に合うのか!?
「ムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャ!」
ポテチが一心不乱に呪文を唱え続ける。だが、しかし、ついに滝に樽が落ちる!

その時だ!樽をぶち破ってオオバタロイモが爆発的に成長!その巨大な葉っぱがパラシュートのようになり、ゆっくりと降下する!根っこにしがみつくのはカロリーを消費してげっそりとしたポテチだ!
「や、やったゆ……」

オオバタロイモの葉は非常に頑丈で、布の代わりに使われることもある。そういった話を聞いていたポテチは、一か八かのふわふわ落下に賭けたのだった。
「とりあえずこれで安全……ゆ?」
どうにかなったと思った矢先、オオバタロイモの葉がギシギシと不穏な音を立て始めた。

高度はまだ滝の中腹あたり。このままではまずい。
「もうちょっと!もうちょっとがんばゆ!がんばゆー!」
だが、ポテチの応援虚しく、オオバタロイモの葉は重さに耐えきれず、バリィッ!とダイナミックな音を立てて破けた!
「ゆーーーーーーーー!」

滝壺に落下したポテチは死を覚悟した。
(もうダメゆ……)
しかし、エルフの女神はポテチを見捨てていなかった。
(ゆ?なんゆ?)
ポテチを滝壺から救い出す者あり!
「ぶはあ!おい!大丈夫か!しっかりせい!」
ポテチを助けたのは、わかめのような黒いウェーブ髪の男エルフだった。

「た、助かったゆ?」
「おう、ワシぁ、わかめエルフのサンリクじゃあ」
サンリクと名乗ったわかめエルフは、驚くことに下半身が魚のようになっている。わかめエルフも旅エルフの一種であり、彼らは普段は海辺に住んでいる。

わかめエルフはわかめと共に生きるエルフで、海水に体温を奪われないように全身に脂肪をまとう。しかし、それはただの肥満体型ではない。荒れ狂う海を泳ぐための筋肉を内包した、強靭な肉の鎧なのだ。また、下半身を魚形態に変身できる彼らにとっては、滝壺で泳ぐことなど造作もない。

「しかし、まさか滝からエルフが落ちてくるとはワシも驚いたぞ」
「これには事情が……」
「ま、なにはともあれ陸にあがってからじゃ」
サンリクは変身魔法を解いて足を二足形態にすると、ポテチを抱きかかえて川べりに出た。
「おーい!モロカイ!風をくれえい!」

「アローハ!了解!」
モロカイと呼ばれた男エルフは健康的に日焼けした肌とウェーブがかった金髪を持つパームエルフだ。浜辺で生きるパームエルフは風と波を操る魔法を使う。
「南国の風をそうれっと」
モロカイが踊るように腕を動かすと、どこからともなく暖かい風が吹き、ポテチを乾かしてく。

「ありがとゆ……」
感謝の言葉を述べるが、ポテチはまだ元気がない。先程の魔法でカロリーを一気に消費してしまい、ヘロヘロもいいところなのだ。そんなポテチに声をかけたのは、もうひとりの男エルフだ。
「ポテサラ食べゆ?」

ポテチにポテサラを差し出したのは、男ポテサラエルフのノリシオだ。
「た、食べゆ!」
ポテチは差し出された山盛りのポテサラをもりもりと食べる。
「同族のよしみ。どんどん食べゆ」
ノリシオは追加のポテサラを作っては差し出していく。
「ありがたいゆ……!」

……しばらく黙々もぐもぐしたポテチは、元のずんぐりとした体型を取り戻した。
「ごちそうさまゆ。うまかったゆ……」
「喜んでもらえて何より」
「で、どうして川を流れておったんじゃ?」
「それは……」
ポテチは昨日のことから盗まれたことまで一通り話した。

「ふむ、なるほどのう。こりゃあワシらにも関係のある話じゃ」
「どういうことだゆ?」
「ワイン運びはワシらが受けた仕事じゃ。ちょいと道に迷って時間を食っとるうちに、そんなことになっておったとは」
「ボクたち、水がないと本領発揮できないからね。ハハハ」
モロカイは爽やかに笑う。

「笑ってゆ場合じゃないゆが」
ノリシオがモロカイを小突く。
「おっと失礼。でも、もう迷わなくてすむ」
モロカイは滝を見上げる。
「ああ、そうじゃな」
サンリクも同じく滝を見上げる。
「もしかして、滝を登ゆ……?」
「ああ、そうじゃ」


確かに、滝を登れば盗まれたワインにたどり着くことができる。だが、この滝をどうやって登るというのか?ポテチの疑問が大きくなる。
「なあに、うねうね曲がる海流にくらべりゃあ、まっすぐ落ちてくるだけの滝なんぞ、大したことないわ!」
「そうそう、こんなに乗りやすい波もないってね」

「ワシぁ、一足先に登っとるぞ!」
サンリクは川に飛び込むと変身魔法で足を魚形態に変化させ、一気に滝に突っ込む!そしてそのまま滝を逆流して登っていくではないか!
「それじゃ、ボクたちも行こうか」
モロカイはいつの間にかサーフボードを手にしていた。
「ふたりとも、しっかり捕まってね!」

サーフボードに乗ったモロカイに言われるがまま、ポテチとノリシオはモロカイの足にしがみつく。モロカイは腕の動きで風と波を操る魔法を使う。ここは滝壺。モロカイにとっては水しぶきが空中に舞う絶好のサーフスポットだ。
「行くぞ!アローハ!」

モロカイが両手を動かすと、風と水しぶきに乗ってサーフボードが空を走った!まるで見えない波に乗っているかのように、ぐんぐんと滝を登りサンリクと合流!
「全員揃ったのう。行くぞ!」
「案内ヨロシク!」
「んゆ!」
そのまま4エルフたちは川を登っていく!

……一方その頃、メンマとハカセは迷っていた。それもそのはず、ポテチを指す笹舟とワインを指す笹舟が別の方向を指していたからだ。しかたなく2人は両方の笹舟が指す方向の中間を目指して歩いていた。
「間を取って進んできたはいいものの、完全に獣道じゃねえか……」

「だいじょぶだいじょぶ!あってるあってる!」
こんなときでもハカセは動じない。脳内でどのような高度な思考が巡っているかは不明だが、少なくとも不安に思うことはないと結論は出ているのだ。
「そうは言ってもなあ……お!笹舟が動いたぞ!」
メンマの持つ笹舟の片方に急激な動きがあった。
「ポテチだ!行こう!」
ハカセが急かす!
「ああ!」
メンマも2つ返事でついていく。ハカセが行動に起こしたということは、その方向に何かがあるということだ。ガタガタの山道だったが、台車をどうにか引っ張ってポテチの方角を目指した!

そして、メンマとハカセはとうとうポテチを見つけた。
「おーい!ポテチー!」
川を上るポテチたちに声をかけるメンマ。
「メンマー!ハカセー!」
ポテチも返事をする。
「荷物だよー!」
ハカセがポテチの荷物一式を力いっぱい放り投げる!
「んゆう!」
ズドンと受け取るポテチ!

「おおっと!」
サーフボードのバランスが崩れそうになるが、すぐさまモロカイが立て直す。そのまま6エルフは川をさかのぼりながら状況を整理した。
「話は大体わかった!ポテチを助けてくれてアリガトな!」
「なあに、礼にはおよばんわい!ワシらの到着が遅れたのがそもそもの原因じゃあ!」

「とにかくこのまま洞窟に突っ込んでワインを取り戻すんじゃ!」
「おう!」
こうして即興の6エルフチームが誕生し、ついに盗人たちの洞窟の目の前までたどり着いた。

「ワシらは外で見張っとる」
「ボクたちは狭い洞窟だとあまり動けないからね」
「安心すゆ。盗人でてきたら捕まえてマッシュすゆ」
男エルフ3人は洞窟出口から少し離れたところで見張る。
「おっし、それじゃあアタイたちは乗り込むぞ」
「んゆ」
「ほーい」
エルフ三人娘は洞窟に突っ込んだ!

「こら!盗んだワイン返せ!」
真っ先に啖呵を切ったのはバンブースピアを構えたメンマだ!
「くそ!見つかったか!」
「外が騒がしいと思ったが……」
「ええい!こうなりゃ裏から逃げるぞ!」
盗人3人はワイン樽を積んだ荷車と一緒に洞窟の奥へと進む!

メンマたちがすかさず追いかける!
「逃がすかよお!」
「逃げるんだよぉ!」
盗人たちの1人が謎の小瓶を地面に叩きつけた!するとなんということか、割れた小瓶の中から滲み出た液体が地面に染み渡り、スライム状のモンスターとなったのだ!
「ヌバアアアアア!!!!」

「いまのうちだぜ!あばよ!」
盗人たちは洞窟の奥へと逃げおおせた!
「まずいな……」
3人は立ち止まる。すんなりと奥に行かせてもらえるような状況ではない。なにより、このモンスターを放っておけばワインの村に被害が及ぶかもしれない。
「こいつはここで倒すぞ!」

メンマがバンブースピアで連続刺突!
「ハイヤー!」
だが、スライム状のモンスターにはまるで効いていない。
「やっぱダメか!」
スライムが形を変えながら前進し、メンマたちを叩き潰そうと襲いかかる!
「ヌバアアア!!」
「うわ!」
「んゆゆ!」
「おわーお!」
3人は逃げるので手一杯だ!

「ハカセ!どうする!」
こういう時に頼りのなるのは、森の賢者クソバカエルフの叡智だ。
「にげよー!」
「わかった!」
「うんゆ!」
3人はとにかく逃げた!どうにかスライム状モンスターの攻撃をかいくぐりながら、とにかくに逃げまくった!……そして、ついには洞窟の外まで逃げた!

しかし、洞窟から出てきてもモンスターは元気いっぱいだ。
「ヌバアアアア!!」
「さあて、ハカセ、作戦は?」
「コアを叩くんだよ!」
メンマがモンスターを見る。
「……あれか!」
洞窟の外に出たことによって明るくなり、見えにくかったコアがはっきりと見えるようになったのだ。

だが、依然としてバンブー武器が通用しないことには変わりない。バンブー武器は素早い斬撃や刺突が主な攻撃方法だが、一撃は軽い。スライムを突き破ってコアまでダメージを通すには、重さが足りないのだ。

「ヌバアアアア!!」
スライム状モンスターが触手のように形を変形させて襲いかかってくる。
「ハイヤー!」
メンマはこれを竹光で切り落とす!今この場において、バンブー武器は攻撃には向かないが、強力な防御手段ではある。
「ハカセ!あいつ吹っ飛ばせるか?」

「んー、ダメ。山がダメになっちゃう」
クソバカエルフたるハカセは、その溢れんばかりの魔力を放出することで無差別攻撃ができる。しかし、先ほどの入り組んだ洞窟を見たハカセは、ここでぶっ放せば山が崩れるであろうことを理解していた。

「ここはポテチにまかせゆ」
ポテチが武器を握りしめる。それは、ポテトを潰す調理器具によく似た杖であり、同時に、鈍器でもある。
「メンマ、強化魔法で一気に潰すゆ」
「なるほど!あれか!」
メンマは片手で竹光防御を続けながら、もう片手で黄色の札を取り出した。
「ハカセ!頼む!」

「ほい!」
ハカセは黄色い札に魔力を注ぎ込む。
「任せたぞポテチ!ササノハサラサラゴシキノタンザク!」
メンマは魔力の詰まった札をポテチに貼り付ける。一時的に肉体をパワーアップさせる強化魔法だ!
「んゆー!」
金色の魔力をまとったポテチはそのままスライム状モンスターに体当たりをぶちかます!

ポテサラエルフが使う魔法は、主にポテト急速成長魔法と、物をグズグズにする魔法がある。無論、最初から柔らかいスライム状モンスターにはグズグズ魔法の効果は皆無だ。……だが、もしその一撃がコアまで届いたとしたら!

「ヌバアア!!」
ポテチの体当たりでスライム状モンスターのスライムが吹き飛び、硬いコアが顕になった!
「マッシュすゆ!」
ポテチ渾身の一撃がコアに叩き込まれる!同時にグズグズ魔法が炸裂し、スライム状モンスターのコアはグズグズに崩れ去った!
「ヌバアアアアアアアア!!」

「やたっぜえ!」
メンマがギザギザ歯を剥き出しにしで大きく笑う。
「ポテチすごーい!」
ハカセも両手を上げてよろこぶ。その時だ。
「うわああああ……」
少し離れたところから、先程の盗人たちの悲鳴が聞こえてきた。

入り組んだ洞窟というのは、多くの場合水脈につながっている。であれば当然、わかめエルフたちの庭のようなものだ。盗人たちが逃げられるわけもない。
「どうやらあっちもうまくいったみたいだな」


……その日の夕暮れ、村には6人のエルフと盗まれた酒樽が帰ってきた。
「おお!取り返してくれたのですね!」
青年がみんなを迎え入れる。
「それで、盗人たちは?」
「いやあ、それが……」
「すまん!ワシらが油断したのが悪かった!逃してしもうた!」
サンリクが頭を下げる。

それは、スライム状モンスターを倒してから6人が合流したときのことだった。きっちりと縄で縛っていたはずの盗人3人が、少し目を離したスキに逃げ出していたのだ。
「あやつら、思っておったより抜け目ないやつらじゃったわ」
「でも、まあ、ボクたちに懲りたら、当分悪さはしないんじゃあないかな?」

モロカイは爽やかに笑う。浜辺の民であるパームエルフは全体的におおらかというかなんというか、細かいことを気にしない者が多い。
「こら、ちゃんと謝ゆ」
ノリシオがモロカイを小突く。
「おふっ。すみませんでした」
ノリシオも深々と頭を下げる。

「ブワハハハ!まあまあ、そっちのパームエルフさんが言う通り、きっちり懲らしめてくれたんならもうバカなことはしねえだろう!なにより、酒もアンタたちも無事に帰ってきたんだ!よかったってことよ」
親方は豪快に笑う。

「さ、せっかくおいでなすってくれたんだ。どうです?運び手のご三方も、一つ”試飲”なさっていきませんか?」
親方がニヤリと笑うと、サンリクたちもニヤリと笑った。
「せっかくのおさそうじゃ。断るのも失礼じゃしのう!」
「ボクも気になってはいいたんだけどね」
「ノリシオも飲みたいゆ」
その晩、6人のエルフたちを迎えた試飲会はたいそう盛り上がった。

……そして翌日。
「それじゃあ、ワシらは川を下って都にゆくぞ」
「樽ごと川を下るのってのか?」
「それが速いんじゃ」
「なるほどねえ」
竹で高速移動するバンブーエルフのように、わかめエルフは水で高速移動するのだ。

「ノリシオのポテサラ、うまかったゆ」
「ポテチのポテサラもおいしかったゆ」
ポテチとノリシオはお互いのポテサラを振る舞いあっていた。同じポテサラエルフでも、住む場所や集落によって味は違う。そういった物を知るのも、旅エルフの目的だ。

「それ、いーね!」
ハカセはモロカイの持つサーフボードを指差す。
「いいだろ?ボクの手作りさ。見てみるかい?」
「見る見る!」
ポテチはサーフボードをじっくりと見る。話に聞くのと実物を見るのでは、得られる知識は段違いだ。ハカセはしばらくサーフボードを見ると、メモを一緒に返した。

そのメモには、いくつかの改造案が書き記されていた。
「もっと速くなれるよ、たぶん!」
「アローハ!こいつはありがたい!後で試してみるよ」
パームエルフのサーフボードは1つ1つが使い手に合わせて作られている。ゆえに、慣れてくると大胆な改造を避けるようになり、変化しなくなる。

そんなときでも、外部からの知恵を受け入れることでパームサーフボードはさらなる変化を取り込むことができる。引きこもりがちなエルフにとって、やはり外部との交流は重要なのだ。

六エルフは各々の別れを済ませると、それぞれの方向に向かって村を離れた。男たちは都を目指して川下り。そして三人娘たちはというと……。

「山のてっぺんまで来たはいいけど、こっからどっちに行く?」
「このまま北に向かっていくのはどうかゆ?」
「北国!雪国!」
「雪か、そういやまだ見たことなかったな」
三人は思い思いの雪国を想像した。
「よーし、それじゃあ次は雪国へ出発だあ!」
「「おー!」」
三人のエルフの旅はまだまだ続く!
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