星幽のワールドエンド(第一章完)

白樹朗

文字の大きさ
上 下
1 / 31
ワールドエンド邂逅編

プロローグ

しおりを挟む
 金色の雪が落ちてくる。

 いや、雪ではない。寒さも、暑さも、歴史も、未来さえ既に過去のものだ。
 黄金の羽根が、光どころか暗闇さえも去った虚無の終わりに降っている。
 無意味となった光の残り香が、ただうつくしく、それだけだった。


 ──願いを。願いを。願いを願いを願いを願いを寄越せ。


 ああ、面白い。
 こんな、世界の骸さえ残らない無極の中で、願い乞えとのたまうその尊大さが。

 愉快で愉快で、面白い。だが、同時に、こいつらしいとも思う。
 誰よりも傲慢で、不遜で、わがままで、だが憎めなかった。
 血の雨の下でも、息の焼ける炎の中でも、文明の欠片さえ残らない荒野でも変わらずに輝いていた赤を。
 すべての終わり、願いの塵となった今でさえすこしも憎めない。
 いとおしく、懐かしいとさえ思う。
 目の前にいる、子守の童話で語られてきた、破滅の鳥を。

 それは金色の羽根、赤い瞳、龍のような鳥のような無限の体躯をした黄金の破滅であり、もっとも聞き慣れた、うつくしい女の声で歌っている。
 何もない世界で、幼子をあやす子守唄のように。

 ──我に願いを。願いを捧げよ。願いを願いを願いを願いを。万物の願いを我が舌の上に。


 万物とは大きくでたな、と苦笑したが、なるほどこいつの姿を見れば納得もする。

 うつくしい。
 うつくしいという他ない豪華絢爛な黄金の輝き。
 
 破滅のかたちをした願望器。
 人類がその歴史上、血で血を洗い求め狂ってきたものの全てがここにある。
 狂気の原子がここにある。
 ならば、滅ぼされても許すしかないじゃないか。
 だって、こんなにもうつくしいのだから。
 ――例えそれが、ワールドエンド、世界の終わりだとしても。

「……願いってわけじゃないけど」

 昔、同じことを言っていたバカがいた。
 こんなにも綺麗なのだから、世界ぐらい滅ぼしても許されるんじゃないかな、と。

 当時はふざけるなと思ったものだが、今ならわかる。
 世界ぐらい、終わっても仕方ない。

 文明を、人類を、万物の願いをくべてこの煌めきが増すのならば、それこそが真の幸福の成れの果てだ。

「お前と友達になれてよかったよ。レイゼル」

 赤い瞳が、虹色に閃く。
 永劫を殺す音がした。



 /*/



 運命に踏まれた時、如月至恩はまだ子供で、十三歳だった。 

 それを、今は懐かしく思う。

 運命は、銀髪で、赤い瞳をした、かわいい女の子の姿をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

王妃の鑑

ごろごろみかん。
恋愛
王妃ネアモネは婚姻した夜に夫からお前のことは愛していないと告げられ、失意のうちに命を失った。そして気づけば時間は巻きもどる。 これはネアモネが幸せをつかもうと必死に生きる話

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...